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それはもはや、料理ではなくて危険物

「こないわね」


 キースがイライラしている。


 そりゃそうだ。岩陰に隠れてどんなに待っても、期待しているイケメンの荒くれ者は現れない。


 もう、すっかり暗くなっている。仮に偶然にも他のイケメンの荒くれ者が水浴びに来たとして、ほとんど何も見えないぞ。

 それでも、ここにいる6人の女たちは目を見開いて、今か今かとご登場を待ち構えている。

男も女も、そういうことに関してはあまりかわらないのだな。


 ん? 地震か? ちょっと揺れている気がする。


 いや、違った。キースが貧乏ゆすりを始めていた。


 このままではマズい。キースがしびれを切らして、またいつ破壊活動に励みだすかわかったものではない。


 キースに満足してもらえるイケメンを見つけにいったほうがよさそうだ。とはいえ、そんなに簡単にこの“最果ての入り口はあっても出口はない島”で、イケメンが見つかるものなのか? 手におえなくなった荒くれ者たちが捨てられている島だ。なかなか難しいミッションに思える。


 500人くらいの荒くれ者たちがいた、“ダイダニック軍団”でも、凶暴な顔つきの奴らばかりで、イケメンなんて一人も見かけなかったぞ。一人も……。


「あっ、ああーー!!」


「急に大声を出さないでよ! 私のイケメンさんが逃げちゃうでしょうが!」


 ボコッ!! キースはわりとマジで俺の顔面を殴る。体は痛いと叫ぶが、俺の心は笑っていた。適任者がいるではないか!!


「ちょっと、小便してきます」


「はいはーい」


 キースは空返事をして、イケメンの登場を見逃さないように集中している。それは、レイラたちも同じだった。

 キースの貧乏ゆすりが激しさを増している。


 俺は獲物を待つ6人の女たちから離れると、猛ダッシュで“ダイダニック軍団”のアジトへと向かった。



 いったい何事だ!? 俺は予想外の出来事に目を疑った。

 “ダイダニック軍団”のアジトに着くと、荒くれ者たちがあちらこちらで倒れていたのだ。


 これはひょっとして、“クニオブラザーズⅢ”の仕業か……。


 フトシとモモカは無事か? そして今は誰より、ディカプレオの安否が気になる。


「た、助けてくれ……」


 俺は意識のある荒くれ者のもとへ駆け寄る。


「どうした? いったい何があったんだ? 誰にやられたんだ? フトシとモモカは無事なのか? ディカプレオは無事なのか?」


「ひ、瀕死の俺に、し、質問が多すぎるぞ……」


 おお、すまん。確かにそうだな。質問を絞ることにしよう。


「ディカプレオは無事なのか?」


「ディ、ディカプレオ様は、さん……の川を……」


 よく聞き取れないまま、荒くれ者が意識を失ってしまう。

 もしかして、ディカプレオは“三途の川”を渡ってしまったと言っていたのか?

 それは困るぞ。大問題だ。ちくしょう、いったいどこのどいつがこんな真似を……。


「あー、モンジャーだ! モモカ、モンジャーが帰ってきたよー」


 フトシが姿を現わす。手には木をくり抜いた皿をを持っていて、食べ残しがまとめられているようだった。


「本当だ! モンジャーも食べて! モモカとフトシが作った料理、おいしすぎて皆倒れちゃったとよ!」


 モモカもやって来てそう言うと、


「はい、お召し上がりあれ」


とフトシがニコッと笑って、食べ残しが入った木の皿を俺に差し出す。


 こ、これを食べろというのか? さっきから、近づいて来たハエが次々に生き絶えて、地上に落下しているぞ。


 事態は把握できた。


「お前たち、このゴミのような料理、いや逆だな。この料理のようなゴミにいったい何を入れたんだ?」


「ゴミだなんて失礼だなー。いくらモンジャーでも、僕怒っちゃうよ!」


「そうよ。こんなにおいしい料理を作って皆に食べさせたのに、失礼すぎるばってん」


 フトシとモモカが不機嫌になる。


 しかし、この料理のようなゴミを食べるとは、“ダイダニック軍団”の連中は、まさに恐れ知らずの集まりのようだ。


「だったら、お前たちは、この料理のようなゴミを食べたのか?」


 フトシとモモカは、全力で首を横に振る。


 だろうな。食べていたら、2人も倒れているはずだ。


「味見はしたのか?」


 俺がそう尋ねると、フトシとモモカは目を合わせて、


「アハハハハッ、アハハハハッ」


と愉快そうに笑う。


「僕たち、料理のプロだよ。味見なんか必要ないよー」


「味見なんか素人がやることばってん」


 これこそ、まさに普段料理をしない人が言うことだ。プロはちゃんと味見をするものなんだよ! 味見もしないで調味料をバカみたいに入れるのがど素人がやりがちなことなんだよ!


「で、この料理のようなゴミに何を入れたんだ?」


「……」


 生意気にフトシとモモカがシカトしやがる。


 わかったよ、仕方ないな。


「このゴミのような料理に何を入れたんだ?」


「ええとね、ガーゴイルのレバーに、ゴブリンの爪、それから……」


 “ゴミのような料理”と言われることは受け入れるのだな。


「もう、フトシ、一番のポイントを忘れないで。隠し味に、フグバチを丸ごとたくさん入れたでしょ」


「そうだった。丸焼きにしたら絶品のフグバチをたっぷり入れたんだー」


 それは、詳しいことは知らないが、それはちゃんと資格をもったシェフが作った場合だろ。


 お前たちは毒のある部分を処理しないで、本当にそのままこのゴミに入れたんだな。もう、これは、ゴミのような料理でもなく、料理のようなゴミでもなく、普通にゴミだ! いや、屈強な荒くれ者500人余りを瀕死状態にした危険物だ!


 聞くのが怖くなってきたが、確認しなくてはならない。


「ディカプレオもこの危険物を食べたのか?」


「ディカプレオ様は、ホッソアイさんと、新入りの3人の女を連れて、向こうにある川に水浴びに行ったから、まだ食べていないよ」


 フトシは俺がきた方を指差していた。ちくしょう、入れ違いになってしまったか。

 でも、ディカプレオがあの川に行ってくれたのなら助かった。


 そうか、さっきの荒くれ者は、三途の川ではなくて、3人の女と川に行ったと言っていたのか。


「まったく、いくら相手がモンスターでも、命を奪って作ったんだから、できたてをありがたく食べてほしかったばってん」


 モモカ、もしこの危険物をディカプレオが食べていたら、俺たちの命が危うかったのだぞ。危険物の材料にされてしまったモンスターのことを考えている場合ではない。


「モモカ、お前もくノ一なら、解毒薬くらい作れるよな? 今すぐ作って、倒れている奴らに飲ませるんだ。今なら間に合うかもしれない」


「えーー、あんな苦い薬飲ませるの、皆かわいそうとよ」


 危険物を食べるよりよっぽどマシだ!


 もう、面倒臭いな。

 俺はモモカの手を両手でギュッと握り、


「頼むよ、モモカ。これはモモカにしかできない任務なんだ」


と目をしっかり見つめて言う。


 モモカの目がキラッと光る。


「もう、仕方ないなー。モモカに任せるばってん!」


「ええーずるいよー、モンジャー、僕には任務ないの? ねえ、何か任務をくれよー」


「フトシは“鶴の恩返しごっこ”を続けないとダメだろ。食事を配り終えたなら、早く家に戻るんだ」


「そうだった! “鶴の恩返しごっこ”の途中だったんだ。僕、家に帰るね。絶対に中を覗いちゃダメだよ。絶対に」


 フトシは逆に覗いて欲しいようなあからさまなフリをすると、相変わらずすばしっこい走りで帰って行く。


 家でじっとしていてもらうのが一番だ。モモカが解毒薬を作る前に、うっかり転んで踏んづけたりして、倒れている荒くれ者たちにトドメをさしかねない。


 いくら凶暴な荒くれ者たちとはいえ、最後の食事がゴミ以下の危険物とはかわいそうすぎる。


「モモカは森に材料を取りに行ってくるばってん」


 モンスターは一度、キースが全滅させているから、次々とこの島に捨てられているとはいえ、遭遇する確率は低いだろう。


 荒くれ者どもも、“NVNL”の連中をキースが海に落としているし、解毒薬の材料集めくらいなら、モモカ1人でも大丈夫だろう。


 フトシを一緒に行かせようとも思ったが、なんだかこの2人を一緒に行動させることは、コーラにメントスを入れるより危険な感じがしたのでやめることにした。


 モモカが鼻歌を歌いながら、上機嫌で森に入って行く。


 さてと、俺もさっきの川に戻るとするか。ディカプレオが行っているのだから、きっとキースも、レイラたちも上機嫌になっているに違いない。


 ディカプレオのスキルによって、それぞれ理想のタイプが水浴びしているように見えるのだから。その正体がヨボヨボのじじいだということは絶対に黙っておこう。


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