15/18
15
ドアを開け、中に入るとやはり妻はあの俳優のモノクロ映画を観ていた。
何という、いけ好かない顔だ。
世の中の美男子が全て消えて無くなれば良いのに。
妻は私を振り返りもしなかった。
映画のせいだ。
この俳優が、いつもはかろうじて妻が私に見せる愛情の欠片さえも奪ってしまっているのだ。
私が妻を想うのと同等の愛を私に持っていれば、こんな態度にはならないはずだ。
私は妻の横へと移動し、そのかわいい顔を見つめた。
彼女はスクリーンに映る美男子に没頭し、キラキラと輝く瞳で追い続けている。
子供のような表情で夢中になっている。
私には、ついぞ見せたことのない温かい可憐な笑顔だ。
それを見て私は、はっとなった。
もしや、妻の頭の中に居る浮気相手とは、このモノクロ映画の俳優なのではないか?
そう思うと腹わたが煮え繰り返り、全身を引き裂かれるような気持ちになった。
私の中の何かが音を立てて崩れた。