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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第1章『逃亡の先に』 ~
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第7話『悔い』

しばらく歩くと、4人は乾燥した荒野に出た。

そこは、岩と砂礫(されき)が広がる褐色の土地で、所々に背の低い丸い草が生えている。

雨季が来ればたくさんの小川ができるようで、スラニオス大河に向けていくつかの干からびた筋ができている。

空は雲が多く、はるか北の山にぶつかって雨雲になっていた。


「探査結界から完全に出たわ…。」

レベナが指先で空中に図形を描き、結界を張り直している。

だが、それを喜ぶ者はいない。

タジキがいなくなって4人になった一行は沈み切っている。


少し休憩が必要だ。

ジンタは放心して下を向いたまま3人の後を少し離れてついて来ている。

妖刀はコルトが代わりに持っている。


荒野の中に単独で立つ大きな岩の影を見つけて、一行は休憩をとった。

コルトは、無言で刀の汚れを拭いジンタの背の鞘に刀を収める。

そして、

「ジンタ、今は少し休むんだ。」

と言ってジンタを座らせた。


ジンタは無言でその場に座り込み、そのまま下を向いて何もしゃべらなかった。

ルーがジンタに水筒を渡す。

ジンタはそれを無言で受け取り、水を飲んだ。


コルトとレベナはジンタを心配そうに見ていたが、今は先のことを考えなくてはいけない。

「まずは情報を整理しよう。」

「そうね。

色々とわかったこともあるけど、また謎も増えたわ。」


「まず、やはりあのローブを着た魔術師が全て仕組んでいたとみて間違いないだろう。」

「そうね。

山賊を利用してヒガ村を襲わせたのも多分あの魔術師ね。

維持コストが高い岩竜や翼竜を使っていたのは、村人を異次元空間に引きずり込んで消滅させるためだった…。」

「一切の情報を消し去りたかったってことか。」


ルーがショックを受ける。

他の皆も…、父も母も友人も、焼かれたかタジキのように消されたのだ。

ルーは両手で顔を覆って下を向いた。


「ルー、すまない。

今は少しでも情報が必要なんだ。

君たちはどういった民族なんだ?

なぜこうも奴らが躍起になって消滅させようとするのか。

そのヒントが必要なんだ。」

コルトがルーを気遣いながら尋ねた。


「私こそごめんなさい。

私も何かの役に立ちたいわ…。」

ルーは気丈に言って顔を上げた。

「私達ヒガ族は、太古からあの村に隠れ住んでいたと聞きます。

来るべき時に人々の記憶を呼び覚ますために。」


「人々の記憶…?」

「ごめんなさい。

それ以上のことは本当に知らないんです。

でももう1点。

その人々の記憶の復活には、ジンタが持っている宝刀が鍵になると聞いています。」


「あの魔術師は、君達と刀がこの世界のものではない、と言っていた。

おそらく、別の世界…それが別の大陸なのか、遠い国なのか何かはわからないが…そこから来たものなんだ。

それも何らかの目的を持って。」

「別の世界…。」

ルーは村の風習や施設などを思い出してみたが、何かわかるようなことは思い当たらない。


「しかし、ジンタとルーは取り逃がした…。」

執拗(しつよう)に追ってくるだろうか…?」

「どうかしら…。

ここからは何をしても人の目につく可能性は高くなるわ。

ましてやここはもうシュニの統治圏。

治安や情報統制の側面からも好き放題できるわけではないわ。」


「広域結界や高度使役モンスターなどの必死さから、秘密裏に行いたかった意図が感じられなくもないな…。」

「国の盛衰に関わる何かかもしれないわね。」

ローブの魔術師が“この大陸の均衡はいつでも壊れてしまう”と言っていたのをレベナは思い出した。


しばらくして、コルトが決心して言った。

「やはり、シュニの首都サグラに行こう。

何かわかるかもしれないし、2人を保護してもらえるかもしれない。」

「そうね。」


コルトとレベナとルーは支度をして立ち上がった。


「行こう。」

ルーはジンタを促す。

ルーもタジキを亡くしてショックなはずだ。

それなのに、気丈に振る舞うルーの姿勢がジンタを動かす。

「ああ。」

そう言って、ジンタは立ち上がった。


歩きながらルーがコルトとレベナに尋ねる。

「魔術師はいつから私達を補足していたんでしょう?」

「おそらく、3人が村を出たそのときから。

私達と合流した後はこちらの結界で隠したけど、既にルー達のことはある程度把握していたと思うわ。」


「なぜ、あのタイミングで襲ってきたのかしら?」

「コルトと私、そしてジンタの刀が想定外だったんだと思うわ。

5人の山賊が襲ってきたあの戦いが、腕に覚えのある山賊たちの総力戦だったんでしょうね。

彼ら、妙に自信満々だったから。」


ジンタはそれを流れ聞いてショックを受ける。

山賊を生かそうが殺そうが結果は同じだったのだ。


それなのに、自分はコルトに酷いことを言ってしまった。

“あんたが山賊共をさっさと殺さなかったから、こんなことになったんだ!”

ジンタの脳裏にあのとき叫んだ言葉が響く。

ジンタの胸が締め付けられて痛んだ。


「最後の戦いは、彼らにとっても破れかぶれだったんじゃないかしら。

冷静に考えても、彼らの勝算は低かった…。

でも、こちらにとってもタジキを失うという甚大なダメージを受けてしまったけど。」

「…。」

ルーは涙を我慢して下を向いた。


ジンタは、タジキのことを思うと、やはり怒りが込み上げてきた。

あの結果が仕方なかったこととはどうしても思えない。

また今、同じ状況になっても、やはり自分は山賊共を殺すだろう。


いつの間にか慕い、師のように思っていたコルトの様々な選択が本当に正しかったのか。

自分が弱かったからタジキを守れなかったこともわかっている。

しかし、あれ程の力を持ったコルトであれば、タジキを死なせない手立てがあったのではないのか…。


ジンタは前を歩くコルトの背中を見た。

大きく、逞しく、兄のような、師のような…。

英雄…。

ジンタの中でコルトという存在が揺れていた。


この人について行けばいいのか。

そうでないとしたら、自分は何処に行けばいいのか…。

どうやったらルーを守れるのか…。


ジンタの中でその問がぐるぐると繰り返された。


 ◇ ◇ ◇


その翌日の日没後にタリムという村に到着した。

探査結界を抜けた後も、4人は非常に用心して進んだため、疲労が蓄積していた。

荒野の移動で水も食料も既に底をついている。


タジキを失った戦闘後に敵に遭遇しなかったのは救いだったが、一度だけ頭上を翼竜が通り過ぎて肝を冷やした。

氣は探ると、相手にも察知されやすくなる。

そのため、翼竜に誰かが乗っていたのかは判別できなかった。

即座に岩陰に隠れ、氣を隠す結界も張り続けていたため、相手からも察知されなかっただろうとレベナは言った。


タリムの村は、村といいつつもムレンとの関所が近くにあり、それなりに栄えている。

4人は宿に入り、男女に分かれて2部屋取ることができた。

質素な木造2階建ての宿で10組程が宿泊でき、アットホームな居心地の良さがある。


食堂での夕食後にそれぞれの部屋に向かった。

「やっと、ベッドで寝られるわ…。

おやすみなさい!」

レベナは疲れた顔をしてコルトとジンタに手を振りながら部屋に入る。


そして、中から、

「あぁ、服を洗わないと!

…もう、明日の朝にする!」

という声が漏れ聞こえた。


「とにかく今日はゆっくり休んでね。

おやすみなさい。」

ルーはジンタに気遣いながら、レベナと同じ部屋に入った。


コルトとジンタも部屋に入り、ジンタから先に部屋の風呂に入った。


ジンタは考え事をしていた。

コルトと一度しっかり話しておかねばならないと思った。

しかし、どうしても心を開くことができない。


タジキの事を思い出すと、胸が締め付けられる。

コルトに叫んだあの言葉を思い出すと、更に胸が痛んだ。

しかし、全てを背負うことができず、ただその痛みに耐えることしかできない。


コルトもそんなジンタの様子を読み取っているのか、風呂上り後も特に話しかけてはこない。

その部屋の空気に耐えかねて、ジンタは早々に布団に潜った。


久々の布団は心地よかった。

ジンタの故郷の村とは違った、床から高さのあるベッドで、柔らかさが優しい。

しかし、その柔らかさもジンタの胸の痛みを癒やすことはできなかった。


コルトも最低限の荷物整理と洗濯をすると、ランプを消してベッドに潜った。

コルトは武器をベッドに持ち込み、服装もすぐ外に出られる格好で寝ている。

ジンタはそれを見て、まだ警戒態勢であることを実感した。


ジンタがまだ起きていることを知っていたのか、「おやすみ。」とコルトが言った。

「おやすみなさい…。」

ジンタは独り言のように呟いた。


程なくして、ジンタは睡眠の甘い闇に落ちて行った。


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