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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第3章『2つの相剋』 ~
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第26話『交渉』

フリーダら、ティルス軍の幹部達が来賓室にドカドカと入ってきた。

最早ルー達の事は気にかけず、扉も開けっ放しである。

来賓室の窓からが、北のソ族側を最も良く見ることができるのだ。


「これは、まずいな。」

「我々の倍はいるぞ。」

「すぐそこまで来ているとは…。」


フリーダ達はその場で沈黙する。

そしてしばらく後、フリーダが宣言するように言った。

「停戦の申し入れをする。」


「フリーダ様!」

「今戦ったら、皆助からない。

死ぬのは私だけで良い。

私が彼らの所に行ってくる。」

「私も行きます!」

「俺も!」

「私も!」

側近達が次々に声を上げる。

皆、フリーダを死なせたくないのだ。


「ダメだ!

皆で行けば闘いを挑んでいるように見えてしまう。

より無防備な方が良いのだ。」

「ですが、それだと無駄死に!」

「それも仕方ないだろう。

大将首を取ったのだ。

ソ族も攻撃を止めるに違いない。」

「しかし!」


一瞬の沈黙の中、来賓室の入り口付近でコトリと物音がした。

「僕がついて行きます!」

「私も!」

リッケとルーが声を上げた。

突然の外野からの子供の声に皆が驚く。


「僕達なら、挑んでいるように見えないですよね。

それに、何かあったらフリーダさんは僕達を人質に取れば良いんだ。」

「停戦は私達の提案よ!

同行させてください!」


「またこのガキ共が!」

あの時の門番もその場にいて、ルー達に凄んだ。


「やめろ!」

フリーダが叫んだ。

「中々良い作戦だな。

子供らよ、ついて来い!」


場がざわつく。

だが、フリーダは問答無用で改める様子もなく、出発の準備を始める。

フリーダは側近のベンにこれからの行動の指示を出し、来賓室を後にした。

ルーとリッケも荷物を持ち、フリーダに従う。


「フリーダ様、どうしますか!?」

「ご指示を!」

状況の知らぬ外の兵士達は、廊下を早歩きするフリーダを見ると(すが)り付いて来た。

「すまない。

時間がないのだ。

ベンに指示を出してある。

彼の命令に従え。」

フリーダはそう言って兵士達を鎮めた。


そして、北の裏門から3人はティルスを出た。

目の前はすぐ山で、鬱蒼とした森が広がっている。

足元はかなりぬかるんだが、辛うじて歩く事ができた。

夕刻の森は薄暗いが、獣道を使って3人は山を登る。


しばらく森の中を登り、中間地点と思われる所でフリーダが振り向いた。

「さぁお前達、これが最後の逃げるチャンスだ。

ここで釈放とする。

ここから真西に行け。

街道に出るはずだ。」


ルーとリッケは驚いた。

本気でフリーダについて行くつもりだったのだ。

「嫌です!

一緒に行きます!」

ルーが叫ぶように言った。


「聞き分けろ。

お前達に人質の価値などない。

そもそもソ族の人間ではないじゃないか。

それともルーよ。

また内政干渉とか言われたいのか?」


ルーが縋るように言う。

「理屈じゃなく、ダメです。

あなたを死なせる訳にはいかない。

ダグと話をしてください。

それしか道はないと思います。」


フリーダがため息をついた。

「もちろんそうするつもりだ。

運良く殺されなければ、な。」


フリーダはこれ以上かまってられないと、森の中を再び登り始める。

「フリーダ、ダメよ!」

そう言ってルーはフリーダの袖を掴んで引っ張る。

「離せ!

お前達だって―」


その時、森の北側からガサリと人の物音がした。

「誰だ!

ソ族の者か!?」

フリーダはそう叫んで剣を抜いた。


ルーが勢い良く振り解かれて尻餅を突く。

「きゃっ!」

ルーが小さな悲鳴を上げた。


「ルー?」

その奥から、ルーが今一番聞きたい人の声がした。

「ルー?

そこにいるのね?」

間違いない、レベナだ。


「レベナ!」

ルーが叫んで森の中を駆け上がって行く。

「ルー!

良かった、無事で!」

2人は坂の途中で抱き合った。


そして、レベナの後ろからは、大柄な男がぬっと姿を現した。

「ダグ!」

フリーダが叫んだ。

ダグが両手を上げてフリーダのところまで降りてくる。

そこに剣先を突きつけるフリーダ。


「剣を下ろしてくれ、フリーダ。

話し合おう、今ならまだ間に合う。」

フリーダは剣を下ろして首を振った。

「すまない、私もそのつもりだ。」


「俺が道案内したんだぜ。

3人が街から出るのが見えたから。」

レベナの横にあのファイと名乗った精霊が浮かんでいる。


「あとは氣でわかったわ。

その中にルーがいることが。

あ、ファイとはもうすっかり仲良しなの。

コルトが連れてるウォルに似ててびっくりしたけど。

今日、やっと動けるようになって外に出たらファイがいて驚いたわ。

でもすぐわかった。

ラーイオーが言った“ある出会い”だって。」


そうして、フリーダと共にルー達はソ族のギルフ近くの前線テントに行った。

フリーダは一度ティルスに戻り、ベンを含む側近2名もテントに連れて来ている。


テントにはバリドも来ていた。

バリドは無表情でルーやリッケとも目を合わせず、ただ淡々と話し合いに参加している。


その頃にはようやく雨も止み、空は晴れ渡っていた。

日はとっぷりと暮れ、空には星々が(きら)めいている。


「停戦は確定だ。

まずは、ティルスとギルフの復旧を急がねば。

いつまた豪雨が訪れるかわからない。」

フリーダとダグは、敢えて内戦の事は触れずに住民の生活の話を優先させた。

ソ族とレフ族が共同作業をさせるように仕向けたのだ。


「ティルスには物資はある。

が、人がいない。

特に男手が少ない。

水没した家屋も多く、建物の復旧が困難だ。」

フリーダはティルスの現状をありのまま話した。


「ソ族側の男手は豊富だ。

傭兵達はティルス同様逃げてしまったがな。

土砂崩れがいくつかあるが、今のところ家屋の被害は軽微だ。

ソ族の男達をティルスに派遣しよう。

逆に食料を含めた物資や道具が足りていない。

それらの提供をティルス側にはお願いしたい。」

ダグがそう要請した。


そこで、ソ族の人手をバリドが、物資や道具類をベンが一度金に換算した。

そして、お互いの必要分を割り出し、それらを相殺する。

結果的に、ティルスのレフ族側がソ族に対して、数ヶ月分の借金をする事でまとまった。


それらが決まった頃にはすっかり夜更けになっており、ルーとリッケは大人の話に舟を漕いだ。

レベナも病み上がりで体力がないためか、ルーとリッケの肩を抱きながらコクリコクリとした。


そして、日が変わる前にはなんとか解散になり、ルー、レベナ、リッケの3人はギルフのリッケ宅に移動して寝た。

久々に安心して眠れる夜となった。


 ◇ ◇ ◇


翌日。

すっかり事態は解決し、皆仲良く全てが丸く収まる。

そう、ルーは思っていた。

だが、事はそんなに単純にはいかない。


朝食後、外が騒がしくなり、ルーとレベナ、リッケの3人が家の外に出てみると、ギルフの中央広場に人だかりが出来ていた。

北側にはソ族の男達、南側にはレフ族の男達が集まって何やら揉めているようだ。


どうやら騒ぎの中心はバリドのようだ。

ダグがバリドの腕を掴み、彼が飛び出すのを止めているのが見える。


「やめろ、バリド!

やっと戦争が終わりそうだというのに、お前が感情に走るな!」

「離せ、ダグ!

俺は俺の公としてやるべきことをやった!

もう解放してくれ!

後は俺としての、父親としての感情のために行動させてくれ!」


ダグはバリドが感情を爆発させるのを始めて目にした。

バリドの口元の冷笑は、彼が感情を抑え込んでいる現れだったのだ。

今まで時間を共にして来た相棒の圧迫された忍耐を知ったダグは、それ以上、バリドを止めることが出来なかった。


ダグの拘束から解放されたバリドが、レフ族の前に出ていく。

それに相対するように出たのはベンだ。


「何故だ、バリド。

昨日は遅くまで語り合ったではないか。

お前となら上手くやれると思える瞬間もあったんだぞ。」

「ベンよ。

お前に個人的な恨みや不満はねぇ。

あの女を出せ。

フリーダを。

あの女の前で、俺の娘は殺されたんだ!」


「そんなことはできない!

バリドよ。

ティルスは、実質フリーダ様がまとめ上げているのだ。

個人的な遺恨に差し出すわけにはいかない。

そんな当然の道理、お前ならわかるはずだろう!」


その時、フリーダがベンを遮るように前に出た。

「フリーダ様!

いけません!」

「良い、ベンよ。

停戦し、互いの協力体制を築いたところで、それで丸く収まるわけはないことはわかっていたことだ。」

フリーダのその目はどこか悲しげで、力がないことにルーは気付いた。


バリドが叫ぶ。

「南ソ族、軍隊長及び外交長ダグよ!

昨日の決め事の全ての実行権限をお前に託す!

バリドは外交副長を外れた。

私怨により職務を放棄したんだ。」

「了解した…。」

ダグがその宣言に力なく返答した。


そして、バリドは剣を抜いてフリーダに対峙した。

フリーダが口を開く。

「私とて、お前達に友も家族も奪われたのだ。

闘う理由はある。」

そして、フリーダも剣を抜いて剣その先端をバリドに向けた。


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