ノゾミの隠れ家に、中世にはない乗り物が……
ノゾミが先導して、暗闇の中、森を進む。
やがて、森を抜けると、断崖絶壁に崖にたどり着く。
ノゾミは歩みを止めることなく、そのまま進み、岩肌をすり抜けていく。
俺たちも後に続くと、中はガルトニア城の1/3くらいの広さがある洞窟になっていた。なるほど。ホログラムの壁で洞窟の入り口を隠していたのか。
そして、洞窟の中央には、飛行機のような乗り物が置かれていた。一目見ただけで、現実世界よりも未来の乗り物だということがわかる。まして、この異世界にはあるはずのない乗り物だ。
破損している様子は見受けられず、今すぐにでも飛び立てそうである。
「ようこそ、ここが私の隠れ家です。さあ、自分が座り心地よさそうだな、と思った石をとってきて、ここでくつろいでいてください。今、お水を入れますから。コーヒーも紅茶もないので、あしからず」
ノゾミがそう言うと、キースやレイラたちは、洞窟にある石の中から、それぞれ座り心地が良さそうな石を持ってきて、腰掛けた。普通の女性が持ち上げられる石の大きさではない。
キースに至っては、石を運ぶ途中で2つ粉砕してしまい、ようやく3つ目の石をそっと運ぶことができていた。よく見ると、石に腰掛けておらず、空気イス状態だった。強すぎるというのも大変なのだな。
「はい、どうぞ」
ノゾミは、竹で作ったコップに水を入れて、それを皆に配る。
特に抵抗することなく隠れ家まで連れてきて、貴重な水をふるまってくれているのには理由がある。
「あなたの隠れ家に案内して、あの緑色の石の話を聞かせちょうだい。そうしたら、またあのイケメンに合わせてあげますわ」
「本当ですか! また運命の人に会わせてくれるのですね。わかりました。それならば、隠れ家までご案内致します。ただ、少々遠いので、あしからず」
とキースが、勝手にディカプレオと会わせる約束をしてしまったのだ。
ディカプレオは、ヨーシャカ、リンスク、モーネの3人がマークしているから、レイラを通じて居場所を聞くことができると判断したのだろう。
でも、本当にノゾミにディカプレオを会わせるかどうかはあやしいものだ。
キースだって、ティカプレオに夢中になっている。元魔王の存在はどこにいってしまったのだ? 元魔王に会いたくなって、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から出ようと思ったのではないのか?
「私はどうしても会いたい人がいるの。そのためには、あの石の力を使って、この島から出る必要があるの」
おお、これぞ夫婦愛。ちゃんと元魔王に会うという目的は忘れていなかったようだ。
「私が大好きだったあのお方……。もう一度だけ会って、お別れを告げて、それからまたこの島に戻って……」
だ、大好きだっただと……。いつの間にか過去形になっている。恐ろしい。恐ろしすぎる。キースは、元魔王と会って別れを告げたら、この島に戻ってディカプレオと結ばれようとしている。
「期待させてごめんなさい。前にもいったけど、私は本当にこの島からの脱出法は知らないの。あの緑色の石は、このタイムマシーンの燃料で、ここから出る方法とは無関係なの。どうか、あしからず」
いや、その話が本当なら、無関係ではないはずだ。
「タイムマシーン? この船のようなものか」
ノゾミが焦った表情を見せる。キースがタイムマシーンに触れようとしたので、
「ストーーーップ!!」
俺は慌てて、キースにドロップキックする。
キースは石に尻もちをついて、せっかく持ってきた石が粉々になってしまう。もちろん、キース本人にダメージはない。
なんとか、キースがタイムマシーンに触れるのを止めることができたが、ここからのことは何も考えていない。
「君、何をするの?」
キースが穏やかな声で俺に尋ねる。怖い、怖い、怖い。こういう強い人が穏やかな声で、静かに怒っているときほど怖いものはない。
ほら、洞窟内は無風なのに髪がなびきだした。目が赤く、点滅し始めている。
俺の突然の行動に、レイラたちはきょとんとしている。
「あ、あのですね、キースさん」
「なあに」
「このタイムマシーンは、恐らくとてもデリケートな乗り物でして、キースさんが触ると壊れてしまう恐れがありまして……。それで、仕方なく、ドロップキックを……」
ノゾミはうん、うん、と大きく頷いている。
その様子をキースも見て、
「そうだったのね。わかったわ。私、このタイムマシーンという乗り物には触らないようにするわね」
と言い、髪も落ち着き、目の点滅も止まった。
ボコッ!!
わかっている。だからといって、ドロップキックされたことをチャラにするような性格ではない。
キースは何も言わないで俺の顔面を殴り、殴った後も何も言わない。
そうすることで、タイムマシーンが壊れるかもしれなかったところを助けた俺を殴ったことを、なかったことにしようとしている。
しばらく、沈黙が続く。
「それで、このタイムマシーンは、何に使う乗り物なの?」
キースは、しばらく続いた沈黙の中に俺を殴った事実を消し去って、ノゾミに質問をした。まあ、命があるだけよしとしよう。
それに、キースの質問は的を得ていた。これも、元勇者ならではのセンスなのだろうか。
「このタイムマシーンは、未来と過去を行き来できる乗り物なのです」
「えっ、未来とを過去を……。そんな夢のような乗り物があるなんて知らなかったわ」
機械に関して中世くらいの技術しかないこの異世界では、タイムマシーンの存在自体知らなくて当然だ。
「本当にこのタイムマシーンとやらで、未来と過去を行き来できるのか?」
レイラは疑いのまなざしをノゾミに向ける。
元勇者のキースは素直に受け入れ、くノ一のレイラたちは疑う。ジョブによって、こうも反応が違うものなのだな。
「もし、その話が本当なら、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”に入る前まで戻れば、この島から脱出できることになるではないか」
レイラが俺が思っていたことを代弁してくれた。そう、そうなのだ。その方法なら、この島から出ることができる!
と喜んだのも束の間、ノゾミは首を横に振る。
もしかして、聞きたくない事実を、今から聞かされるのか……。




