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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第3章『2つの相剋』 ~
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第18話『魔法』

~ 登場人物 ~


ルー:ヒガ村出身の少女。滅んだヒガ村の村長の娘で、ジンタとは幼馴染み。レベナより魔法技術のひとつであるソウマ術を学ぶ。


レベナ:南方マレイ諸島出身の女性。コルトと共に旅に出るが、現在はルーと共にムレン皇国のカノン王に書簡を届ける旅をしている。


ファイ:レベナの契約精霊。赤くずんぐりした体型をしておりいつも浮いている。火元素の扱いが得意。ラーイオーと呼ばれる存在から遣わされる。


ジンタ:ヒガ村出身の少年。妖刀サヤタカの管理者。武術の心得があり刀の扱いに長ける。コルトと共に旅をしている。


コルト:コメサ村出身の男性。身体が大きく戦闘力が高い。現在はジンタと共にフォルド帝国にいる。


ウォル:コルトの契約精霊。青くずんぐりした体型をしておりいつも浮いている。水元素の扱いが得意。コルトが少年の頃からの付き合い。


~ 国 ~


シュニ:大陸の二大国間に位置する南北に長い狭間の国。首都は最南部のサグラ。王はレンドック。中央より北はほとんど人が住まない地域で、シュニ国内でありながらも治世が行き届いていない。この僻地のクロヌ地域にヒガ村、北方域にコメサ村がある。


ムレン皇国:大陸西部の大国。首都はムクファ。王はカノン皇王。魔法技術に優れる。土地のほとんどが森林地帯で人口も多く、いくつかの部族に分かれる。


フォルド帝国:大陸東部の大国。首都はツェイベク。王はマズカール皇帝。金属精錬にはじまり軍事技術に優れる。土地のほとんどが岩場で鉄鉱石が採れる。


挿絵(By みてみん)


 ◆ ◆ ◆


~ 第3章『2つの相剋』 ~


ルーとレベナは馬車に揺られながらムレンの林道を進んでいた。

ムレンの国境の街ゴーフで、安いながらも軍のそれよりも乗り心地の良い専用馬車を見つけられたのだ。

シュニでは見なかった変わった形の馬車で、側面前後に通した柱のような板が振動を抑える構造をしている。

彫り物も凝っていて、どこか異国感のある意匠が施されていた。


ゴーフは国境の街ということもあり、多種多様な建物や店が入り混じって栄えていた。

関所はゴーフに隣接されており、シュニ側とムレン側は同じ施設内に同居している。

検閲は軽い荷物検査程度でスムースに通過できたし、ムレン側はシュニからの旅人を歓迎している雰囲気さえあった。


ジンタとコルトが関所で苦労していることを知らないルーは、異国への入国とはこういうものなんだろうと特に感想を持たなかった。

だが、レベナは何かを察知したようで、

「あっちは苦労してるみたいね。」

と呟いた。

ルーが訳を聞くと、ジンタの護符などからそういうものが伝わってくるのだという。

ルーもジンタの護符に対して真似をしてみたが、言われてみればそんな気がするような、しないような。

要するによくはわからなかった。


馬車の御者はリッケンドットという、ルーよりも若い快活な少年だ。

「リッケと呼んでください!

御者はまだ2年目ですが、よろしく!」

とその少年は明るく挨拶をした。


馬車の料金の安さはこの少年の年齢にもあるようだが、元は傭兵志望でそれなりに短剣が使えるとのことだ。

1年前に起きた紛争で両親を亡くし、両親の馬車を受け継いだらしい。


レベナは少なからず近接戦闘ができる方が魔物との戦いに巻き込まれたときに身を守れて良いだろうと考えた。

その旨を彼に伝えると、道中の魔物戦は負けたことがないから任せて欲しいと明るく答えた。

女性2人、しかも1人は同年代の女の子を運ぶのだ。

リッケは張り切っていた。


馬車はルーとレベナを乗せて木漏れ日の中を進んでいた。

荒野が続くシュニ南部から離れると次第に木立が増え、今は広葉樹林の中に拓かれた道を進んでいく。

道もそれなりに整備されており、馬車の揺れも穏やかだった。


少し湿った爽やかな風が吹いてルーの髪を揺らした。

鳥のさえずりや虫の鳴き声の中、馬車はカラカラと進む。

林の中は荒野に比べて温度が低く快適だ。


レベナは、馬車の中でルーに魔法の知識を教えていた。

「私達は魔法のことを“ソウマ”と呼んでいるわ。

ソウマ術には大きく分けて3種類。

元素系と霊力系、そして契約系。」

理論的な話となってルーは難しそうな顔をして姿勢を正す。


「元素系は、地水火風空の5大元素を操って半物質の光球を作り出すテクニックよ。

主に、体力回復、眠りや麻痺、発熱や冷却、浄霊などの効果を出せるわ。」

「おとぎ話のように、火とか水とかを大量にバーっと出せたりもするのかしら?」

「理屈上はね。

でも、そういう大質量の物質化にはそれ相応のエネルギーが必要なの。

個人の魔力だけでは少し難しいわね。

無理に発現すると、最悪の場合は生命力さえも奪われて死ぬ可能性さえあるわ。」

えっ、こわい、という顔をルーがした。


「霊力系は、その名の通り個々人の霊力を使うものなんだけど、正確にはソウマ術というよりは本人の霊能力と術を併用する感じかしらね。

霊力を使うと、肉体の制限を超えて対象とつながることができるの。

そうすると、相手の情報を得たり、氣の流れを変えたりできるわ。」

「目的によっては危ないわね…。」


「そうね。

霊力系は本来は距離や時間さえも関係ないんだけど、よほどの達人でもない限り、眼の前に対象が見えていないと難しいわ。

また、生まれついての名前である“真名(まな)”も使って対象に呼びかけるとより効果的になるわ。」

「距離も関係ない…。」

ルーはジンタに渡した護符の事を考えていた。


護符をレベナと作ったときもそのことは聞いていた。

それでも、その時はジンタは歩いて会える距離にいた。

しかし今は遠く離れたところにいる。

生まれてこの方、ここまでジンタと遠くに離れたことはなかったことをルーは思った。


いつも近くにいる人…。

村が焼かれても、タジキを失ってもジンタだけは近くにいた。

そう思うと胸が熱くなるものがある。


ルーはジンタに渡した護符に意識を向けてみる。

関所を渡るときの真似事とは違い、その気になって本気でやってみた。

すると、ふと風が身体を抜けるような涼しい感じがした。

そこで、目を閉じてもっと集中してみる。


そこは、黒い部屋にある籠の中のようだった。

なぜ、ジンタは護符を外しているのか。

不審に思って周囲を探ってみる。

すると、ぼんやりとジンタの姿が見えて来た。

また、その横にはコルトらしき身体の大きな人物がいる。


「あれ?」

ルーが裏声を発した。

ジンタの姿が鮮明化してきた。

「きゃっ!」

なんと見えてきたジンタは全裸だった。

更に、横に並んでいるコルトも全裸のようだ。


ルーは即座に目を開けて意識を逸らした。

その顔は真っ赤だった。

「どうしたの!?」

レベナが驚いてルーの顔を覗き込む。

「いえ、なんでも…。

なんでもないの!」

ルーは焦って顔を振った。


「あらあら…。

契約系についても説明しちゃうわね?」

「えぇ!

お願い!」

ルーは別のことに意識を向けたくて慌てて答えた。


「契約系は、物質的な肉体を持たない霊的存在に力を使ってもらったり、協力してもらったりする方法よ。

名前の通りしっかり契約を結ぶこともできるけど、その場合はなんらかの対価を求められるわね。

それよりも、目的を同じくする存在と仲良くなって助けてもらった方がいいわ。」

「そんなことができるの?」


「ルーも既に実践してるのよ。

ジンタにあげた御守りは、高次元の天使とか言われる存在の力を借りてるのよ。

天使達は見返りを求めないから安全に協力を請えるけど、術者の意識レベルが高くないと十分な恩恵は得られないわ。

また、目にも見え触れもできる精霊とか妖精とか言われる存在に働きかけることもできるわ。」

「精霊とかって仲良くなれるの?」


「えぇ、そういう存在との出会いがあって相性が良ければね。

コルトがそうよ。」

「え!?

コルトが?」

「そうよ、彼は本当はソウマ術とかは苦手なのよ。

10代の頃に出会ったウォルという精霊と仲良くなって今も行動を共にしているわ。」

「そうだったの?

何も見えなかったけど。」


「高次元の存在となると、見えないことが多いの。

でも、ウォルは独立して行動したいときは勝手に出てきたりするわよ。」

「そうなんだ。

見たかったなぁ。」

「いずれ見られるわよ。」


「私もそういう精霊と仲良くなりたいな。

どうやって仲良くなったのかしら。」

「私も詳しくは知らないわ。

コルト、その辺り詳しく教えてくれないのよ。

でも、多分、私とコルトが出会った頃に同じく出会った精霊だと思うわ。

コメサ村の結界に精霊が入れないとか言ってたから。

もう10年以上前の話ね。

ちょうど、コルトがルーやジンタと同じ年齢の頃の話よ。

懐かしいわ。」


「なんでコルトはその辺りを話してくれないのかしら。

そういうところを内緒にするようには見えないけれど。」

「実はその辺りの事は状況からだいたい察しはついているの。

当時、コルトはひとりの親友とそのウォルの3人で村の外を冒険していたわ。

ケイバル村長もその辺りはわかってたみたい。

でも、ある祭りの日、コルト達は帰って来なかった。

そして、翌朝にコルトだけが帰ってきたの。

そこにその親友の姿はなかった。

それからね、コルトが真剣に強くなろうとしたのは。」


「親友を亡くしたのかしら。」

「そうなんだと思うけど、村長もその子の先生も妙に納得した顔をしていたわ。

その子のお母さんは流石に悲しんだけど、悪いことが起きたようではなかったわ。」


「どういうことかしら。」

「わからないわ。

色々文献とかを読んで仮説は立ててみたんだけど、確証がないわ。

下手にまた外野が騒いでコルトを傷つけたくないのよ。」


ルーはそれ以上聞くのは野暮だと思った。

馬車は林の中を進んでいる。

足元で木漏れ日がチラチラと点滅している。

馬車に揺られながら、ルーは思索に耽った。


 ◇ ◇ ◇


昼前になると馬車は徐々に森の中の道に入っていった。

木々が鬱蒼と茂り、他の旅人も見かけなくなり、心なしか鳥達のさえずりも減ってきている。

馬車の(ほろ)の中は薄暗く、レベナとルーも流石に長時間の運行に疲れてきた。

夜までには、次のティルスの街まで辿り着きたい。

この暗い森で野宿するのは避けたかった。


突然、馬が(いなな)き、馬車が急停止した。

リッケが慌てて振り向いて幌の中のルーとレベナに告げる。

「魔物です!

中にいてください!」

リッケは御者台から飛び出して短剣を抜いた。


見ると、前方に小人のような老人のような風体のゴブリンが2体いて道を塞いでいる。

2体からは黒い霧のようなオーラが立ち上っており、凶暴な目つきをしている。

リッケが対峙すると襲いかかってきた。


「キー!」

ゴブリンが叫んでリッケに飛びかかってくる。

リッケは素早い動きで横に避けて一体の腹を短剣で切り裂く。

「ギャ!」

切られた一体はそのまま地面でうずくまる。

そしてそのまま絶命し、黒い靄のようなオーラも消えた。


倒れたゴブリンに最初の攻撃を阻まれたもう一体が飛びかかってきた。

これも同じく攻撃を回避して横腹を裂いて倒す。


悪くない動きだとレベナは思った。

だが、ジンタやコルトのような、武術を習った者の動きではないことも明らかだ。

実戦的ではあるものの、荒削りで軸がない。


リッケがナイフを収め、得意気に御者台に戻ろうとしたその時、北の森の中から更に5体のゴブリンが出てきた。

「魔除けをつけているのに!」

リッケが叫んで再び短剣を抜いて構える。


「ひとりでは危険だわ!」

そういってレベナとルーが馬車から降りて来た。

「でも!」

リッケが申し訳なさそうにレベナを見る。

「大丈夫。

私達もけっこう魔物慣れしているのよ。

ルー、左端の魔物を眠らせて!」


ルーはソウマ術の詠唱に入った。

解想法と同じ、まずは意識の制御から入る。

自らの氣を広げて天とつなげるイメージをし、身体の中心線を天と地を貫く光の柱にする。


そして、自らを包む空間の、そのまた背後の“()”から空元素を集める。

更に、その空元素を風元素に畳み込む。

同じく、風元素から火元素を。

火元素から水元素、水元素から地元素を畳み込み、集める。


集めた元素のバランスを変え、水元素と地元素の量を増やす。

眠りを誘発するには、水元素と地元素を過剰化させる必要があるのだ。

それらを一気に両手に凝縮させ、周波数を落として物質化させる。


ルーはこの瞬間があまり得意ではなかった。

物質化の喜びとは逆に、自分のエネルギーが削がれる感触があるのだ。

それは、自分の氣や体温を奪っていく。


胸の前に出したルーの両手の間に淡く光る光球が現れた。

これを十分な量になるまで繰り返すと、光球は人の頭部ぐらいの大きさになった。

ルーは半眼だった目を見開き、左端のゴブリンを見定めた。


ルーは最後の詠唱を終えて、光球をゴブリンに投げつけた。

光球は一直線に高速に宙を飛び、左端のゴブリンに当たる。

そのゴブリンは即座に意識が混濁し、深い眠りに入った。


「ルー、良い感じだわ!

少し休んでて!」

レベナがルーを称賛した。

初めての元素系ソウマ術を成功させたのだ。

ルーは物質化の軽い疲労感から、言われた通りレベナの後方に移って休んだ。


レベナが既に2体のゴブリンをナイフで倒していた。

リッケは今回は苦戦していて、2体と交戦中だ。

しかし、リッケが同時に相手していた左端のゴブリンが眠ったため、戦いはリッケに有利になった。


リッケは右のゴブリンに短剣で斬りかかった。

ゴブリンは避け切れず腕でガードしたが、その腕を短剣が切り裂く。

「ギャー!」

ゴブリンが叫ぶ。

その隙に、リッケはゴブリンの懐に入り込んで、腹を切り裂いた。

ゴブリンはそのまま倒れて絶命する。

黒い靄のようなオーラが霧散した。


その横では、レベナが眠ったゴブリンを倒していた。

「魔物とはいえ、生き物を殺すのは良い感触ではないわね…。」

そう言ってレベナはナイフの血を拭って鞘に収めた。


「お二人共、凄いです!」

リッケが感動して声を上げた。

「何か魔法の話をしているな、とは思ってましたが、本当に使えるとは!」


「ルーは初めての魔法戦だったのよ。

細かい練習は繰り返してきてたけどね。」

「僕、ムレン人だけど、魔法を間近で見るのは初めてですよ。」

「そうなの。

ムレンは初めてじゃないけど、一般の人の暮らしぶりとかは見られなかったからその辺りは知らないのよね。

王都は魔法に満ちていたから、他の地域もそうなのかと思ってたわ。」


リッケは暗い顔をして言った。

「ムレンは王都とその他の格差が激しいんです。

特に中央部は内戦が激しいし。

東部は常に帝国の脅威に晒されていますし。

王都のみが天国なだけです。」

「そうなのね。

王都しか見てなかったから、私の知っているムレンはごく一部だったわ。」

「それでも、王都に行ったことあるなんて羨ましいです。

僕みたいな魔法の使えない一般人は入ることさえ叶わないですから。」

「そうなの…。」


どうやら、レベナが思っていた平和なムレン像は偏った印象に過ぎないようだ。

シュニの治安の悪さと言い、何か良くないことがこの大陸全土に起きているのではないかとレベナは思った。


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