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怪奇日食  作者: 燦々SUN
6/7

災来

 なぜ、なぜだ。なぜ、また…………


 頭の中で、意味もない疑問の羅列が浮かんでは消える。

 全身からスーッと熱が引いていき、あらゆる感覚が遠ざかっていく。

 頭の中には、かつて見た真顔、真顔、真顔…………


「っ!」


 酷く、気分が悪い。今にも吐きそうだ。


「かいきにっしょくってな~に?」


 どこか遠くで、娘が無邪気にそう尋ねている。

 それに、妻がにこやかに答える。


「お日様がね、お月様に隠れて見えなくなってしまうことよ」

「おひさまが……かくれる?」

「そうよ、だからお昼なのに夜みたいに暗くなってしまうの」

「ホントに? すご~い!」


 何気ない親子の会話。

 だが、俺にはそれを微笑ましく見ていることなど出来はしない。

 なぜなら……


「ママはみたことあるの?」

「あるわよ。とってもステキよ」

「そうなんだぁ、たのしみ~」


 妻は、そちら側(・・・・)だからだ。


「パパは?」


 娘が罪のない笑顔を浮かべて、こちらを振り向く。

 思わずビクッと震えながら、俺は現実感が急激に戻って来るのを感じた。

 俺は娘に向かって必死に笑顔を浮かべると、殊更に明るく言う。


「もちろんあるぞ。すごいから楽しみにしてな」

「うん!」


 目を輝かせて頷く娘に、俺は笑みが引き攣らないようにするのに必死だった。


 どうすればいいのか。


 妻は、間違いなく娘に日食を見せようとするだろう。

 そして、それを俺が阻止しようとすれば、妻はきっと俺が見ていな(・・・・)いこと(・・・)に気付いてしまう。

 それはダメだ。


 だが、ならば何か(・・)が起きる。そう分かった上で、娘に皆既日食を見せるのか? それは出来ない。

 今回も、そうなるかは分からない。

 だが、そうなる可能性は大いにある。


 見たからといって、何が起きるのかは分からない。

 見た人間も、見ていない人間と関わらなければ普通の人間と変わらないからだ。

 だが……もしかしたら、娘が別の何かに変わってしまうかもしれないのだ。それは看過出来ない。絶対に。


 あぁでも、もういっそ、娘と一緒に俺も見てしまおうか?

 そうすれば、もうこんな風に苦しまずに済む。

 いつ身近な人が変貌するか怯えることも、ふとした瞬間に猛烈な孤独感に襲われることもなくなるのだ。


 そうだ。

 たかが皆既日食を見るだけじゃないか。

 一体何をそんなに警戒することがあるのか。


 そんな風に笑い飛ばそうとしても、なかなか上手くいかない。

 見た瞬間に自分が変わってしまうのではないかと思うと、酷く恐ろしい。

 もしかしたら、見た瞬間に今ここにいる俺は死に、別の誰かがこの体に乗り移ってしまうのではないか。

 そう考えると、体の震えが止まらなくなる。


(俺は……どうしたら……)


 楽しげに話す妻と娘を、表面上は笑顔で見守りながら。

 俺は娘と自分のためにどうすべきか、それをひたすら考え続けていた。

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