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私は書斎で1人、妻に関する調査報告書を置いた机を前に椅子に腰かけていた。
もう、夜の10時を回っている。
私が妻を初めて見たのは学生時代の友人の1人、華道家の三島が主催するパーティーだった。
私が大学を卒業し、父の会社に入社したばかりの頃だ。
自分で言うのも何だが、父が大きな建設会社を経営しており、私の家は裕福だった。
幼いときから何不自由なく育った私は就職の苦労も知らず、会社の重要なポストに、いきなり就任できる「お坊ちゃん」という身分だ。
私は、そのことに何も引け目を感じていなかった。
自分では何も成し遂げてはいないのに、親の威光でちやほやされるのも何ひとつ疑問に思わない。
それが当然だ。
自分は選ばれた者なのだ、と。
今思えば、恥ずかしいほどの傲慢さで、ふんぞり返っていた。
まあ、あれから4年が経った今でも、私が自分1人の足で地に立ち生活し子供のようなワガママを言わなくなったのか?と問われれば、なかなか「はい、そうです」と頷けるほど精神が成熟したとは、まったく思えないのではあったが。
現実に目の前の机の上にある、妻の素行報告書を読み、彼女に対して激しい怒りを感じている時点で私の器は、その辺の男たちに比べても小さいと言えるのではないだろうか。
話を戻そう。