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怪奇日食  作者: 燦々SUN
5/7

平穏

 ── 13年後



「ただいま~」


 玄関のドアを開けつつそう声を掛けると、すぐにリビングへと繋がるドアが開いた。


「おかえりなさい、パパ!」

「おかえりなさい、あなた」

「おう」


 パタパタと駆け寄ってくる愛娘を抱き上げつつ、リビングから顔を出した妻に笑顔を向ける。


 仕事終わりの俺を迎えてくれる、妻と娘。

 愛する2人の笑顔を見ているだけで、俺は一日の疲れが溶けていくのを感じた。




 13年前に祖父母の家を飛び出した後、俺はしばらく日雇いのバイトで食い繋ぎつつ、ネットカフェで寝泊まりする生活を送っていた。

 祖父母の一件やネットでの情報から、見ていないこと(・・・・・・・)は誰にも知られてはいけないのだと学んだ俺は、それ以来、一切そのことには触れないようにした。


 そんな風に自分を偽りつつ、新天地でフリーター生活を続けること数年。

 やがて、あるバイト先で働きぶりが認められ、正社員として雇ってもらえるようになった。

 その数年後に職場の後輩と結婚し、2年後に娘が生まれた。

 あれ以来、家族とは一切連絡を取っていないが、俺は新天地で新しい家族を手に入れた。


 1つ年下の少し気が強い妻と、6つになったばかりの可愛い盛りの娘。

 2人の最愛の家族が待つこの小さなマンションの一室が、俺の手に入れた安息の地。

 これが、今の俺の平凡でありながらも幸福な生活だった。


「きょうはパパのすきなハンバーグだよ」

「そっかぁ、嬉しいなぁ」

「あのね、わたしもおてつだいしたの!」

「おぉ! そうなのか、楽しみだなぁ」


 今では、あの真顔を思い出すこともだいぶ減ってきた。

 妻と結婚する前は、週に一度は夢の中に家族や友人達の真顔が出て来て飛び起きたものだが、今ではそういったこともなくなった。


 願わくば、このまま平穏な日常が続きますように。

 もう二度と、理不尽に日常が破壊されるようなことがありませんように。


 そう、心から願う。


「いっただっきまぁ~す」

「ふふっ、いただきます」

「いただきます」

「おいひぃ~」

「こらこら、飲み込んでからしゃべりなさい」

「ほめんなはい」

「いや、だから……」

「ははは、まあいいじゃないか」


 それだけ。


 望むことは、ただそれだけだったのに。


 あぁ…………


『続いてのニュースです。来週9日の土曜日に、日本で13年ぶりとなる皆既日食が観察されることが、気象庁の発表により分かりました』


 悪夢が、再来した。

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