弟子の勇者はバカだが強くなるスピードが異常に早い‼︎
俺はモンスターの巣窟となっている樹海に向かって駆け出す。もう少し先にある、千年迷いのダンジョンに行ったほうが強くてたくさんの金貨をくれるモンスターがいるのだが、レベル51で行くにはギリギリすぎる。
モンスターは怖くないが、俺を嫌っていて、俺よりレベルの高い戦士がいるかもしれない。一度入ったら千年は出てこられないという本格的なダンジョンだ。
そんな危険なところに入っていく戦士だから、その可能性は十分に考えられる。標的をモンスターから俺に変えられたらたまったものではない。
ここは、安全に近くの樹海に行ったほうがいい。
すると、ペガサスに乗ったミカエムとマリーヌが俺を追い越す。
「ミカエム、マリーヌ、気持ちはありがたいが引き返して待っていてくれ!」
とにかく1分1秒無駄にできない。モンスターを金貨に変えまくって、明日までに金貨1,250を集めないといけないのだ。ミカエムとマリーヌの面倒を見ている暇はない。
「嫌だね! 師匠のピンチなんだ! ここで役に立てなきゃ男じゃない!」
さすが、勇者。ジャンプ的なセリフを平然と言う。
「だけどな、ミカエム。今のお前じゃ、正直足手まといなんだ。今、レベル8くらいだろ」
「ん? 師匠いったいいつの話をしているのさ。俺はもうレベル50だ。ニヒヒヒヒッ。もうちょっとで、師匠追い越して見せるからな」
なんだって! 俺が金貨優先でモンスターを倒して経験値をおろそかにしている間に、そんなに強くなっていたのか!
聞くのが怖いが、マリーヌにも確認しておこう。
「マ、マリーヌは…」
「私のレベルは122です。金貨優先のモンジャーとも、だれかれかまわず戦闘するミカエムとも違って、先ほどの戦士たちと同様に効率よく経験値が加算されるモンスターを倒してまいりました」
ぬおっ! マリーヌにはとっくにレベルを追い越されていたのか!!!!!
某漫画の、自然を操る能力に頼りきりで、本当の実力者にあっさり負けてしまうキャラを思い出した。俺は今、そんな感じになっていやしないか?
これからは、レベルアップのことも真剣に考えていこう。だが、今はまず、明日までに金貨1,250枚を集めることに集中しよう。
「よし、今回は特別に連れて行ってやる。そのかわり、足手まといになったら置いていくからな」
「ヘヘヘッツ、師匠に俺の強さ見せてやるもんねー」
「モンジャーと一緒に戦えるなんて光栄ですわ」
俺は手当たり次第に遭遇したモンスターに触れて金貨に変え、ミカエムは今お気に入りの武器、竜王石のハンマーでほとんどのモンスターをほぼ一撃で倒し、マリーヌは仲間にしたモンスターを召喚して悠々と敵モンスターを倒した。
こうやって一緒に戦ってみると、ミカエムは勇者ならではの嗅覚なのか、強いモンスターを見つけるのことが得意だとよくわかる。そして、弱いモンスターと遭遇しても、見向きもしない。そのミカエムが見逃したモンスターたちを、マリーヌが経験値を多くもらえるモンスターを優先して倒している。見事な連係プレイだった。
金貨はザックザクとみるみる貯まった。よかった。17歳のこの少年少女をかくまっていてよかった。心の底からそう思った。
タララッタタッタッー!!!!!
俺のレベルが52に上がると、すぐにミカエムのレベルも51に上がる。
もうすぐで陽が沈む。ああ、1本だけでもビール飲みたいなあ…。ダメだ、ダメだ。しっかりしろ。これは家族のためだ。ビールなんか飲んでいる場合ではない。
それに、さすがに17歳のミカエムとマリーヌを、夜まで戦闘に付き合わせるわけにはいかない。
「よし、ミカエムとマリーヌはここら辺で引き揚げてくれ。夜の戦闘はまだ早い。夜行性のモンスターのほうが変則的なタイプが多いから、危ないんだ」
「えー、やっとエンジンかかってきたのになー。師匠、俺にレベルを追い付かれるのが嫌でそう言ってないか?」
「何を言っているのです、ミカエム。モンジャーは、私たちを心配しておっしゃってくれているのです。足手まといになってはいけません。ここはモンジャーの言う通り、引き揚げますわよ」
「えーっ!」
マリーヌは不満そうなミカエムの襟を引っ張ってペガサスに乗せる。
「それではモンジャー、お気をつけて」
「心配ない。俺は、ここでは最強だ‼︎」
「そうですわね。明日のお帰りをお待ちしておりますわ」
「帰りたくないのにさ。師匠とマリーヌのバーカ、バーカ、バーカ!」
と言って、マリーヌとミカエムが去って行く。
ミカエムの言うとおりだ。俺は嘘をついた。本当はミカエムにレベルを越されることは、プライドが許さなかったので、適当な理由をつけて帰したのだ。
そして、俺は知っている。マリーヌが20時から放送される連ドラ『昼顔』にはまっていることを。この世界では、俺がいた世界の番組も再放送されていた。俺はこの世界に来てからテレビを見たことはない。そんな時間はもったいない。
確かに2人に手伝ってもらったほうが、金貨1250枚を早く集めることができただろうが、ここから先は俺だけでも明日までに金貨1250枚を集めることはできるだろう。
そして、俺はレベルを55くらいまで上げておくのだ! アハハハハッ。アハハハハッ。ミカエムよ、師匠を超えるなんぞ10年、いや100年早いわ。いや、待てよ。アイツは勇者だ。すぐに強くなる。よし、レベルも明日までに60まで上げておこう!!
しかし、この姑息な考えが裏目に出ることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。




