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女の闘い、そして……

 美女は俺に駆け寄ると、そのまま抱きついてきた。


 俺は硬直して動けない。「ウワッ!」とか、驚きの声を出すこともできない。


「我は、お主の非道っぷりに猛烈に感動しておる。生まれて初めて感動しておる」


 美女の涙が、俺のワイシャツを濡らす。


「かくまっていた王女を、レベルを越されて妬んでいた勇者と一緒に引き渡して、大金を手に入れるなんて素晴らしすぎるぞ。我は初めて泣いた。これが涙というものなのだな。そして、これが感動という感情なのだな」


 喋り方にクセがあるが、それぐらいではこの恋は冷めてくれなかった。ダメだ、俺には妻と2人の娘がいるんだ。


 美女は俺の胸から顔を離して、俺を見つめだした。


 ドキンッ、ドキンッ、ドキンッ。やばいです。もう、やばいです。これぞ、大和撫子という風貌の美女に俺の心はどんどん鷲掴みにされる。


 ずっと俺を見つめている。


 こ、これはもうゲスだとかクズだとか、なんとでも言われていいから、男ならチューするしかないよな。いや、むしろ美女にこんなに見つめられてチューしないなんて、男じゃない!! それがジャンプを読んで育った男というものだ!!


 俺が唇を尖らせて、美女にチューをしようとすると、


「何をしようとするのじゃ! この無礼者が!」


とビンタされてしまう!!


「我のほうから、接吻するのを待てぬのか! この身の程知らずめ!」


 やはりクセのある喋り方と、清楚で品のある風貌に似つかわしくない乱暴な言葉に驚きを感じたが、もっと驚くことがあった。


 美女にビンタをされた衝撃で、顔が横を向くと、そこにはマリーヌの姿があった。どうして、ここにマリーヌが!?


 バシッ!! 俺はマリーヌにもビンタをされる。もちろん、文句は言えない。ビンタではすまないことをした。


「どうして、私がここにいるのか知りたくてたまらない顔ね。モンジャーがお父様に引き渡したのは、私の影武者なのよ。こんなこともあろうかと、私に瓜二つの娘を見つけて、いざという時に私のふりをしてほしいと頼んでいたの。『王女様になれるなんて最高です!』って喜んでくれたわ。まったく、とっさに召喚しなかったら危ないところだったわ」


 バシッ!! バシッ!! さらにマリーヌに2発ビンタされる。


「それにしても、ミカエムったら。私の影武者にちっとも気付かないんだから。お父様もお父様よ。あっさりだまされて、こんな最低ヤローに報奨金を渡してしまうなんて!!」


 ちょっと待て! その怒りを俺にぶつけるのは間違っていないか! 俺だって気付かなかったのに、あのミカエムが影武者に気付くと思うか? 国王は確かに、自分の娘を間違うなんて、もってのほかだ。今度会った時には、説教をしてやろう。


「それで、その女は誰なのよ?」


 不機嫌極まりないマリーヌが、俺を恋に落とした美女を睨みつける。


「それがまだ出会ったばかりで、名前も知らなくて……。あっ、いや、正確には出会ったばかりではなくて、ずっとペガサスに変身していて……」


「えっ、あのペガサスに?」


「そう、マリーヌとミカエムを乗せていたペガサスに変身していたんだ」


 バシッ!! 俺はまたマリーヌにビンタをされる。


「ミカエムの名前は出さないで!!」


 わ、わかったよ。妻の彩夏にもビンタされたことないというのに、こんなにビンタされるなんてたまったものじゃない。


「ダハハハハッ。ダハハハハッ」


 美女は俺から体を離すと、お腹を抱えて豪快に笑う。


「ミカエムはおもしろい奴だなあ。我はミカエムが好きであったぞ。男としてな」


「なんですって!!」


 美女とマリーヌの視線が激しくぶつかる。


「勇者の気配を感じた我は、ペガサスに変身して、お主たちに近づいたのだ。つまらない勇者であったら、さっさと始末してしまおうと思っておったが、ミカエムは実に愉快な男であった。あまりにもおもしろいから、ついついペガサスに変身したままになってしもうた」


「変な喋り方。あんた、いったい何者なのよ?」


「魔王じゃ」


 えっ、魔王? 無双で好き勝手暴れているという魔王が、この美女……。


 マリーヌも絶句している。


 天使でも、女神様でもない。俺は歴代最強の魔王に恋をしてしまったのか?

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