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たった一つの奇跡的な可能性が降ってきた?

 早朝から、畑の雑草を黙々と引っこ抜いた。


 結局、昨日は眠ることができなかった。


 まだ中学2年生の紗麻亜が俺の代わりに仕送りをしていること、ミカエムが世界中の人々からひどい仕打ちをうけていたこと、子供たちの人気者になっているという魔王ナコのことを考えていたら、レイラに“睡魔降臨の魔法”をかけてもらっても眠ることができなかった。


「手伝います」


 ミカエムが姿を現し、俺と一緒に草むしりを始める。


 きっとミカエムも一睡もしていないのだろう。


「なあ、ミカエム」


「何ですか?」


「うちの娘、かわいかったろ?」


「そうですね」


「いや、親バカとかではなくて、すっごい美人になるよ。夏希も、紗麻亜も」


「もう、モテモテですよ」


「そうなんだよ。かわいいことは嬉しいんだけど、心配だよなー。変な男どもが寄ってきそうで」


「大丈夫ですよ。そんじょそこらの男なら、紗麻亜の得意技の回し蹴りで一発KOです。いや、あの蹴りなら、下手したら死にますね」


「朝ごはん食べたか?」


「いえ、まだです」


 ミカエムがそう答えると、俺は畑で実っていたモチモチピーマンをもぎって渡した。


「おいしいですね。ここの野菜は」


「詳しいことはよくわからないけど、水と土がいいみたいなんだ。ノゾミがそう分析していた」


「……」


「気にするな。ノゾミも昨日のことは、何とも思っていないさ。ほら、もっと食べて栄養つけろ」


 俺は炭酸ダイコンとコーヒーニンジンも収穫してミカエムに渡す。



 それから、俺はこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”に来てからの出来事を、ミカエムに話した。


 ミカエムはフトシのことを気に入ったようで、フトシの話になると、声を出して笑うこともあった。



 畑の雑草は、早々にすべて引き抜いてしまったので、ミカエムと森の中に入り、雑草を引き抜くことにする。


 リストン王国の森で、一緒にモンスター退治をしていたことを思い出す。


 マリーヌの話はまだしないでおこう。


 俺がそう思っていると、


「こうしていると、モンジャーとマリーヌと一緒に、森でモンスター退治をしていたことを思い出します」


とミカエムのほうから、マリーヌの名前を出してきた。


 こ、この場合、聞いてもいいのだよな?


「マリーヌは元気にしているのか?」


「マリーヌのことですから、心配ないですよ。モンジャーもよくご存じでしょ」


 確かに、マリーヌは魔王ナコと対峙したときも一歩も引かなかった。きっと、連続ドラマを見ながら、元気に暮らしていることだろう。今は、何の再放送を見ているのか?


「風の噂で、ガルトニアの王子と婚約したと聞きました」


「そ、そうなんだ」


「王女と王子の結婚。これ以上、理想的な話はないですよね。本当にめでたい話です」


 ミカエムは言葉ではそう言っているが、雑草でなく、巨木を引き抜いている。やっぱりまだマリーヌのことが好きなのだな。そう簡単に、忘れられないよな。


 まあ、あとで家造りの材料にすればいいのだけど、鳥たちの住処でもある木々をあまり引き抜かれても困る。


「ミカエム、勝負しよう」


「……僕、戦うのはもうやめました」


「違う、違う。そういう勝負ではなくて、さあ行こう」


 俺はミカエムの背中を押して進んだ。



 少し風が強いが、かえって心地いいくらいだ。


「釣れませんね」


「それが釣りだよ」


 俺とミカエムは磯に出て、一緒に釣りをした。


 何も釣れないまま、夕暮れ時になるまで釣りをした。


「なあ、ミカエム。俺に話したいことがあるんじゃないのか?」


「……」


「話したら楽になるぞ」


「あの、僕……あっ」


 ミカエムが何か大事な話をしかけたとき、竿がおおきくしなる。


「こ、これは、大物です!」


 ミカエムはリールを巻いて、クロマグロを釣り上げる。クロマグロはこの異世界でも、大人気の魚だった。


 魚でも空気読めよ。なぜ、今、釣られたんだ。俺が睨みつけると、クロマグロは目をプイッとそむけた。


「昨日のお詫びに、ノゾミに渡してきます」


 そう言うと、ミカエムは150㎏はある空気の読めないクロマグロを抱えて、立ち去ってしまった。


 まあ、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”には、時間はたっぷりとある。


 また今度、ミカエムとゆっくりと話をしよう。


 それにしても釣れないな……。


 俺は魔法を使って、ミカエルより大物の200㎏オーバーのクロマグロを海中から引きずり出して、岸に上げた。


 よし、今日の晩酌はクロマグロの刺身と、モモカが作ってくれたさつま芋ハニー焼酎に決まりだ。


 大丈夫。もともと素直な性格のモモカはフトシと一緒に、料理や酒造りの腕をメキメキとあげていて、もう料理と称した危険物を作るようなことはない。


 すると、地響きとともに、スーモイが走ってきた。

 また盗み食いでもして、レイラたちに追われているのか?


「あいつ~、たいへんだよ~! 4人の大賢者が、落ちて来たよ~。今、キースやレイラたちが話をしているよ~」


 本当か? たった一つの奇跡的な可能性が、現実になろうとしているのか? これでドッキリだったら、スーモイ、お前はほっぺたに翼がついている、そのガーゴイルが最後の晩餐になるからな。


 落ちて来たという4人の大賢者よ、どうか本物であってくれ。

 たった一つの奇跡的な可能性よ、どうか現実になってくれ。



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