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妖刀の末裔と緋のソウマ使い  作者: 白峯
~ 第2章『正義の刃』 ~
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第13話『会談』

訓練場の混乱はファラミス軍が収めた。


結局、黒い男達はシュゼの部下達で、シュゼの投影が消えると共に音もなく消えた。

彼らもシュゼ同様に投影体で、気体のような実態はあるものの、その場で霧散していった。


調整兵審査は一時中止とされ、ファラミスは急ぎコルトとの面会を設定してくれた。

シュゼ襲来3時間後の夕刻前に、コルトとレベナは軍本部のファラミス執務室に呼ばれた。


ジンタとルーは、軍本部の会議室で待つ手筈だったが、コルトが2人だけにできないと、交渉してファラミス執務室に同行することになった。

あんなことの後だから無理もない、とファラミスが気を利かせてくれたのだ。


ファラミスの執務室は、質素な石造りそのままの部屋であった。

ガマフ軍本部の最上階にあり、いくつかのタペストリーや軍旗、観葉植物などが部屋に色を添えている。

入り口付近に革製のソファがあり、奥にファラミスの木製で濃褐色の机が置いてある。


しかし、何よりも華やかなのはファラミス本人で、軍服の上の美しい顔と金髪が武骨な部屋で異彩を放っている。

ジンタにはファラミスが男性なのか女性なのか区別がつかなかったが、声のトーンや口調からはどうやら男性のように思えた。


軍本部に入る前、再度合流したグラムから聞いた情報によると、ファラミスはそのカリスマ性から武官のトップになった人らしい。

統括力や洞察力には定評があるが、個人的な武功は決して高いわけではないとのことだ。

グラムに、シュゼという人物についてもその時に聞いてみたが、はっきりとしたことはわからなかった。

しかし、どうやらシュニ国の要人で、それもここ1,2年で現れた人物のようだ。


ジンタ達がファラミスの部屋に通されると、念のためということで武器を兵士が預かった。

ファラミスは申し訳なさそうな顔をする。

どうやら、ここでの基本ルールはファラミスの部下が牛耳っているようだ。


コルト、レベナ、ジンタ、ルーの4人はソファに座らされた。

臨時のイスが用意されて、そこにファラミスが座る。

ファラミスの4人の部下が、その周囲を取り囲むように立っている。


まずコルトが自己紹介をした。

「改めまして、私はコメサ村から村長のケイバルの遣いとして来ましたコルトと申します。

こちらは、同じくケイバルより遣われたマレイ出身のレベナです。

こちらの2人は、クロヌ地域のヒガ村から訳あって旅を同行しているジンタとルーです。」

3人がそれぞれファラミスに頭を下げる。

ヒガ村の名前は、ジンタは審査時に出さなかったが、事前に話し合ってファラミスには告げることにしていた。


「私はシュニ国第一軍部大将のファラミスだ。

ケイバル様とは、以前王との会見時に同席させていただき、そこで少しお話しさせていただいた。

大変聡明な方で、私もあのお方の導きで軍部の大将になったようなものだ。」

ファラミスは、とても嬉しそうに微笑んだ。


「まさか、ケイバルと既に面識がおありだったとは。

王様への紹介状をお出しすればもっと早くにお会いできたのかもしれませんね。」

「いや、うちの部下達は頭が固いからそれは難しかったと思う。

まぁ、積もる話は後にして本題に入ろうじゃないか。」


「はい。

こちらがケイバルより預かっている書簡です。」

コルトは布で仰々しく包まれた分厚い手紙を荷物から取り出した。

それには幾何学模様が描かれた封がしてある。


「少々お待ちを。」

そういって、コルトが何かをボソボソと呟く。

次に、レベナが同じく書簡に向かって呟く。

すると、封がすっと解けた。


「どうぞ。」

コルトがファラミスに書簡を渡すと、ファラミスは立ち上がった。

「失礼。」

周囲に立つ部下の目にも触れぬように、ファラミスは自分の机でそれを読む。


ファラミスは3分程かけてそれを読んだ。

そして、目を(つむ)ってフーッと息を吐く。

何やら重大なことが書かれていることが彼の態度から読み取れる。


「お前達、席を外せ。」

ファラミスが部下4人にそう告げる。

「しかし!」

「大丈夫だ。

この方達はおそらく王を救って下さるお方だ。

信用しろ。」

部下の中のリーダーと思しき男が驚いた顔をした。


「武器は不要ですので預かっていていただけますか?」

コルトがそう言った。

部下達はコルト達の武器を持って去っていく。

ルーはコルトの素手での強さを知っているので、「危機管理の足りない人達だわ。」と、心の中で呟いた。


「さて、ケイバル様によると、この件は君達と一部共有して良いそうなので、そこについてお話ししよう。

“コルトとその同行者達”と書いてあるので、お若い2人も差し障りなかろう。」

同行者“達”とは、レベナ以外にも仲間が増えることを想定したのだろうか。

ルーは不思議に思った。


「まず、君達には新しい使命が与えられる。」

ファラミスはコルトとジンタの方を向く。

「コルト殿とジンタ…、だったね?」

「はい。」


「コルト殿とジンタ殿は、フォルド国に行って欲しい。

こちらの更に別れた書簡をマズカール皇帝に渡して欲しい。」

「えっ!?」

思わずルーが声を上げてしまった。

ファラミスはルーを見てニコリと微笑む。


コルトは、大きな書簡から出てきた小ぶりな書簡をファラミスから受け取った。

このサイズになるとわかる。

中には小さく硬い棒状の物が入っている。

ペンだろうか。


「そして、もう一枚。」

ファラミスはコルトに何か呪文のようなものが書かれている紙を渡す。

「これが、その書簡の封を解く鍵のようだね。

コルト殿にはそれが読めるのかな?」

「はい。」

それは、コメサ村で読んだ古文書の言葉だ。


ファラミスがレベナとルーの方を向く。

「さて、レベナ殿と―」

「ルーです。」

「うむ。

レベナ殿とルー殿は、同様にムレンに行ってカノン皇王にこちらの書簡を渡して欲しい。

“男達はフォルドへ、女達はムレンへ”とケイバル様は仰られているのだ。」


ファラミスは同様に、小さく硬い棒を包んだ書簡と呪文が書かれた紙をレベナに渡す。

「わかりました。」

レベナがそれを受け取る。

ルーが、大変なことになった、という顔をした。


「君達がどこまで知っているかわからないが、これは、この大陸三大国の紛争を終わらせる重要な使命だと、ケイバル様は仰っている。」

ファラミスが少し暗い顔をした。


「それは、我が君主であるレンドックの悲願であった…。

できれば、もう2,3年早く来ていただきかった…。」

ファラミスがうつむく。

「レンドック王は如何されたのですか?」

レベナにとってもここのところのレンドック王の噂には気になる点が多かった。


「今、王は病魔に侵されている。

シュゼという病魔に。

お会いすればお話し下さるが、もはや以前のお優しい王ではない。

それで、我々臣下達は、やむなく王がご病気ということにして城を閉じたのだ。

今あの城の天守はシュゼが支配している。」


「シュゼとは何者なのでしょう。」

コルトが訪ねる。

「シュニの地方国防大臣だ。

詳細は私も知らないが、約2年前に彼は突然現れて王に近づき、のし上がっていった。

それ自体は問題ないのだ。

王にも我々臣下達にも閉塞感があったのは事実なのだから。

だが、彼の毒は強力だった。

結果、王は毒され、残った臣下達がなんとか対応できたのは王城の閉鎖のみだった。」


「3年前に私が通った後に、そんなことが起きていたなんて…。」

レベナにとっても衝撃であった。

「彼が何者かは私も知らない。

フォルド国の者、ムレン国の者、海の向こうから来た、様々な噂があるが定かではない。

確かなのは、強力な魔力を持ち、魔物を従えていること。

そして、シュニ北域に強い関心を持っている事だ。」


どうやら、ヒガ村を襲った魔術師はシュゼ本人か、その手下の仕業であることは間違いないようだ。

そこで、コルトは今までの事を一通りファラミスに伝えた。

しかし何故かコルトは、妖刀の事だけは強烈な違和感があって、その存在をぼかした。


「本来、地域を守らなければならない地方国防大臣が好き勝手に暴れ、あまつさえ村を滅ぼすなど!」

ファラミスが怒りに震える。

「そしてまた、私の軍の中で貴方達を危険な目に遭わせてしまった。

申し訳ない。」

ファラミスはジンタとルーに詫びた。


「いえ…。」

ルーが涙ぐむ。

村やタジキの事を思い出して悲しかったのもあるが、ファラミスという理解者が現れたことが嬉しかったのだ。


「今の状態や、ケイバル様の意図を考えて、今は王に会われない方が良いだろう。

サグラや王の事は私に任せて、次の使命を全うして欲しい。」

「そのように致します。」

コルトがファラミスに頭を下げた。


「シュゼの事も善処しよう。

ヒガ村の件はまだ公にしない方が良いと思うが、彼の悪行の証拠がまたひとつ増えた。

彼に味方する臣下も少しづつシュゼから距離を置く事だろう。

狡猾(こうかつ)な奴だ、口は達者なので味方する臣下もまだいるのだ。」

どうやら、シュゼという男はかなりの強者らしい。


「ファラミス様もご無理をなさりませぬよう。」

人望はあるが、何処か繊細さを見せるファラミスの事がコルトは少し心配になった。

それぐらい、魔術師シュゼの氣は投影体にも関わらず大きかった。


「ありがとう。

しかし、ヒガの人が“人々の記憶を呼び覚ます”とはどういうことなのだろうか。

何かケイバル様の意図と関連しているような気がしてならない。」

「私もそう思うのです。

ケイバル村長が、“男達はフォルドへ、女達はムレンへ”と、何かジンタとルーの存在を予期してたような指示を出している点も気になります。」

レベナには何か大きな流れがあるように思えて仕方なかった。


「ケイバル様は私の未来をも見通しているように私は感じた。

魔術にも精通されているようでしたし、ヒガの事も何か察知していたのかもしれない。」

ファラミスは改めてじっと手元に残った書簡を見た。


しばらく沈黙が流れる。

これ以上は語り合うべきことはないようだ。


ファラミスはジンタに向き合った。

「さて、調整兵志願者ジンタよ。

君の試合での戦いぶりは見事であった。

使命を終えてシュニに戻ってきたら、是非また我が軍に志願して欲しい。

その時は私との面談のみで通るように取り計らおう。」

ファラミスが美しい顔で微笑む。

「ありがとうございます。」

ジンタはファラミスの言葉がとても嬉しく感じた。


◇ ◇ ◇


出発の段取りを一通り終え、挨拶をしてファラミスと別れた。

執務室を出て、預けていた武器を衛兵から受け取る。

「珍しい武器だな。」

ジンタは竹竿を包んでいた布でぐるぐる巻きにした妖刀を受け取った。

それは木刀よりはるかに長いため、布の上からでは刀であるとは兵にはわからなかったようだ。


出発までは、安全を考えて軍の兵舎に泊めてもらうことになっている。

軍本部前の茶屋で待機していたグラムと会い、ここでグラムとは別れることになった。

レベナは、特にジンタやルーの事は自らの安全のために口外しないようにとグラムに説く。

そして、最後にジンタ達が泊まった宿の精算代行をグラムに依頼する。

たっぷりの謝礼という名の口止め料と、宿の精算費を渡すと、

「あんちゃんらも達者でな!」

と言ってグラムは去って行った。


兵舎へ移動しながら、レベナがコルトの横に並んで小声で話しかけた。

「ジンタの刀の事はファラミス様に言わなかったわね。」

「あぁ、なんとなくその方が良いと思ったんだ。」

「…同感だわ。

何故かはわからないけど。」


ルーが胸の前で手を組んだ。

「それにしてもファラミス様!

美しかったわ!」

「ねー!」

レベナが悪ノリで同調する。


「確かに同じシュニ人には思えない整った顔つきだったなぁ。」

「あら、ジンタも良い線いってるのよ。」

蚊帳の外を決め込んでいたジンタが、えっ、という顔をする。

今度はコルトが蚊帳の外な顔をした。

ルーはジンタの髪型と服装がどうたらこうたらと言いながら歩いた。


顔つきの話題だったからか、ジンタはふと昼間目の合った恐ろしいシュゼの顔を思い出していた。

ヒガ村の誰かに似ていた気がしたのだ。

南の堀の深い顔とは違う。

コルトや自分達のような、あっさりした顔つきに見えた。

案外、シュゼ本人も、北域の血を引いた者なのかもしれない。


宿泊する兵舎は、兵舎といいつつも外部の者が泊まれる小綺麗な石造りの施設で、大部屋をひとつ割り当てられた。

夕食は、兵士に頼んで出前を取り、夕食後は兵舎の共同風呂に男女交代で入った。


残り少ない4人での時間を会話という形で楽しむ。

ジンタもルーも、以前よりはだいぶ明るくなり、よく話した。


レベナもルーとムレンに公式に行けることを喜んでいる。

レベナは、ムレンがシュニやフォルドよりも平和な国のため、ルーを守るには適していると考えていたのだ。


 ◇ ◇ ◇


翌日から2日間は旅の準備に充てた。

まずは地図を購入し、だいたいの道筋を作った。

それぞれの道程には所々に村や町があるため、食料の心配はなかったが、シュゼの手から隠れながらの移動を強いられる可能性もある。

そのため、数日分の食料は買い込むことにした。


服装は、それぞれの行き先に違和感がないものとした。

とはいえ、特使というよりは旅人であるようにすれば良いため、シュニ一般の服装で問題ない。

フォルド向けには黒基調で地味めに、ムレン向けには明るい色使いの服とする。

レベナはもともと派手好きのため、この采配を喜んだ。


ジンタの刀は、軍事国家のフォルド内では旅人も帯剣が認められていたため、隠さないことにした。

もっとも、ムレンもフォルドもシュニ同様、時折魔物が出るため武器を持たないわけにはいかないが。


翌日の早朝、一行は兵舎の前でしばしの別れを惜しんだ。


「ジンタ、元気でね。」

ルーがジンタの両手を握る。

「ルーも。」

ジンタはルーの目を見る。

それは、生まれて()の方遠くへ離れたことのない2人が互いを強く意識する瞬間だった。


うまく事が運べば4,5ヶ月後にはまたこのガマフで再会する手筈だ。

しかし、ここまでもトラブルの連続だった。

何が起きるかはわからない。


「はい、これ、新しい御守りね。」

レベナが新しい護符をジンタに手渡した。

思えば、あの時この護符がなければジンタは死んでいたかもしれない。

試合で善戦できたのもルーの護符による運の向上やもしれない。


「ありがとうございます。」

ジンタはそれをありがたく受け取る。

そして、ルーの護符同様、首にかけた。


ファラミスが来て4人を見送る。

「国境までは護衛をつけよう。

まぁ、君達のみの方が安全かもしれないが、関所で意地悪される可能性は減るだろう。」

そう言って、それぞれに2人の護衛をつけてくれた。


「今日はこれから、調整兵の審査の続きだ。

試合は終わっているから、シーダとザップの面接のみだが。」

「彼らなら良い兵士になるでしょうね。」

「シュニに戻ってきたら、サグラに行く前にガマフの軍部に拠ってくれ。

門番に通すように伝えておこう。」

コルトは頷いた。


「さぁ、そろそろ国境へ向かおう。」

コルトがそう宣言すると、ジンタが荷物を担ぐ。

「ルー、元気で。

また冬に会おう。」

「ジンタも元気で。

コルトの言う事をよく聞いてね。」

「コルト、ジンタをよろしくね。」

「あぁ。

レベナもルーをよろしく。」

任せて、とレベナがガッツポーズをとる。


ファラミスをその場に残して一行は東西に別れた。

ルーは度々振り返ってジンタに手を振る。

ジンタもそれに合わせて手を振り返した。


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