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努力の戦士たち

 ドンドン、ドンドンッ!


 ドアがノックされる。珍しい、来客か。


 しかし、毎日のルーティンを崩されるのは嫌だ。


 これからフライパンに入れたコーヒーを、窓から海が見えるソファに座って飲むのだ。無視することにしよう。ノックもなんだか乱暴だしな。


 ソファに腰掛け、海を見て今日は少し波が高いかなと思っていると、


 ドーンッ!!といきなり玄関がふっとばされた。


 腰くらいまでの長髪と、長く細い足が印象的な少女が中に入って来る。


「ああ、やっぱりいたですのー。居留守なんか使うから、ドア蹴破ってしまったんですのー」


 モデルのような容姿と、おじさんみたいな語尾の「ですのー」に違和感を覚える。


「さあ、早く行くですのー」


 モデル体型の少女は、俺の手を引っ張って、外に連れ出す。年は18歳くらいだろうか。

 外には、大きな円にいくつものナイフが付いた奇妙な武器?を背中に身に着け、空中に浮いている青い髪のいわゆる塩顔のイケメンと、右腕だけ胴体と同じくらい太くなっていて、柄の部分は30㎝くらいで普通なのに刃の部分が2mはある巨大な斧を自慢そうに持ったドワーフもいた。


「ではでは、紹介しますのー。私の名前は、エルディ。ジョブは、格闘家ですのー。特に蹴り技には自信ありますのー」


 エルディが蹴りの仕草を見せる。風圧で石垣に穴が開く。そんなことしなくても、猛烈な台風に襲われても大丈夫なように魔法で頑丈にしていたドアを蹴破った時点で、蹴り技が凄いことは承知している。


「宙に浮いているのは私の兄様で、イームといいますのー。ジョブは特殊系で、遠隔操作で武器を操り、モンスターを倒すんですのー」


 兄妹だったのか。それにしても、愛想のいいエルディと違って、イームとやらは不愛想な奴だ。イケメンだからって調子にのるなよ。


「そして、この大きな斧を持った戦士が、ドワーフのプリンス、ニックスですのー。すっごく強いんですのー」


「おい、イーム。本当にこいつを仲間にするのか? ニックス様にはこいつが強そうには見えないぜ」


 仲間だって? いったい何のことだ?


「で、私のレベルは2222。ちょうどゾロ目ですのー。何かいいことあると思っていましたのー。噂の“モンジャー”を見つけることができてよかったですのー。あと、イームのレベルが9999で、ニックスのレベルが3150になりますのー。毎日睡眠時間1時間で、レベル上げに励んで、十分強くなったので、これから魔王討伐に向かうんですのー!」


 それは困る! 魔王を倒すのは俺だ! 魔王を倒せば住宅ローンを一括返済できるくらいの金貨がもらえるはずだ。この3人組に先に倒されるわけにはいかない! それにしても、なんというレベルの高さだ! 魔王討伐のために想像を絶する努力をしてきたことだろう。17時きっかりに仕事を終えて、風呂に入り、ビールを飲んでいる俺とは覚悟が違う。


「でもでも、相手は何万もの戦士を破ってきた史上まれにみる無双っぷりの4649代目の魔王ですのー。私たちだって、勝てる保証がないですのー。そこで、触った相手を金貨にできる“モンジャー”を仲間にして、魔王討伐に行きたいですのー。“モンジャー”がいれば、確実に魔王に勝てますのー」


 そうだ。相手がどんなに無双の魔王だろうが、俺は確実に勝つことができる。しかし、魔王を倒してしまったら、ゲームクリアになってしまう。そうなってしまったら、この世界でお金を稼ぐことができない。


 レベルを上げつつ、仕送りの金額を増やして、ある程度安定した生活をしてから、魔王を倒したほうが老後の資金も作れることだろう。

 何も今すぐ魔王討伐に向かう必要はない。そう思っていた。


 どうする? この3人組が魔王に負けるほうに賭けて大丈夫なのか? 俺はレベルを51にするまでに半年もかかった。


 この3人組は、たいして強くもなく、金貨ももらえないが、経験値を効率よくもらえるモンスターを地道に退治しまくって、レベルを上げ続けてきたのだろう。その意志の強さは脅威だ。


 もしかしたら、魔王を倒してしまうかもしれない。せっかく誘ってきてくれているわけだし、一緒に行くべきか? 魔王討伐へ…。


「行くぞ」


 イームが俺に背中を向ける。


「兄様、どうしたんですのー」


「こいつは迷った。魔王討伐を迷うような奴は足手まといになる。仲間にはできない。他にも足手まといがいるようだしな…」


 イームが、ミカエムとマリーヌが暮らしている離れに目をやる。うーん、やはり立派な離れを建てすぎたか…。きっと今頃、飛び出してこようとしているミカエムを、マリーヌが目をウルッとさせて引き留めていることだろう。


「ニックス様も同意見だぜ。エルディ、行くぞ。ニックス様たちは十分に強くなった。もう、ニックス様はニックス様を信じないではいられない。必ず魔王を倒せるぜ」


 イームとニックスが去って行く。


「ごめんなさいですのー」


 エルディも俺に頭を下げて謝ると、慌ててイームとニックスを追いかけて行った。


「師匠、大丈夫かー! 嫌な奴だったら、俺がぶっとばしてやったのに!」


 ミカエムとマリーヌが離れから出てくる。


「もうミカエム! ちょっとは戦う相手を選びなさい! 私が止めてなかったら、今頃ボコボコにやられていたのですよ!」


「それでいいんだよ、今は。男は負けながら強くなるんだよ」


「ミカエム……愛していますわ」


「うわわっ。やめろって。師匠の前で恥ずかしいだろう」


 マリーヌがミカエムに抱き着く。こうなると、もう1時間はマリーヌはミカエムから離れない。


 それにしてもやっかいな問題だ。あんな連中がいたとは…。経験値よりも、金貨がたくさんもらえるモンスターを優先して退治していた俺とは正反対だ…。


 俺はモンスターに対しては負けることはないが、戦士が相手だと話は別だ…。この問題を早めに解決しないといけない。


 ろくに修行もしないで、異能のおかげでモンスターを退治して稼いでいる俺のことを嫌っている戦士も多いと聞いている。


 魔王を討伐する前に、その戦士どもにやられるはめになったらたまったものではない。


こんなことなら、もう一つのスキルをちゃんと選んで覚えておけばよかった。俺のもう一つのスキルはいったいなんなのだ? 千里眼の魔法で覗いても、マル秘としか見えない。そんなに特別なスキルなのか? だったら、なお更知っておきたいぞ。


 ああ、あの時、この世界で初めて会った金髪美女のミチェルに聞いておけばよかったな。ミチェルだったら知っているかもしれない。


 うーん……。そうだ! 今は魔王に協力しよう! 魔王に協力して、俺より強い戦士を排除してしまえばいい!

 愛する家族に仕送りをするためだ。どうにかして魔王の手下になる方法を考えるのだ!!


「アハハハハッ!! アハハハハッ!!」


「師匠、どうした師匠、大丈夫か?」


「もう、モンジャーのことなんか気にしないで、私だけを見てよミカエムー!」


 よし、魔王に会いに行くぞ!!

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