もう一つのスキルを知りたいのだが……
トゥルルルー、トゥルルルー。
俺が魔王に会いに行くことに決めたとき、ちょうどどこからともなく、電話の呼び出し音が聞こえてきた。
「異世界よりコレクトコールでお電話がかかってきております。お相手は奥様です。いかがなされますか? 電話に出られますか?」
トゥルルルー、トゥルルルー。
電話だって? 困ったな、どうしたものか…。
宅急便だって、月に1回送ってもらうだけで、約2日分の仕送り額に相当する金貨400枚(向こうの世界の価値に換算して48,000,000円で、送金した場合99.999%の手数料を取られて、48,000円の仕送り額になる)も支払っている。(向こうの世界で架空の住所を作る手数料とやらで、宅急便を送ってもらう初期投資に金貨2,800枚も支払い済みだ。)
ミチェルは、レストキア王国が財政難のため少々手数料をいただきますと言っていたが、少々どころかぼったくりすぎだろ!
「あの、この電話に出た場合は、お金がかかりますか?」
「はい。20秒あたり、金貨30枚かかります」
なんだと、20秒で金貨30枚も…。1分で90枚。5分話したら宅急便代より高くなってしまうのではないか。これは恐ろしい…。
「あっ、ちなみに電話番号をお作りした際にかかった費用、金貨5,200枚は来月までに強制的に支払っていただきますのであしからず。何分、我がレストキア王国は財政難なもので」
ん、この声、聞き覚えが…。あっ、ミチェルだ! この声の主はミチェルだ!
「君はもしかして、ミチェルなのか?」
「いいえ、違いますよー。ミチェル・ジェシバーナって誰のことですか?」
ほう、フルネームはミチェル・ジェシバーナというのか。
「ごまかさないでくれ。99.999%の手数料をとられているからって、怒ってはいないから」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
嘘だ。99.999%の手数料を取られて怒らない人間がどこにいる。だが、今はそれよりも、ミチェルに確認すべきことがある。
「なんだー、それなら声変えたりする必要なかったじゃない。私ったらバカみたい」
おお、声を変えているつもりだったのか。
トゥルルルー、トゥルルルー。
「ミチェル、俺のもう一つのスキルを知らないか? 適当に選んで覚えていないんだ。知っていたら教えてくれ」
「えー、そんなこと勝手に教えて、お父様に叱られるのも嫌だしー」
「頼む、このとおりだ!」
俺は手を合わせて、上空に向かって頭を下げる。
「それじゃ、金貨100,000枚支払ってくれるなら、教えてあげてもいいですわよ」
なんだと! 手数料を99.999%も支払い、毎月宅急便で金貨400枚を支払い、向こうの世界に帰省するのもお金がかかるから我慢している俺に、さらにお金を支払えというのか!
「それだけ、価値のある情報ですよー。ローンでも大丈夫なんだけどなー」
ううっ、どんなスキルか知りたい。もしかしたら、モンスターを金貨に変えるスキルよりも、もっと無双のスキルを選択していたのかもしれない。でも、これ以上のローンは……異世界でしか買えないあれを買ってしまったからな……。
トゥルルルー、トゥルルルー。
「それから、この電話どうしますー。出られますか? 20秒で金貨30枚です。1秒でも過ぎたら、また金貨30枚かかりますのであしからず」
うぬぬっ。かわいい声して、言っていることはむちゃくちゃだ。しかし、かなり長いこと電話をかけ続けているな…。もしかしたら、向こうで何かあったのかもしれない…。しっかりしろ、俺。家族より大事なものなんてないじゃないか。ケチってないで電話に出るんだ。
「よし、電話をつないでくれ」
「はい、まいどあ…」
今、この女、まいどありと言いかけたよな。絶対に言いかけた。
「はい、かしこまりました。ちなみに、会話の内容は、この世界の全住人に聞こえてしまいますので、あしからず」
「えっ、ちょっと、それは困る…」
「あっ、あなた、やっと通じたわ。もう、さっさと電話に出てよね。こっちは大変なんだから」
やっぱり、向こうで何かあったのか。
「どうした? 何があったんだ?」
「生活費が全然足りないのよ! 明日までに住宅ローンで引き落ちる15万円送ってよね! もっとしっかり稼いでよね、まったく」
「生活費が足りないって……」
毎月80万円送っているんだぞ。もしかして、ちゃんと送金されていないのか?
電話越しにインターホンが鳴る音がする。
「あっ、これから最近知り合ったママ友たちとテイトンホテルでランチなの。じゃ、忙しいから切るわね。お仕事、頑張ってねー」
ガチャ。
俺の話など何一つ聞かずに電話は切れた。
「チッ、通話時間はたったの52秒か。金貨90枚になりまーす」
ミチェルは心の声をしまっておけないタイプのようだ。
明日までに15万円を仕送り……。ということは、手数料を考えると、えーと、150,000,000円分だから、金貨1250枚! マジか! 明日までに金貨1250枚もゲットしないといけないのか! これはけっこう大変だ! 今日は17時上がりなんて夢のまた夢だ。それどころか徹夜確定だ。それでも、間に合うかどうかだぞ。
「で、どうされますー。もう一つのスキルの件…」
ミチェルが甘い声を出す。
どうやら向こうの生活費は足りていないようだ。もう一つのスキルを知るために金貨100,000枚を支払う余裕は俺にはない。
「やめておくよ」
「あっ、そう」
ミチェルは冷たくそう言うと、去って行った。もともとこの場にいたわけではなく、声が聞こえていただけだが、気配でなんとなくわかった。
「師匠も大変だな」
「私たちもお手伝いしますわ」
ミカエムとマリーヌが慰めてくれる。ああ、そんな目で俺を見ないでくれ。17歳の少年少女に心配されるなんて…。
クソッ! こうなったら、モンスター共に八つ当たりだ! 金貨に変えて、変えまくってやる!! ウォーーッ‼︎