タイムリミットは2時間後
4人の大賢者は、なぜこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”に捨てられたのか、誰一人喋ろうとしなかったので、この日は檻に閉じ込めて、交代で見張ることになった。
俺は見張りの担当の時間まで夜釣りをすることにした。
あれから3年経っているということは、ミカエムは20歳になったということだ。この異世界でも国によってお酒が飲める年齢は違っていた。ちなみに俺とミカエムとマリーヌが暮らしていたリルトン王国では、飲酒は18歳以上と決められていた。
でも、現実世界にいた時間が長かったので、やはり日本と同じく、ミカエムとマリーヌが20歳になったら、一緒にお酒を飲みたいと思っていた。
そんなことを思い出したので、つまみ用にマッスルイカを釣りに来たのだ。
しかし、まったく釣れない。
さてと、そろそろ俺が見張りをする時間だ。
俺は魔法を使って、マッスルイカを海中から浮かび上がらせて、見事キャッチする。
鮮度が落ちないように、魔法で凍らせて仮死状態にした。
マッスルイカを家に置いたら、4人の大賢者を閉じ込めている檻に行くことにしよう。そして、見張り番を終えたら、ミカエムのところに行ってみよう。まだ起きているかもしれない。
俺の前の見張り番はフトシとモモカだった。あんなに頑丈に造った檻だ、逃げ出すことは実質無理と言っても過言ではない。見張り番は、どちらかというと4人の大賢者に恨みを持つ荒くれ者たちが襲ってこないように、守る役割を担っていた。
とはいえ、この村にはキースも俺も住んでいるのだから、よほどの大バカヤローではない限り、襲ってくることはないだろう。フトシとモモカでも心配はない。
そう油断していた。
俺が檻の前に行くと、フトシとモモカが倒れていた。そして、檻の中から4人の大賢者が消えていた。人が出られるくらいの大きさで、鉄格子が切られている。
巨人族のスーモイの力でも曲げることができなかった強固な鉄格子を切るとは、只者の仕業ではない。
というかこの島で、キース以外にこんなことができる人物を俺は知らない。
レイラでもできない離れ業だ。
フトシとモモカに外傷はなく、魔法をかけられて熟睡しているようだった。
剣術と魔法……。4人の大賢者を連れ去ったのは、複数犯のようだ。
俺の次の見張り番はレイラだ。時間は2時間後。
もちろんレイラは皆に報告する。そして、俺はキースに半殺し以上、瀕死未満にされる。
フトシやモモカを全力で殴るわけにはいかないから、矛先は確実に俺に向けられる。
キースなら、「30分前行動で早めに行ってたら、逃げられなかったわね」とか、殴る口実はいくらでも考えつくだろう。
何としても、4人の大賢者を2時間以内に探さなければならない。
幸いこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”から出ることはできないから、4人の大賢者は確実にまだこの島にいる。
連れ去った連中に殺められる心配もないだろう。これだけの手練れだ。その気なら、連れ去ったりせずに、この場で始末していたはずだ。
そう考えると、連れ去った目的はいったい何なのだろうか?
えーい、考えていても仕方ない。
俺はフトシとモモカを檻の中にいれると、村を出て猛スピードで森を抜けると、アニキとスーモイの家に行き、スーモイの大きな指を掴んで引っ張り、また村へと猛スピードで引き返して、檻の前に依然爆睡中のスーモイを置いた。
これなら、他の連中に、4人の大賢者が連れ去られたことを知られないですむだろう。
周囲の目が気になる。なぜだろう。俺が悪いことしているような気分になる。
俺は村を出ると、4人の大賢者を探すために、“最果ての入り口はあっても出口はない島”を片っ端から走り回った。
しかし、見つかるのは畑の野菜を盗んでいる荒くれ者ばかりで、4人の大賢者たちは一向に見つからなかった。
おっと、意外な現場に遭遇してしまった。
ゲイの荒くれ者たちのデートスポットとして使われている、三日月岩にミカエムとノゾミの姿があった。適度に距離をとって覗いているので、何を喋っているのかまではわからない。
こんなところをマリーヌが見たら修羅場になるだろうな。
というか、未来から来たノゾミが、過去の時代で恋をしても問題ないのでそうか?
ダメだダメだ、重要な問題でもあるような気がするが、今は考えないようにしよう。
ほら、キースが見張りにやってくる時間まであと50分しかない。せっかちなキースのことだ、少し早めに来ることも考えたら、あと35分以内には、4人の大賢者を奪い返したいところだ。
俺は、ミカエムとノゾミのことが気になりつつも、何の効果も期待できないが、今度は逆回りで4人の大賢者を探しに行くことにした。
すると、ミカエムとノゾミの背後に、ベアラッカスの国王が姿を現した。手には血のついた剣を持っている。
「危ない!」
俺はミカエムとノゾミに向かって叫んだ。
檻の中で一言も喋らなかったベアラッカスの国王があやしいと俺は思っていたんだ。




