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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第5章『陽の射す処の希望』 ~
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第43話『闇の手』

「グハハハ!

見事なり!

それが本来のおぬしであろう!」

大陽の宝玉の龍が愉快そうに吠える。


「奥意は(あらわ)れたり。

しからば、これを見よ!」

宝玉龍が叫ぶと、龍の前に漆黒の闇の円盤が現れた。

それはルーの身長の何倍もの大きさのある巨大なものだ。


「それは!」

ルーとて、忘れようはずがない。

村人を飲み込み、タジキを飲み込んだ、あの闇だ。


こんなものを出されては太刀打ちできようもない。

ましてや、ルーの体力は未だ回復ならず、その禍々しいものを見ているだけで精一杯なのだから。


ルーは自らの心が()えていくのを感じて、その場にへたり込んだ。

あの闇に飲まれるぐらいだったら、あのときホンを引きずってでも逃げておくべきだった…。


しかし、意外なことに、宝玉龍に害意はなかった。

「案ずるな。

これは単なる映像。

我の記憶である。」

宝玉龍の声は穏やかだ。

それに、あの闇を見たときに感じる禍々しい圧もない。


「だが、おぬしはこれを受け止めねばならぬ。

そして、自らの力をその事象のために用いるかを選択しなくてはならぬ。」


ルーは理解が及ばないまま、龍の言葉を聞いていた。

だが、何かが自分の中で変化していっているのも同時に感じていた。


そう、自分は気づいていた。

自らの中に大きな力を扱いたいという願望があり、と同時に、それを扱うことを怖れ、逃げていたことを。

また、ジンタや周囲には安定と安全を要求していた、と。


龍の映し出す映像に、複数人の魔術士が現れる。

その者らは、闇の円盤を取り囲み、何やら話し合ったり、紙に何かを書き込んだりしている。

魔術士達の服装はホンと同じく、白に金色の装飾が施されている。


「彼らは、ここムクファの魔術士達だ。

彼らは我のエネルギーを使って闇の魔術を研究していた。

そして、この世界を危険に(さら)す領域にまで手を出してしまった。」

龍の声色から憂いの念が伝わってくる。


「なぜ、そのような危険なものに手を出したんでしょう?」

ルーは、座り込んだまま龍に問うた。


龍は無言のまま、眼差しをルーの横に動かす。

その目線の着地点にホンが歩いてきた。

ホンも恐慌状態から抜け出しており、真剣な目で映像を見ている。


「最初は、ひ、人の手に余る廃棄物や危険物を消し去るための研究だったんだ。」

ホンが映像を見ながら語る。

映像の中では、魔術士達がせわしなく動き回り、大小様々な闇の円盤を作り出したり消したりしている。


「そのうちに、こ、これは軍事利用できるとある魔術士が気づいた。

そして、カノン様の目指す、三国、つまり、ムレン、フォルド、シュニの統一に使えるのではないかという話になったんだ。

その時点では、こ、この闇を生み出すだけの巨大なエネルギーを生み出すことは、宝玉の力を用いる以外は不可能であると考えられていた。」


ホンが続ける。

「一見、外での使用は不可能であると思われていた技術だったんだ。

でも、じ、“自衛”という大義名分のもとに、研究は秘密裏に続けられた。

カノン様にも隠れて、ね。

フォルドがムクファまで攻めてきた最悪のシナリオのときに使うことを想定していたんだ。」


「そして、ふ、ふたつの技術的なブレイクスルーが突然訪れた。

大幅な消費エネルギー量の削減と、ま、魔法生物の生体エネルギーの活用だ。」


映像が別の場面に展開される。

翼竜よりも更に巨大なイモムシのような魔物が現れ、その口内に闇の円盤が作られている場面だ。


「こ、後者の技術は、皮肉にもフォルドからもたらされた。

カノン様にさえ秘密にされていたこの闇の技術が、なぜかフォルドに漏れたんだ。

そして、我々は、た、(たばか)られた。

一見、フォルドの魔術士は協力的に見えた。

技術者同士であれば国を越えて仲良くなれる、とさえ言われていた。

でも、その目的はこの技術を完成させて、盗み出すことだったんだ。」

ホンはため息をついた。


宝玉龍がブホーという鼻息を吐いた。

「その、技術的ブレイクスルーとやらが、何によりもたらされたか、お前達は気づいているのか?」

龍がホンに問う。


「え!?

それは、ぐ、偶然と研究熱心な魔術士の努力で…。」

「そこが貴様らの傲慢(ごうまん)なところなのだ。

普段は“全ては必然である”と講義しておきながらな。」

宝玉龍がピシャリと釘をさし、ホンはビクッと緊張した。


「見よ。」

映像が別の絵を映し出す。

それは、黒い人型の(もや)に見えた。

目と思われる部分があり、そこが怪しく光っている。

魔物だ。


「そ、そ、そんな…!

モ、モ、モ、モズ・ウルログ!」

「モズウルログ?

魔物なの?」

ルーがホンを覗き込む。


だが、答えたのは宝玉龍であった。

「いにしえより、人々の苦しみと怠惰(たいだ)(かて)としてきた存在、悪魔だ。」


ホンが再び恐怖に顔を歪める。

「魔物といっても、その辺に出てくるモンスターとはわけが違う。

もっと霊的で、て、天使と対をなす存在だよ…。」


ホンは頭を抱えてしゃがみこんだ。

「導士様に降りてきた(ひらめ)きだから、き、きっと神か天使がサポートしてくれてるんだと…!

そ、それじゃ、やっぱこの迷路も…!」


「闇の技術を天使が支援するはずなかろう。」

ホンの顔がますます青ざめ、震え出す。

ルーはそれを見てなんだか哀れに思った。


「それでは、貴方(あなた)はなぜ、自らの力が悪用されるのを許したのですか?」

ルーは言ってから、ハッと、宝玉龍の怒りを買ったのではないかと恐れたが、龍は予想に反して首を下げて、低い声で語った。

「我の役目は、地や天から集めたエネルギーを“陽”に変換して放出することのみ。

それをどう使われるかによる善悪の行動変化は、ない。」


龍がホンに語りかけるように首を伸ばす。

「だが、我に意志がないわけではない。

我とて、学び進化する者だからだ。

それ故、その者に事実を伝えたのだ。

より全体性を持った、有益なエネルギーの活用を促すために。」

その言葉には、ひと欠片の(なさ)けがあるようにルーには感じた。


ホンがうなだれている頭を上げ、すがるような眼差しで宝玉龍を見る。

二者の間に口には出ない対話の時間が流れた。

ルーはその様子を静かに見ていた。


しばらくして、宝玉龍はルーに視線を移した。

「さて、娘よ。

この国は、この都市は理想郷であるか?」


ルーはハッとなって考えこんだ。

出てくるのは疑問だけだった。

「なぜ、魔術士達はそんな危険な技術に手を出すのでしょう…。」

呟くように言うルー。

しかし、ホンも宝玉龍も答えない。


「なぜ、ここだけが…。

この土地だけが豊かなのでしょう。」

龍が鼻から白い息を吐く。

「この土地が、この大陸の氣流の集結点だからだ。

ただ、それだけだ。」


一拍置いて龍はルーの目を覗き込み、続ける。

「だが、それは、人が努力して作り出したものではない。

たまたまそういう土地なだけだ。

人の努力は、この土地が(けが)れないように守ることにある。」

龍はそこで言葉を止める。

その言葉にはまだ続きがあるように思えたが、後は人が考えるべきことなのだとルーは思った。


「私の理想は、世界全体が豊かに平和になること…。」

ルーが呟く。

「しからば、そのように。」

龍はそう締めくくった。


ルーの身体が半透明になる。

「ルー!?」

ホンが驚いてルーを見る。

だが、よく見ると、ホンの身体も消えつつあった。


「盲目、陶酔、逃避。

それによる、心酔、ね。

ありがとうございました。」

ルーは宝玉龍にお辞儀(じぎ)をした。

頭上で、龍の鼻息の音が聞こえる。


そして、身体に浮遊感が起き、目の前が真っ白になった。


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