理想のタイプの男に出会ったとき、女は怖くなる
俺はキースたちが隠れている川の方に飛び戻る。
ディカプレオがヨーシャカ、リンスク、モーネと幸せそうに水浴びをしていた。ディカプレオは、己が選んだスキルが災いし、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”に来てから、実質120年も地獄の年月を過ごしてきたのだ、これくらいのご褒美はあってもいいだろう。ちょっと、羨ましくてムカッともするが、邪魔はしないでおこう。
きっと、まだ昼間だと刺激が強いから、夜にしたのだろうな。
キースやレイラたちは食い入るように、ディカプレオの水浴びを覗き見していた。全員、瞳がとろけている。
ん? 気のせいかな、覗き見している女が7人いるような……。
「うわっ!」
レイラの足元に、ボコボコにされた“ダイダニック軍団”の№2、ホッソアイが横たわっていた。
「シー!」
キースやレイラたちが俺に一斉に静かにしろと促す。その眼力の強さは暗くてもよくわかった。
「一瞬、金髪のイケメン登場! と期待させておいて、とんでもないほどの細目男だったから、ボコボコにしたのだ」
とレイラが小声で教えてくれる。
そんな理由でボコボコに!? ホッソアイが気の毒でたまらない。
「それにしても、セクシーな殿方ですわー」
「素晴らしい肉体美……。上級忍者になれる逸材です。本当にステキ……」
キースやレイラたちがすっかり乙女になっている。
「ウヌヌッツ、あのおなごらが羨ましいですわ……」
ヨーシャカ、リンスク、モーネの3人を、キースが忌々しそうに見ていた。
「あとでたっぷりお説教しておきます」
レイラの目も本気で怖い。
まあ、何はともあれ、キースの貧乏ゆすりもおさまっているし、あとは科学者のノゾミが現れるのを待てばいい。助かったぞ、ディカプレオ。お前のスキルが、この島にいる大勢の荒くれ者たちの命を救ったのだ。
「ステキね~」
「私、告っちゃおうかな~」
「ええ、抜け駆けはだめよ~」
とても無双の元勇者や、くノ一たちが言っているとは思えない乙女チックな言葉が連発される。
ん? やっぱり、7人いるよな? あれっ、キースとレイラの間にいる迷彩服をきたブロンドの女性は……。
「あっ! ああああーーーー!!」
俺が大声を出すと、
「何奴じゃ? ホッソアイ! ホッソアイはどこじゃ?」
当然、イケメンでないという理由だけでボコボコにされて横たわっているホッソアイは返事をしない。
「はーい! ここにいまーす!」
キースが声を低くして返事をしやがった。
「これはホッソアイの声ではない……。何者かが潜んでいるようじゃ。 ヨーシャカ、リンスク、モーネ、いったんアジトに引き返すぞ」
ディカプレオはそう言うと、先に川から岸に上がって、ヨーシャカ、リンスク、モーネの手を引っ張り、岸にあげてやる。
「ディカプレオ様、やさしいー」
「理想の男性だわー」
「今日はもう離れたくないなー」
ヨーシャカ、リンスク、モーネの3人はすっかりディカプレオの虜になっている。潜入という口実を利用して、完全にディカプレオに気に入られようとしている。
それに、俺は今、ディカプレオがしたことを見逃さなかったぞ。3人を岸に上げる際に、おっぱいやお尻を意図的に触っていやがった! 徐々に久しぶりに見た美女たちの刺激に慣れてきて、スケベヤローの実力が開放されようとしている。
ブルブルッ。凄まじい殺気を感じる。
「レイラ、説教の必要はないわよ。合流したら、あの3人と私に話をさせてちょうだい」
レイラはキースを止めよとはせずに、ゆっくりと頷く。
話だけですむわけがないのに……。
「あっ、でも、私はやっぱり冷たくされた方がタイプかなー」
「私もそうだったー」
「今日はもう疲れたから早く眠りますわー」
キースの殺気をヨーシャカ、リンスク、モーネの3人も感じたようで、ディカプレオから少し離れる。
ディカプレオは不満そうだが、
「まあよい。ゆっくり、仲良くなっていこうぞ」
と言って、3人を連れてアジトへと帰って行く。
おいおい、ホッソアイをちょっとくらい探しはしないのか……。
バシッ!! ボコッ!! ドカッ!! ブスッ!! ビシッ!! ミシッ!! キーン!!
「ウゴゴッ……」
ディカプレオが立ち去ると、俺はたちまち一斉にしばかれる。最後の金的もめちゃくちゃいたかったが、途中で誰か俺の尻を刺しただろう!!
「せっかくの目の保養タイムを邪魔するなんて、許さないわよ!」
キースが激怒している。
「最後に言い残したことはあるか?」
レイラたちが俺を囲む。
違う、違う、違う! 目的が変わっている! ほら、まだ、キースの隣にいるじゃないか! たっぷりと逃げる時間があったはずなのに、ノゾミも俺に怒っているようでまだここに残っていた。
「ほら、そこ! キースさんの隣にいるじゃないか!」
俺はキースの隣にいるノゾミを指さす。
「ちょっと、人に向かって指をささないでくれます。せっかく、運命の人にであえたのに。ここでボコボコにされても自業自得ですので、あしからず」
ほらほらほら、今、思いっきり喋ったじゃないか!
「誰もいないところを指さして、私たちが見た隙に逃げようなど、そんな古典的な真似は通用しませんわ」
レイラたちは、すぐそばにいるノゾミを見ようとしない。
すると、キースがやはり気になったのか、チラッと横を見ると、口をあんぐりさせて露骨に驚く。
そして、何も喋らずにゆっくりとノゾミの腕を掴んで、結果的には見事作戦通りに捕獲する。
ノゾミも自分の失態がショックすぎて、声が出ないほど落ち込む。
そりゃないだろう。キース、ノゾミ、声を発してリアクションをしてくれ。
まだ気づいていないレイラたち、くノ一の5人が一斉に俺に襲い掛かる。
やれやれ……。俺はその攻撃をすべてかわすと、仕方なく軽くみぞおちを殴って、5人が動けないようにした。
俺だってレベル99,999で、普通なら最強に強いはずなんだ。
ただ、キースの強さがあまりにも化け物すぎるのだ。
「お手柄ですよ」
キースがようやく小さな声で、ノゾミに気付いた俺を褒めてくれる。
理想のタイプの男に出会った女が、こんなに怖い生き物だったとは知らなかった。もう二度と、キースやレイラたちをディカプレオに会わせないようにしよう。俺は自分の身を守るために固くそう誓った。




