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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第6章『前進の価値は』 ~
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第50話『潜入』

「よし、行こうか。」

ジンタが言うと、ルーが頷いた。

ルーは少し緊張しているように見える。


「さあて、いよいよ敵陣への殴り込みね!」

「悪の魔術師討伐。

久々に腕が鳴るのぉ。」

アザネスが肩を回し、バーレンがニカリと歯を見せる。

こんなとき、ふたりの明るさは助かる。


「ルー、結界は?」

「バッチリよ。

何度も練習したんだもの、氣は隠せているはずよ。」

「よし。」


4人は隠れ家からガマフの小道に出た。

夜明け前の冷え切った空気が顔に痛い。

月明かりで暗いながらも、道は見える。

これだけの明るさがあれば作戦行動に支障はない。


この隠れ家は、ファラミスがこの作戦用に用意した家だ。

前日からレベナが結界を張り、昨日夕暮れと共に4人が潜入して睡眠をとっていた。

宿から気配を消し続けているのだ。

完璧とはいかないまでも、敵に気取られてはいないだろう。


サグラまでの道案内はバーレンだ。

元シュニ人とはいえ、バーレンはガマフとサグラの道をかなり詳しく把握している。

おそらく、この数日間で緻密に情報収集をしたのだろう。

豪快な見かけに反して、繊細な面のある人物だ。


前もって、「絶対走らないぞ。」と宣言していたバーレンだったが、ジンタもルーも小走りしてやっと追いつける速さで歩いている。

しかも、今までガチャガチャと賑やかに背の戦斧(せんぷ)を鳴らしながら歩いていたのが嘘のように無音で進んでいる。

アザネスも同様に、まるで猫が獲物を追っているときのように、無音かつしなやかに早歩きをしている。


やはり、このふたりは(いくさ)慣れしている。

単純な対魔物戦の戦闘力だけ見たらジンタから遠い存在ではないが、軍事行動に関しては容易に追いつけるような経験値ではない。

おそらく、コルトやレベナでさえも、ふたりには(かな)わないだろう。


それにしても不思議だ、とジンタは思った。

この4人での行動は今回が初めてのはずだ。

だが、身体によく馴染む。

気が合うというべきか。

コルトとレベナとの4人よりも呼吸が合う。


最初、コルトとレベナに対して、ジンタとルーの戦闘力が離れすぎているためかと思っていた。

だが、今ははっきりわかる。

アザネスとバーレンも総合的な能力値は、はるかに上だ。

更にいえば、年齢や文化的下地は、コルト以上に離れている。

それらの背景に関係なく、この4人は呼吸が合うのだ。


いける。

ジンタは、今までになくこの作戦行動に手応えを感じていた。

きっとうまくいく。

そんな気がした。


4人は早くもガマフを抜け、サグラへと続く長い石橋の端まで来た。

この4人の中では最も氣を読めるのはジンタだが、ここまで人も魔物も目立った氣の動きを見せていない。

作戦は問題なく続行だ。

この石橋を渡ればサグラに入る。


事前に聞いていたように、石橋の左右に広がるサグラ湖の水面からは大量の(もや)が発生している。

この湖の水は近隣の湧水の影響でかなり水温が高い。

この時期、特に朝方は、凍ることもなく大量の水蒸気を発するのだ。

この特性を利用して、サグラ城は城攻めのリスクを低減させている。


今までは、ガマフの街並みをうまく利用して隠れながら移動してきた。

ここからは、隠れる柱もない石橋を渡るわけだが、この靄の中では外部からの目視による発見は不可能だろう。

こちらの視界も眼前10メートル程だが、ジンタは氣を読み取れる。

移動に困難はない。


とはいえ、馬車が余裕ですれ違える程度の広さの石橋だ。

ここで、翼竜なり岩竜なりに襲われたらまずい状況に陥ることが予想される。


フォルドの山道でのソーンによる襲撃をジンタは思い出した。

あの時の状況に似ているが、今回は両サイドが切り立った崖ではなく水だ。

翼竜にとっては襲撃しやすい位置にある。

水中に逃げるという手があるが、ルーは泳げない。

また、泳げるジンタも大幅に行動を制限されるだろう。


なんにせよ、注意して進むほかない。

一行は周囲に気を配りながら、進んだ。


「おっ。」

石橋のちょうど中間地点だろうか、バーレンが足を止めた。

「ここからプレッシャーが変わったわね。」

アザネスも感じたようだ。

やはり、バーレンもアザネスも、勘が鋭い。


「なんらかの結界に入ったようだね。

ここからは、いくら氣を隠しても相手に感づかれるかもしれない。

ルー、何かわかる?」

「いえ。

でも、私も感じた。

ジンタの言う通り、魔術的な結界なんじゃないかしら。」


「うん。

気を付けて進もう。」

「了解じゃ。」

一行はバーレンを先頭に再び進みだす。

より注意深く、一切の物音を立てないように気を付けながら。


だが結果的に、何事も起きなかった。

無事、当初定めたコルト班との合流場所にあっけなく着いたのだった。


そこは、サグラ城の裏口から入ってすぐの警備員用の部屋だった。

第一国軍の兵士が手配した通り、裏口も部屋も解錠されていた。


「無事着いたな。」

バーレンがやや納得のいかない顔をしている。

「不気味なくらい順調だったわね。」

アザネスも同様に、罠の可能性を疑っている。


「ジンタ、氣の感じはどう?」

「こっちも結界を張っているからよくわからないけど、上層部に大勢の人の気配があるように感じる。

この階にはおそらく誰もいない。」

とはいえ、ここで結界を外すわけにもいかない。


4人は当初の予定通り、正午過ぎにコルト班がここに来るまで待機することにした。

部屋は、現在は使われなくなったもののようだ。

生活の物が一通りそろっており、空間としては快適であった。

だが、あまりリラックスもしていられない。

いつ誰が来ても良いように、4人は固まってコルト達を静かに待った。


 ◇ ◇ ◇


正午過ぎに、コルト達も無事に部屋に入ってきた。

シーダがやや拍子抜けした顔をしている。

コルトも罠の可能性を怪しんでいるようだ。


10人揃うと流石に部屋は手狭であったが、それぞれ場所を確保して作戦会議をした。

ここからは10人全員で行動する。

先頭をバーレンとジンタ、次にフィル、タロス、シューネと続き、ルー、アザネス、シーダ、レベナ、コルトの順だ。

中央の魔術士達は常に周囲に気を配る形だが、相手に気取られるまでは強固に結界を張り続ける。

そのため、その間は何かを察知するのは難しい。

そこで、氣の察知ができるジンタとレベナが、事あるごとに内側の強い結界から抜け出て周囲を感知する体制だ。


作戦は、単純だ。

バーレンとフィルの案内によってひたすらレンドックがいると思われる最上階を目指す。

敵に察知されるまでは、結界を張りながらの隠密行動だ。

戦闘になり次第、前衛は敵の攻略に専念し、中衛はその援護、後衛は周囲の検知と回復、万が一のときの退路の確保を行う。

最も戦闘力の高い最後尾のコルトは、必要に応じて前衛にまわる。


ひとりでも戦闘不能になってしまった場合は、フィルの判断で救助するかを決めて、必要と判断した場合は分隊し、離脱する。

もし、半数の5人以上が戦闘不能になってしまったら、その時点で作戦は中断。

負傷者をサポートしながらガマフに退避する。


ガマフでの決め事ではあったが、一通りの作戦を再確認してから、一行は部屋を出た。


明らかに緊張している、タロス、シーダの動きが硬い。

このような小隊での行動ははじめてなのだという。

もちろん、ジンタとルーも緊張はしているが、経験値が違うようだ。


「うし…。」

シーダは自分に言い聞かせるように、両手で軽く頬を叩いた。

それを見たジンタが、「行くぞ。」と顎で合図した。


そのとき、ふとシューネが、

「大きな魔力を感じませんか?」

と言った。

魔術士とコルトとジンタが周囲に意識を向ける。

だが、一行を囲う結界が邪魔をしてよくわからない。


魔力の検知は魔術士の領域だ。

生命体が発する“氣”とは違う、より精妙なエネルギーを感知しなければならない。

ジンタは今まではっきりと感知したことはない。


「今、結界を解くわけにはいかない。

注意して進もう。」

「おう。」

最後尾のコルトの合図で先頭のバーレンが歩き出した。


人が難なくすれ違える幅の廊下を進む一行。

流石に、この人数で屋内を移動すると、無音というわけにはいかない。

カチャカチャという武具がこすれる音と、足跡が石の廊下に響く。


真昼間だというのに、薄暗い廊下だ。

平時はランプが灯されているようだが、今は点ける者がいないようだ。

だが、造りが開放的なため、部屋や窓から昼の光が入ってきている。

埃っぽい空気に周囲からの光が筋を作っている。


一行は正面のホールに出た。

王の部屋へと続く階段はここしかないためだ。

城門は閉じているが、このホールは壁にある装飾を施した窓から光が入ってきているため、それなりに明るい。

階段を昇りきった場所には大きな宗教画のような絵画が飾ってある。

掃除の行き届いていない絨毯から埃が舞う。


一行が正面の大階段を登ろうとすると、階段上からひとりの男が現れた。

「ようこそ、サグラ城へ。」

男は見下すような目つきで一行を見る。

その後ろには、4人の魔術士風の男達がいる。


「ドネル…!」

フィルが矢筒から矢を抜いて、弓をつがえる。

それを合図に、一行は戦闘態勢に入る。

それぞれの武器を構える音が周囲に響いた。


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