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 ソファに腰掛けて窓を開ける。


「いらっしゃいませ。モンジャー様。いつもご苦労様です」


 異世界間銀行のカウンターにつながり、俺の担当のエルフ、ギッドエルが対応してくれる。無駄話は一切せず、きちっと仕事をしてくれる好青年だ。もし、人間だったら、娘の彼氏になってもいいくらい好感が持てた。


 俺は金貨1250枚を渡す。


「これを向こうの世界に送ってくれ」


「かしこまりました」


 ギッドエルが金貨1250枚を受け取る。


 金貨50,000枚も、もらったのだから、多めに送金しようかと思ったが、あまり送りすぎるのもよくないのかもしれないと考え直し、予定通り金貨1250枚を送ることにした。


 それにしても、毎月80万円も仕送りしているのに、足りなくなったとはどういうことなのだろうか?


「はい、確かに奥様のご口座に送金させていただきました。それでは、失礼致します」


 ギッドエルが窓を閉める。


 すると、また窓の外にはリストン王国の美しい海が広がる。


 景気の話だとか、投資の話だとか、無駄話がなかったおかげで、心地よい気分で景色を見ることができる。ギッドエルのおかげだ。前の担当は、辞書にのっている言葉を全部使うつもりなのか、と思うくらいお喋りな奴だった。


 嫌なことを思い出してしまった。


 俺は家から出て、外の空気を吸う。


 ペガサスが、目を真っ赤にして怒っているようで、俺を睨みつける。


「そう怒るなって」


 俺は魔法で山ほどの人参を出してやるが、ペガサスはプイッと顔をそむける。普通の馬と違って、人参は嫌いなのかな?


 おっと、俺が外に出てきたのは、ペガサスにエサをやるためではない。


 金貨もたっぷり手に入ったことだし、確認してみることにしよう。このモヤモヤッとしている時間が無駄で仕方ない。


「おーい! ミチェル! 妻に電話をかけさせてくれ!!」


 俺が上空に向かって叫ぶと、


「はいはーい! 20秒で金貨50枚かかるけどよろしいですかー?」


 上機嫌な声でミチェルが返事をする。俺が金貨50,000枚を手に入れたことを知って、ちゃっかり通話料も値上げしてやがる。


「あれっ、前は20秒で金貨30枚だったよな」


「ああ、あれは向こうの世界から電話がかかってきたときの料金なの。こちらからかける場合は、ちょっと、あれで、その、あれで、とにかく、あれで、20秒で金貨50枚になるのよ」


 嘘だな……。まあ、いい。この時間ももったいない。


「わかった。妻に電話をかけてくれ」


  トゥルルルー。


「あっ、あなた、ちょうどよかった!」


 妻の彩夏がすぐにワンコールで電話に出る。送金されたことを確認したところで、ありがとうって言いたかったのかな。そんな、家族なんだから礼なんていいのに。父親として当たり前のことをしただけだぞ。


「今月の25日って、あなたと私が初めて手を握った記念日でしょ」


 ん、そんな記念日あったか?


「だから、一目惚れしたトートバッグ買っちゃったの。来月引き落としだから、来月は50万円多く仕送りお願いね」


 ご、50万円だって!?  初めて手を握った記念日とやらでそんなものを買わされたら、誕生日とか結婚記念日とかにいったい何を買わされることになるんだ? クルーザーか? 別荘か?


「おいおい、そんな高価なもの勝手に買われたら困るよ」


「だって、あなたに相談したくても近くにいてくれないじゃない。寂しいのよ私、だからつい、買っちゃって」


 そう言われると困ってしまう。確かに、この世界に来たのは俺のわがままと言えばわがままだ。向こうの世界より楽して稼げるから、俺は家族と離れてこの世界から仕送りしている。寂しい思いをさせているのなら仕方ないか。


「わかったよ。だけど、これ以上は無駄遣いしないでくれよな。80万円も仕送りしているんだぞ。なんで今月の生活費が足りなかったんだ?」


 これだ。俺がわざわざ20秒で金貨50枚というバカ高い通話料を支払ってまで確認したかったのは、このことだった。


「ああ、それは、夏希と紗麻亜のお洋服代とか、美容院代でちょっと使っちゃって。あの子たちも、もうそういう年ごろだから。確かに、私も使いすぎかなって思ったのよ、でも…」


「でも、なんだよ」


 どんな理由があれ、子供の洋服代とかで15万円は使いすぎだろ。


「夏希も初めての彼氏ができたことだし、母親としてはオシャレさせてあげたいなって思って、ついね…。そしたら、紗麻亜がお姉ちゃんだけズルいって言いだして…」


 ちょっと待て! 今、問題発言をサラッと言ったな。


「夏希に彼氏……」


「そうよ、2年生でサッカー部のキャプテンを任された学校一、いやこの街一番のイケメン君よ。充希みつき君っていうの。勉強もできて、彼はきっと大物になるわね。夏希は見る目あるわー。さすが私の娘ってとこね」


「ちょっと待って、聞いてないぞ」


「だって、あなた遠くにいるし……。夏希にもパパには言わないでって頼まれていたから」


「とにかく、夏希に電話をかわってくれ」


「それは無理よ」


「なんでだよ! 早く電話をかわれって!」


「もう、そんなに怒らないでよ! だからパパには言わないでって言われちゃうのよ。まったく。あのね、夏希は今、その充希くんとデートに出かけているから、電話に出ることができないの」


 デ、デートだと!! ゆ、許せん!! 充希とやらめ!! 魔王なんぞよりお前を今すぐ倒しに行きたい!!


「あっ、それから紗麻亜も塾で知り合った子に告白されたから、もうすぐ彼氏ができちゃうかも。うふふふふっ。お姉ちゃんに彼氏ができたのを見て、羨ましがっていたから多分、付き合っちゃうわね。今日は、3対3のグループ交際で遊園地にお出かけしているわよ。若いって、いいわね。キラッキラしているわよ、あの子たち」


 ダ、ダメだ。立ち眩みがしてきた……。


「ミチェル、電話を切ってくれ……」


「はーい。5分32秒で、金貨850枚になりまーす!電話をかけるときは、またいつでも呼んでねー」


 通話料で金貨850枚もぼったくり、かなりミチェルは上機嫌だった。


 しかし、今の俺は通話料で金貨850枚取られたことなんて、まったくショックに感じない。


 それは、マリーヌを引き渡した見返りに、金貨50,000枚をもらったからではない。


 まだ中1の長女の夏希に彼氏ができてデートに行っているからでもない。


 小5の次女、紗麻亜に彼氏ができそうだからでもない。


 妻の彩夏に、浮気の気配を感じたからでもない。


 ぺ、ペガサスが、目を真っ赤にして俺を睨みつけていたペガサスが、立ち眩みするほど、神々しく輝く美女に変身したからだ!!


 天使…? それとも女神様…?


「こんなに美しい物体を初めて見た…」


 心の声が溢れ出る。


 清楚な黒髪と、白のレースのドレスがおそろしいくらい似合っていた。顔、スタイル、全てが黄金比で形成されているのだろう。見た者の心臓を止めてしまいそうな美しさだ。


 大丈夫か? 俺は無事か? ちゃんと息できているか?


 神々しく輝く美女は、大きな瞳を真っ赤にして、俺を睨み続けている。


 やばい、俺は、この美女に一目惚れしてしまっている!!

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