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あのお方とあの子

「俺みたいにお弁当をおいしそうに食べた人って、彼氏さんですか?」


 俺はとりあえず話をふる。沈黙になるのが怖かった。思い出して、にこやかになっていたから、キースにとっていい話題だろう。


「彼氏だった方よ……」


 しまった! 元彼か! 地雷を踏んでしまったのか!?


「私たち結婚したの。まあ、いわゆるデキ婚ね」


 ふぅー、元彼の話ではなくてよかった。


「その方は、当時、魔王でね。私も、勇者だったの。出会ったのは、リストン王国の素敵な丘だったわ。偶然というか、運命的に、あのお方も私も、理想の昼寝の場所を探していたのよ。あっ、もちろんあのお方を好きになったときに勇者は引退したけど、ずっと、あのお方には元勇者だったことを隠していたわ。鈍感だから、ちっとも気付かないの」


 えっ、えっ、ええっーーーーー!!


「こう見えても、私って、すっごく強いの」


 はい、よく存じ上げております。先ほど、その強さを目の当たりにしました。


「私、この島で生まれ育ってね、あのお方とお会いしたときにはレベル1,000,000に達していたわ。だから、倒そうと思えばすぐデコピン1発で倒せたのだけど、あのお方はとにかく勇者を怖がっていて、それがかわいくて……。いつの間にか、恋に落ちていたの」


 耳を疑う言葉が次から次に出てくる。聞いているだけで、気絶してしまいそうだ。


「でも、魔王と人間の恋を、お姑さんが許してくれなくて、身ごもった子供に『最弱のゴブリンになる呪い』をかけようとしたの。さすがに、愛する人のお母様をぶっ飛ばすわけにもいかないでしょ。だから、お姑さんと『子供を産んだら姿を消して二度と会わない』という契約を結んで、なんとかあの子を産むことができたのよ。抱いたことも、顔を一度も見たことがない、あの子……」


 ナコの美しさと強さは母親譲りだったのか……。


「ああ、こんな話をしていると、あのお方とあの子に会いたくなってきたわ。といっても、お姑さんとかわした契約は絶対だから、あの子に会うことは叶わないけど……。フフフッ。あのお方はきっと、今頃も勇者にびくびくしながら暮らしていることだわ」


 “あのお方”が“あの子”に昼寝中にワンパンでやられてしまったとは、口が裂けても言えない。うっかり、言ってしまわないように、できることならその記憶を今すぐ消去したい。この島から出れたら、必要ないと思っていたが“記憶の消しゴムの魔法書”を購入することにしよう。


「あの、この島で生まれ育って、リストン王国の丘で“あのお方”と出会ったのですよね?」


「そうよ」


「では、どうやって、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から出ることができたのですか?」


 俺は聞きたいことが山ほどあったが、今一番必要な情報について尋ねてみることにした。


「普通にジャンプして、ヒョイッと1200㎞先にある、ガルトニア王国のグリームス島まで行けたわよ。まあ、私くらい強くなってしまうと、どんなに強力な結界でも無力ってことね」


 そうなのか! どれくらいまでレベルを上げればいいのかは不明だが、一定のレベルに達したら、この島の強力な結界を通過できるようだ!

 科学者の存在といい、この島から出られる希望がどんどん膨らむ!


 娘の紗麻亜が、この世界に遊びに来るまであと25日。是が非でも俺は、この島から脱出して、キースと元魔王の出会いの地でもあるリストン王国の丘に帰らなければならない。


「あのお方にお会いすると、あの子に会うのを我慢できなくなりそうで、怖かったけど、勇気を出して行ってみることにする」


「もし、“あの子”と会うと、どうなってしまうのですか?」


「私もあの子も、この世界に存在しなかった存在になってしまうの……。つまり、命を奪われるだけではなくて、すべての人々から、私とあの子の記憶が消えてなくなってしまうのよ。そうなるわけにはいかないの……。魔王族との契約は恐ろしいものよ。もし、君が魔王族と契約をかわすときは慎重に決めることね」


 そんな、ナコの存在が消えてしまうなんて……。確かに、魔王族の契約は恐ろしい。俺は絶対に魔王族と契約しないようにしよう。


「それでは、ちょっとあのお方の顔を見てくるわね」


 キースは山のふもとからヒュッとジャンプして、空高くまで飛び上がるが、ボヨヨ~ンと結界にはね返される。本当に速い。目を凝らしていないと、その動きの速さについていけない。


「ど、どいうことなの?」


 キースはその後も何度も結界を突き破ろうと試みたが、ジャンプしては、はね返されてしまう繰り返しだった。


「な、なんでなのよ! 前は普通に出られたのに! もしかして私、弱くなってしまったの!? そうに違いないわ。ここで、荒くれ者どもの戦いを見て、楽しんでいたから、きっとあのときより弱くなってしまっているのだわ。クソッ、戦って、戦って、戦いまくるわよ!!」


 キースはそう言うと、猛ダッシュで森の中へと消えていった。そして、30秒ほどで、戻って来た。


「よし、とりあえず、この島にいたモンスターをすべて退治してきたわ! ついでに、見かけた荒くれどもも倒してやったわよ。これであのときと同じくらいに強くなっているはずよ」


 えっ? たった30秒でスキルを使わず、実力だけでこの島にいる大物のモンスターを全滅させた上に、荒くれどもとも戦ってきたのか……。なんという強さだ。


 キースは再び、この“最果ての入り口はあっても出口はない島”から脱出を試みて、ビュッと矢のように勢いよくジャンプする。

 確かに、先ほどよりも動きが速く鋭くなっている。もはや、俺にはキースの姿が微かにしか見えない。


 だが、キースはまたしてもボヨヨヨ~ンと、結界に弾き返されてしまう。

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