表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い影  作者: もんじろう
9/18

9

 そうかもしれない。


 それは正しいだろう。


 だが私は、そうでなければ気が済まない。


 彼女の全身全霊をもって私を愛して欲しいのだ。


 私はあらゆる努力をし、妻を愛した。


 そうすれば妻も私を愛してくれると信じた。


 いつか必ず、妻の愛が私と同じものになるであろう瞬間を待ち焦がれた。


 が、その日は、なかなかやって来なかった。


 妻は映画が好きだった。


 それも昔のもの、白黒のモノクロ映画を好んで観たがった。


 私はどうもその魅力が分からず、いっしょに観ることはしなかったが(彼女が映画を観る時間だけが、私が妻のそばに居づらくなる時間だった)少しでも彼女のご機嫌取りをしたい気持ちから、屋敷の中にミニシアターを作った。


 このときは、いつもはぎこちない妻の笑顔が柔らかく感じられ、私は2、3日は有頂天になったものだ。


 しかし、妻がモノクロ映画をその部屋で度々、観るようになると、何やら苦々しい思いになり後悔した。


 特に妻が好きな美男子の映画俳優が居て、その作品を繰り返し観ていると知ったときなどは、自分で自分の首を絞め殺したくなりさえした。


 そう、私は何十年も前の、もはやこの世に居ないモノクロ映画の俳優にさえ嫉妬しているのだ。


 あるときなど、もう少しでその俳優の映像を妻の目を盗んで、全て消去しようとさえ本気で悩んだのである。


 妻の現在の私への愛情を失うのが怖くなり、実行には移せはしなかったが。


 とにかく、私の生殺しのような日々は続いた。


 1ヶ月ほど前から、妻の様子が明らかにおかしくなった。


 ただでさえ満足できない私への愛情が、目に見えて薄まり始めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ