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それが今、はっきりと解った。
「その男を殺して」
妻が言った。
淡々とした、それでいて力強い声。
黒い影が動いた。
私の両腕を掴んでいた影の腕が左手だけになった。
だが、その手は私の両手首をがっしりと握り、びくともしない。
影の空いている右手が私の首へと伸びてきた。
私の喉を、ものすごい力で絞め始める。
黒い影の顔の部分の煙が晴れ、中から人の顔が現れた。
あの顔だ。
妻が観ていたモノクロ映画の俳優の美しい顔。
私の脳裏に探偵社の報告書が浮かんだ。
妻は子供の頃、亡くなった自分の父親を呼び戻せると言っていた。
「そうなると、もう超能力か霊能力か分からなくなってしまいますよね」
所長の言葉。
妻は頭の中の妄想の男と逢瀬を重ねていた。
いや、その相手が本当に存在していたとしたら?
妻の両眼が私への憎しみで爛々と輝いている。
この輝きかたは異常ではないだろうか?
人間の眼が、こんなに真っ赤な光を放つものだろうか?
妻は亡くなった父親の霊魂を本当に、この世に呼び出せたのだろうか?
それとも妻の父親恋しさが募った果てに特殊な超能力によって想像したものが、この世に具現化したというのだろうか?
今、私の首を絞め、確実に死へと向かわせる映画俳優の黒い影は、すでに死んでいる彼の霊魂なのか?
それとも、妻が自分を物のように金で手に入れた醜い夫と共に生活する地獄の毎日から心だけでも逃れるために造りだした、好きな映画俳優の姿をした妄想の恋人が超能力によって具現化しているのだろうか?
私には、その真相を解き明かすことは出来ない。
何故なら、黒い影が私の首の骨を怪力によって、いとも簡単に折ってのけたからだ。
私の人生は終わった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(T0T)
大感謝でございますm(_ _)m
面白く仕上がったと思います(☆∀☆)←手前味噌(笑)