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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第1章『逃亡の先に』 ~
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第5話『魔術師』

その日もとにかく人を避けて進んだ。

そのため、道なき林の中を進むことが多かった。

救いなのは、平地に近づいてきたために急斜面や崖が少ないことだ。


林の木々は少しずつ間が開くようになってきており、地面に日の光が差し込む場所が増えてきている。

木の種類も雑木林となり、針葉樹はあまり見られないようになった。

夏のこの時期の草の生い茂った低地は人の進行をあらゆる場面で拒んだため、そういった場面では林道や河原を通る必要があった。


だいぶ日が落ちたとき、川沿いに野宿に適した小さな洞窟を見つけた。

「ここなら挟み撃ちも避けられるし、多数が襲ってきた場合でもレベナが氣で察するだろう。」

とコルトは言った。


そこは、人が10人程入れる大きさの、岩の裂け目が水で浸食されてできた洞窟で、奥につれて広くなっている。

湿気はあったが地面は濡れておらず、今の時期はこの洞窟に水が入ってくることはなさそうだ。

多少の虫はいたが、男達でそれらを追い払えば、それなりに快適な空間となった。

大きな火を熾せないし、静かにしていなければならないが、少し緊張を解くことができるだろう。


とはいえ、例の広域探査結界とやらの範囲内なので、あまり気は抜けない。

「でも、そんなに詳細に探査できるわけでもないみたいだし、こちらも気配を隠す結界を張っているから今夜中ぐらいは大丈夫よ。」

と、3人を暗い気分にさせないように、レベナは努めて明るい態度をとった。


夕食後にレベナとコルトは立ち上がった。

「私たちは少し周囲を調査して作戦を練って来るわ。

必ず3人は洞窟の奥に居てね。」

そう言って、レベナとコルトは洞窟を出て行った。

少しは3人だけの時間も必要だと考えたのだ。


久々にヒガの者だけになった3人は様々な話をした。

夜襲のこと、壊された家々のこと、消えた村人達のこと、山賊のこと、魔物のこと、闇の魔術のこと…。

おそらく、運よく生き残れたのは我々3人だけだろう。


「コウは…。」

ジンタが親友の名前を出した。

コウはジンタの2つ年上の若者で、村でも10代はこのコウを入れて4人しかいない。

コウは武術に長けていて頭も良く、彼らにとってはリーダー的存在だ。


「コウの家は、俺が親父に連れられてルーと村を抜け出そうとしたときには既に(くず)れていた…。」

タジキの目にはあの時の恐怖が映っている。

それ以上は何も言えずに、しばらく沈黙が続いた。


ジンタは聞きづらいことを話題に出した。

「今日のあの後…俺が眠った後はどうなった?」

タジキが腕を後ろについて足を揺らす。

なるべく深刻な雰囲気を避けようという彼なりの配慮なのだろう。

「縛られた4人はレベナに再び眠らされて、茂みに放置さ。

コルトは今日明日中に仲間が見つけるだろうと言っていたよ。」

「そうか…。」


「ジンタが斬った奴は、コルトが即席の穴を掘って森の中に埋めたよ。

山賊の死体なんかその辺に放っておけばいいのに。」

タジキがジンタを(なぐさ)めるように言った。

ルーは、なんてこと言うの、という顔をしたが、タジキの意図を読み取って押し黙った。


少し調子に乗ってくるタジキ。

「それにしても、生かしておくなんて甘いよな。

あれで、奴らに俺らの人数とかの情報が流れているぜ、多分。」


確かにそうだ、とジンタは思った。

次、襲われることがあれば、完全にこちらの手の内はバレているだろう。

どう考えても、良い方向に行っているとは思えなかった。


「あんな奴ら全員殺せば良かったんだ。

俺らの村は皆殺しにされたんだからな!」

タジキがエスカレートしてきて、ルーもとうとう口を挟んだ。

「それじゃ、私たちも賊と変わらないわ。」

タジキはルーに言われて黙ったが、納得していない顔をしている。


賊と変わらない…。

ジンタはルーにそう言われてショックだった。

それを気遣ってか、ルーがジンタに言った。

「襲われて反撃するのは仕方ないわ。

正当防衛よ。」


ルーはジンタの目をまっすぐ見た。

「でも、コルトが正しいと私は思うわ。

その刀はなるべく使わない方がいいわ。」

ルーはこの刀が村の禁じられた代物であることをわかっているのだ。


「そうだな。」

とジンタは呟いた。

しかし、先程タジキが言ったことも引っかかっている。

もし次に襲われたら、それはかなりまずい展開になることが予想された。


「記憶を消すとか、しばらく話せなくするとか、そういう便利な魔法はないのかしらね。」

ルーは話題を変えるように言った。

しかし、少なくともレベナからそういった魔法があるとは聞いていない。


少し冷静になったタジキが、(うつむ)き考えるジンタを覗き込む。

「ジンタ、大丈夫か?

最近、顔色が良くないぞ。」

「ああ…。」

ジンタが刀に視線を落とす。


「でも、自分の中で、何かが麻痺していく感じがするんだ。

ヒガ村で山賊の残党を殺したあの時から…。」

タジキがジンタを気遣うように見る。

「そっか…。

なんかジンタ、再会してから無口になったよな。

以前はもっとよく喋ってたのに。」


言われてみればそうかもしれない、とジンタは思った。

「最近、言葉があまり出て来ないんだ。」

「…。

あんまり、無理するなよ。」

タジキは努めて明るく答えた。


3人共、それはジンタが刀を振ることと関係しているだろうとは思っていた。

だが、今ここでそれを言ったところでジンタを苦しめるだけだろう。

必要な事はさっきルーが言っている。


それから、3人はしばらく沈黙した。


 ◇ ◇ ◇


コルトとレベナが洞窟から出て周囲を調べていた。

河原は丸い石が敷き詰められているが、所々に草や低木が生えている。

空は雲が多かったが時折明るい月が顔を出し、ふたりの影を地面に映し出す。


一見すると普通の河原のように見えるが、コルトとレベナはそこが既に人の活動域であることを感じ取っていた。

これからどのような経路を歩くべきかをふたりは話し合っていた。


「敵には確実に魔術士(まじゅつし)がいるわ。

私達の正確な位置は結界で隠しているけど、私達の痕跡(こんせき)から人数や能力はとっくにバレているわ。」

「今日の賊達の構成と行動を見る限り確実にそうだな。」

とはいえ、ここに留まることも、パーティを分割して別動隊を作ることも良い手には思えない。


仮に、レベナがルーを連れて隣国ムレンに逃げるとしても、レベナ側は巨大な物理モンスターに対して逃げる以外の手がないし、逆にコルト側は霊体タイプには対処できても、魔術師や弓などの遠隔攻撃系への対処が困難だ。


そんな話をしていると、突然辺りの空気が変わった。

何かがのしかかるような暗い圧がふたりの周りを包む。


コルトとレベナが戦闘態勢に入った。

氣を探る限り、敵はふたりの前方におり、若者3人がいる洞窟の方は問題なさそうだ。


ふたりの前方の河原に暗い色のローブを着た半透明の男が表れた。

その姿は時間をかけて濃くなっていく。


「夜分遅くに失礼。」

と男は話した。

それは、努めて礼儀正しく話しているようには聞こえても、本質的に悪意のある声だ。

コルトとレベナは何も答えなかった。


「…なるほど。」

男は声色を変える。

「では早速本題に入ろう。

ヒガ村の子供らと刀をこちらに渡してくれないか。」

「断る。」

即座に答えるコルト。


「それらは、この世界に在ってはならないものなのだ。

それらがある限り、この大陸の、世界の均衡はいつでも壊れてしまうだろう。

ましてや、この地域から出すことは阻止したい。」

と男は語った。

が、ふたりはその言葉にまともに答える気はない。


コルトが目配せをすると、レベナは半歩下がった。

「それを言うなら、これもなんじゃないか!?」

コルトが棍棒を抜いて男に襲い掛かった。


「それは!」

そう言った瞬間、ローブの男はコルトの棍棒によって上下に分割させられた。

そのまま、ローブの男は捻じれながら霧散して消えた。


レベナはコルトを補助するための魔法を詠唱していたが、中断した。

コルトも周囲を見回したが、男の姿も氣も完全に消えているようだった。

周囲の暗い圧も完全に消え、月明かりが眩しい。


ふたりは戦闘態勢を解いて、洞窟に戻ることにした。


「その棍棒の事、教えちゃって大丈夫?」

レベナがコルトの手元を見た。

「少しでもジンタから意識が反れればいいさ。」

コルトが棍棒を腰に収めながら言った。


「氣はあったが、本体ではなかったな。」

「そうね。鳥か蝙蝠(こうもり)か何かを依り代に来たみたいね。」

ふたりは歩きながら話した。


「何者だろうか…。」

「…。

風の噂に聞いたことがあるわ。

時空を歪めて人を神隠しする黒魔術を。」

「それで消された人はどうなる?」

「生存は難しいでしょうね。

仮にその時空で肉体の形を維持できても、多分、呼吸できないわ。」


生きたまま異次元空間に飛ばされ、そのまま息もできずに絶命する。

肉体も霊体も、どこへ行ってしまうのか。

これ以上の残酷な殺し方があるだろうか。

コルトは想像して悪寒が走った。


「しかし、そんな高等魔術、莫大な魔力が必要じゃないのか?」

「そうね。

地理的なエネルギースポットや、超高度な魔法陣、複数人による複合魔術などが必要なはずね。」

「いきなり、その時空の歪みが目の前に現れて飲み込まれてしまう可能性は低いな。」

「そうね。」


「刀が目的なら、村ごと消す必要もないだろうに。」

「“それら”と言ったわね。

ヒガ村の人々そのものに何か秘密があるのかもね。」

「3人はそんなようなことは言ってなかったな。

隠している風でもなかった。」

「そうね。

もしくは本人達も知らないか…。

血、かしらね。」


コルトは3人の顔を思い浮かべた。

大まかに言ってコルトと同じ地域の人間のはずなのに、特にタジキとルーは顔つきと肌の質が違う気がする。

彼らがどういった種族で何が興りなのか、コルトは考えを巡らしたが答えは出なかった。


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