騎士の過去
ニサマル・ユキの二作目です。
最近人気の悪役令嬢ものを、少し違う角度から切り込んでみました!
「九錠治先輩!好きです。付き合ってください!!」
「...理由を聞いても構わないか?」
「はい!先日、路地裏で怖い人たちから助け出してくれたからです!!」
私は、困っている。
「すまないが、君とは付き合えない...」
最近、女子たちを助けるたびに好意を抱かれて告白されることに。
「今日が初めて会話したので、君のことをよく知らないからな」
放課後に体育館裏に呼ばれるのは、もう何回目だろうか。
「でも、これから知って行けばいいじゃないですか!」
違う、そういうことでは無い。
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「私は女だ、君たちとは付き合えんのだ!」
「そこをなんとか!お願いします~~!!っあ!にげないでくださ~~い!」
「すまない!!追いかけてこないでくれ」
私の名前は、九条治 勝兎今年で18、男の様な名前ではあるが女だ。
私の家は、江戸時代から代々続いている武術の名家で、女である私も幼少期から剣道、空手、柔道などを習い育てられ、剣道では未だ負けたことは一度もない。喧嘩や理不尽な教師、筋の通っていないことを正さないと気が済まない性格で、困っている女子をよく助ける。そのせいか学校の女子に凄く好意を抱かれやすく、今まさに絶賛追いかけられ中というわけだ。
「ふぅー。撒くことができたか...何をやっているんだか、私は...とりあえず家に帰るか」
~家にて~
「ただいま戻りました。」
「勝兎お嬢様、お帰りなさいませ...と、お疲れの様ですね、どうされました?」
家に帰ると、玄関には私の事を小さい頃から世話している爺が心配そうに待っていた。
「気にしないでくれ、いつもの事だからな...」
「ですがっ―」
「良いんだっ!今日は疲れた。部屋でもう、寝る」
私は爺の話を聞かずに、部屋に向かった。
「お嬢様...やはりあのことを...」
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私はあの後すぐに自室で布団にくるまっていたが眠れず、時間は11時半を回っていた。
「寝れんな...稽古場に行くか」
「はっ!やっ!ふんっ!...」
私は、木刀を振り続けた。
「やぁっ!...はぁっ!ふんっ!」
歪んでしまった何かを消し飛ばそうと...いや、もしかしたら私は、逆に忘れないように木刀を振っていたのかもしれない。
「......っな!」
木刀を力強く握っていたはずの手の平から、何故か、何故か落ちてしまった。木刀が床に落ちた時の振動が空気に乗って、道場に響き渡る。
「駄目だ!剣士が剣を落とすなど、私は集中出来ていない......あの人なら今の私になんというだろうか?」
高望みだったのでも言うのか、欲張りだったでも言うのか。ただ、あの日々が続けばよかったのだと私は最近常にそう考えてしまう。
私には悔やんでも憎んでも取り戻せない事がある。あれは、もう5年も前の事だ...
私にはかけがえのない人が居た。
「まさとちゃん!お屋敷の外で遊ぼうよ!」
彼女の名前は、川内寺 阿輝菜、彼女は私の家、九錠治家が長きにわたりお仕えしている家の川内寺家の令嬢で、亜輝菜様と私は同い年ということもあってよく一緒居てとても仲が良かった。
「駄目です。また、お父様に怒られますよ」
「いいの、お父様なんか怖くないし!」
「それでも駄目です。亜輝菜様はまだ、お稽古が残ってます!」
「まさとちゃんの、ケチん坊!」
私は、こんな会話がいつまでも続けられると思っていた...。
だがこの時はまだ、亜輝菜様の事は仲の良い幼馴染とぐらいにしか考えていなかった。
私が亜輝菜様を特別な存在に思い出したのは学園の初等部に上がる前の日の出来事がきっかけだった。その日、私がいつものようにお稽古していると、亜輝菜様が大事な話があるといい普段、私を入れさせてくれない自分の部屋に呼び出したのだ。
「まさとちゃん、入って来て...。」
私は恐る恐るその部屋に入室した。
「亜輝菜様!何の用でしょうか...」
私は亜輝菜様のいつにも増して真剣な慄きに驚いた。
「まさとちゃん貴女に私の『刀者』になってほしいの!」
私は、驚きのあまり声が出なかった、何故なら刀者というのは川内寺家の息子達一人一人が最も信頼出来る者に与える名で、刀者の名をもらった者は主を守り抜くといった、伝統でそれに亜輝菜様は私を選んだからだ。
「なっなぜ、私を?兄上達の方が強いですよ!?」
「駄目なのッ!まさとちゃんじゃなきゃ!...」
「えっ?」
「まさとちゃんはいつも自分の事を未熟だ、軟弱者だとか言ってるけどそんなことないよ!だってさ、まさとちゃんお兄さん達に一回も負けたことないじゃん!」
「あれは、兄上達が手を抜いて――」
「違うのッ!いつもまさとちゃんがいなくなった後泣いてるもん!それに、九錠治おじ様にだっていつも勝ってるでしょ!とにかく、まさとちゃんは、
私にとってはヒーローで一番信頼してる人なんだよ?」
私はこの言葉を聞いて、亜輝菜様のこの笑顔を、この日常を守ろうとそう決意した。
が、そんな生ぬるい決意では何も守れなかった...。
今でも私ははっきりと覚えている。あれは、11月21日、亜輝菜様の誕生日会で起こった。
「川内寺ッ!お前らのせいだ!お前らが俺の人生を潰したんだッ!だからお前たちの一番大切なものを奪ってやるッ!」
幸せだった誕生日会に、川内寺の組合のお金を使い込んだのがばれて首になった男が乗り込んできたのだ。その男は亜輝菜様が席を外していた隙に拘束し刃物を突き当て私達の前に姿を現した。
「亜輝菜様を離せッ!」
「やだね!こいつには俺のために、死んでもらうんだ!」
男はにやりと笑た。
「こいつは川内寺家にとって一番大事な娘だ、そんな娘が目の前で無残に殺されたらどうなるんだろうなァ~」
「やめてくれ!!それだけはッ!頼む!」
川内寺のおじ様の見たことのない表情は今でも鮮明に憶えている。
「...さぁお別れだ、派手に悲しめよ!!」
男の持っていた包丁が亜輝菜様の左胸にそれることなく突き刺さった...
その時だ.........。
「まさ...とちゃ...」
その時なんだ............。
「あぁ...」
「ああぁ......」
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その時に私は全てを失った。
気づけばもう、時計は0時00分を指していた...今日は、11月21日。
私はゆっくりと目を閉じた。
「亜輝菜様...今日で18歳ですね、おめでとうございます...会いたいです貴女に」
私は、一粒大きな深い涙を流した。
そう、それは私が涙を流し目を開くまでの、一瞬の出来事だった。
「ハッ!...どこだ...ここは!?」
そこには明らかに日本のものではない立派な西洋の建物と、どこまでも続く花畑があった。
「ゆ...夢か、私は寝てしまったようだな!?」
「夢じゃないよ、まさとちゃんは私が呼んだんだもん」
「ッ?...」
声を聞いて後ろを振り向くとそこには、綺麗な白銀の毛の懐かしい面影がする私と同じぐらいの少女が立っていた。
「私を呼んだ!?...貴女は」
「私、アクネリア・コネット・アルナート、よろしく。」
(18年ぶりね...まさとちゃん...)
これと、ロボ女子は同時に書きます。
頑張ります!