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怪奇日食  作者: 燦々SUN
1/7

笑日

 その日、俺はコンビニバイトの夜勤明けで疲れ切っており、自室で昼日中から惰眠を貪っていた。

 カーテンを閉め切り、まだ小さい妹に邪魔されないようドアの鍵も閉めて、夕食まで思う存分昼寝をするつもりだったのだ。



 ────っ! ────っ! ────っ!!



 不意に、何かの声で俺は目を覚ました。

 窓の外から聞こえる声……これは…………笑い声だ。

 しかも、1人や2人じゃない。外から少なくとも5人以上の笑い声が聞こえる。


(なんだよ……大音量でテレビでも見てんのか? 隣の家にまで聞こえるとかどんだけだよ)


 恐らく隣の家から聞こえているのだろうと思い、安眠を妨害された不快感を感じながらも、俺は布団を頭までひっかぶって再度眠りに就こうとした。

 しかしその時、一階から俺の自室がある二階へと、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。そして──



 トントントン



 部屋に響いた軽いノック音に、俺は布団から顔を出した。


(なんだよ……もう晩飯か?)


 俺の体感ではまだ寝てからそんなに経っていないが、家族が起こしに来るとしたらそれくらいしか考えられない。

 そう考え、寝惚け眼で枕元の時計に目を遣るが、時刻は午後4時8分。予想通り、まだまだ早い時間だ。


『お兄ちゃん! 太陽がすごいよ!』


 その時、ドアの向こうから妹のはしゃいだ声が聞こえた。

 どうやらノックの主は小学3年生の妹らしい。


(太陽……そう言えばなんかあったような……)


 ぼんやりとそんなことを考えるが、どうにも思考がまとまらない。

 脳がまだ睡眠を欲している。


 俺は妹の声を無視してもう一度布団をひっかぶると、昼寝を続行することにした。

 しかし、それは先程よりも大きく響いたノックの音によって遮られた。



 ドンドンドン!



孝一こういち! ちょっと見てみなさい、皆既日食よ!』


 その母の言葉で、俺は今日皆既日食が起こると言われていたことを思い出した。

 そう言えば何日か前のニュースで、日本では十何年ぶりに、しかもほとんど日本全国で皆既日食が見られると報道していて、母と妹はそれを見てずいぶんと楽しみにしていたのを覚えている。


 と言っても、俺は特に皆既日食には興味がなかった。

 何より今は眠い。花より団子、日食より昼寝だ。


 しかし、ノックは更に激しくなる。



 ドンドンドン!!



『起きろ孝一! 皆既日食だぞ!!』


 ドア越しのその声に、俺は強烈な違和感を覚えると共に、今度こそ完全に意識が覚醒した。

 ベッドの上で上体を起こし、激しく叩かれているドアの方に目を遣る。


 今の声は、父のものだ。

 だが、おかしい。

 父は俺と同じで皆既日食に興味がないような素振りをしていたし、そもそも普段寡黙な父が、こんな風に興奮したような声を出しているのは今まで聞いたことがない。


 何かがおかしい。


 そう思う間にも、ドアを叩く音はますます激しくなり、俺は徐々に恐怖を覚え始めた。


『起きて! お兄ちゃん!』

『早く外を見なさい! 日食が終わっちゃうわよ!?』

『まだ寝てるのか!? 早く起きろ!!』



 トントンドンドンドンダンダンダンガンガンガンガン!!!!



 今にも壊れそうなほど激しく揺れるドアに、明らかに尋常じゃない様子の家族。

 俺は猛烈に背筋が粟立つ感覚を覚え、危機感の命ずるままに叫んだ。


「分かった! 見るよ!!」


 そう怒鳴り返すと、ノックも声もピタリと収まった。

 俺はそれに少しだけホッとしつつ、しかしカーテンは開けずに、頭から布団をひっかぶった。


 だが、今度は突然、少し離れたところから家族3人の笑い声が上がった。


「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 心臓が、跳ね上がった。


 声の位置からして、恐らく、廊下の端にある窓から外を見ているのだろう。

 だが、日食を見て歓声を上げているにしては、その声はあまりにも異様だった。

 まるで、何かタガが外れてしまったような……いっそ狂気すら感じる声だった。


 そう感じると同時に、俺はあることに気付いてぞっとした。


 先程からずっと、外からうっすらと聞こえる笑い声。

 それも、今家族が上げている笑い声と同じものだったのだ。

 ウチの家族だけではない。隣の家でも、同じことが起きている。


「キャハハハッ、キャーハハハハハハ!!」

「アハ、アハハハハハハハハハハハハ!!」

「ハハハハハッ、ハーーハハハハハハ!!」


 家族が、笑っている。


 笑って。


 嗤って。


 わらっている。


「なんだこれ……なんなんだよ、これ……っ!?」


 ……頭が、おかしくなりそうだ。


 俺は笑い声から逃れるように布団の中で小さく体を丸め、両手で耳を塞ぐ。

 そして、必死に自分も声を上げ、笑い声が聞こえないようにした。


「わぁーーーー!! あーー、あぁーーーー!!!」


 やがて笑い声が収まった気配がしたが、俺は頑なに目を閉じ、耳を塞いだまま、じっと布団の中で息を潜め続けた。

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― 新着の感想 ―
この言葉を知った当時、なんで怪奇なのかと本気で思ったもんさ。
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