屈辱の撤退
ユナウスは、どんな男なのか?
俺とあの令嬢の騎士を名乗るマサトという女剣士は、ほぼ同時に攻撃に移った。俺は二丁のボウガンを先制攻撃として放ったが、女はそれを剣すら使わず軽々と身のこなしだけでかわし、俺との距離を詰めてきた。
(この女は剣士だ、自分のやり易い間合いが必ずある...つまり、俺との距離を詰めるは必然だ、ここは魔工術を使って間合いを詰めらせないのが、良いだろう)
そう判断した俺は、彼女と自分の間を分断する炎の壁を創った。
「フレイム=ウォール!前方に展開!」
「...なッ!?」
女は俺の創った炎の壁、ギリギリのところで停止した。
「やはり、魔工術とやらを使えるのか...かなり面倒くさい!本当に見慣れないものを使う相手ほど戦いにくい物はない」
「見慣れないもの?お前は何を言っているんだ、魔工術を使わないで戦う人間など居ないだろ!それにお前も使っていたじゃないか、あの風属性の突風を!俺も剣技と合わせているのは初め...てぇ!?ッなに!?」
女が俺が話している最中に突然切りかかって来た。俺は完全に油断していたが、何とかかわすことが出来た。
「急に切りかかるなんて!人の話は最後まで聞くものだぞ!?」
そう、俺が言うと、周りで見ている兵たちが「そうだ、そうだ!!」などとブーイングをしだした。すると、彼女は周りの兵士たちに向かい剣を突き向けて鋭い眼光を飛ばした。
「貴様らにどうこう言われる筋合いは無い!
そう言い捨てると、彼女は話を聞くどころか剣を嵐の様に俺めがけて繰り出してきた。その繰り出される刃は避け切るには到底スピードが追い付かず、確実に俺の足や腕に傷を作っていった。
「だが、少しぐらい話を聞いてくれても、良いんじゃないか?」
そう俺が攻撃をかわしながら口にすると、攻撃の勢いがより強くなった。
「ふざけたことを、戦いの最中に相手の前で語りだすなど、そちらこそ戦いに集中しろ!それにあの突風は貴様らが使っている魔工術とやらでは無い!これは九条治流の剣技だ!」
言葉を言い終えた途端、彼女はその二本の剣を切り替えし下から上へと切り上げた。その刃は目に見えないほど速く、避け切れなかった俺の左頬をえぐり、その傷の飛び散った血液が視界に見えた。彼女の攻撃の隙をつき後ろに跳び下がった俺は、左頬を撫でて傷の深さを確認した。
「血...か、傷が残りそうだなッ!!!!」
俺は女の足を狙って、ボウガンを連続で撃った。すると、彼女は素早い反射神経でボウガンの矢をかわした。
「今だ!スナイプ=バーナー!」
俺は彼女が矢をかわして飛び上がったタイミングを狙い、ボウガンの矢を放った。すると、たちまちその放った矢は炎を纏い、彼女の着地地点をを囲むように突き立てられ、そこから火柱が上がった。その火柱はあの爆奏の令嬢の騎士を包み込み、火柱の牢屋が完成した。
「今、撃った矢は炎の魔工術で創った特別製だッ!矢が刺さった所に火柱が上がるように設計してある、どうだ、獄炎の牢屋に入る気分は!!」
その時の俺は自分の技が決まったことに、興奮していて周りをよく見えていなかった。それを周りで見ていた兵たちが、自分の周りに集まってきた。
「大隊長!!やりましたね!!」
「これで、爆奏の令嬢の討伐に向かうことが出来ますよ!」
(よし!うまくいった、本当はこれで爆奏の令嬢を屠るつもりだったが、やむ負えないな、まさかここまでの剣術使いが仲間にいるなんて予想外だった...だが問題はこの女が使っていた剣術だ、こんなものがあると、今後の帝国の戦いは苦難を強いられることになるな)
そんな、俺が今後の事について考えている時だった。その一瞬で、今後の方針は意味を成さなくなった。
「九条治流ッ!拾漆式、海風・刃鐘斬断!!!」
その声が聞こえたときには既に、俺が創ったはずの火柱は波打った様な刃の残像が見えた後、綺麗に消し飛ばされていた。
「ばッ...バカな、これじゃあダメなのか!?あの火柱に囲まれたらその中は六百度はあるはずだ!普通の人間が生きれるはずがない!」
「当たり前だ、六百度なんて燃え尽きて炭も残らない」
「では、どうやって生き残ったんだ!?説明しろ?」
すると、彼女は呆れた顔で答えたのだ。それはそれは、あっさりと。
「単純だ、貴様が撃った特別製?の矢が地面に刺さる前に刀で弾き飛ばして、後ろの火柱を起こさせなかっただけだ」
その言葉を聞いた俺は、自分が準備してきた物の無意味さと、今の自分には彼女には勝てないという無力さのダブルパンチを受けて、一気に猛烈な脱力感に襲われ、軍の一時撤退を決意した。
帝国軍、撤退!