すまん、お前たちのことを見くびっていた!
俺は魔法で、フトシに片方だけガラスの靴を履かせてやる。フトシは鼻歌を歌いながら、掃除に夢中でまったく気付かない。
そして、俺はアジトに入ってきた場所まで移動すると、大きな袋からモモカを魔法を使って外に出して、ガムテープを外してやる。
「ええー、もう終わりー! モモカ、もっとぐるぐる回してほしかったばってん」
モモカ、今はそれどころではないのだ。話は聞いていただろう。
俺はモモカにもう片方のガラスの靴を渡して、両手をギュッと握り、
「モモカ、王子様役、頼んだぞ。これはモモカにしか頼めない任務なんだ」
とじっと目を見つめていった。レイラの真似だ。
「モモカにしかできない……。わかりましたー。おもしろうそうだし、モモカに任せてよかよ!」
効果てきめんだった。
モモカはガラスの靴をしっかり手に持つと、
「ゴホンッ」
と役者っぽく咳払いしてから、アジトに入って行く。
俺はまた超高速で移動しながら、様子を見守る。
そして、モモカが、ガラスの靴を高らかと上げて、
「誰か、このガラスの靴の持ち主を知らぬかばってん!」
そう大声で言い放った。
声を聞きつけた“ダイダニック軍団”の荒くれどもが集まってくる。ヨーシャカ、リンスク、モーネは瞬時に状況を理解したようで、モモカのことを知らない振りをしている。
「どうなっているんだ。ガラスの靴だってよ……」
「まさか、本当に来るとは……」
「でも、フトシは靴なんて履いてな……」
“ダイダニック軍団”の荒くれ者どもが動揺していると、
「ああ、それ、僕がいつの間にか片方だけ履いているガラスの靴と一緒だー」
と言いながらフトシがやって来る。
「ふむふむ。それでは、このガラスの靴を履いてみてくればってん」
モモカがガラスの靴を置く。
フトシがそのガラスの靴を履く。
オリジナルのシンデレラとは多少違うが、まあこれでいいだろう。モモカも、フトシの足に触れるのは嫌だっただろうしな。
「おお、まさにピッタリではないか。ようやく見つけたぞ。私と結婚して、プリンセスになってくればってん」
「はい、王子様。こんな私でよろしければ、喜んでお受けいたしますわー」
モモカもフトシもキャラ設定を守って、下手ではあるが芝居を演じ切る。
高揚したフトシが抱きつこうとするが、モモカはそれを俊敏に避ける。
「チッ、しょうがねえな、“シンデレラごっこ”はやめだやめ」
「ああ、つまんねーの!」
「まったく、最悪だぜ!」
“ダイダニック軍団”の荒くれ者どもが、意気消沈している。ざまぁみろってんだ! 正義は必ず勝つのだ。ハハハハハッ。ハハハハハッ。
「次はなんにするよー」
「そうだな、“鶴の恩返しごっこ”はどうだ!」
「おお、それナイスアイデア!」
「主人公はやっぱり、鶴だよな。鶴の恩返しってタイトルだから」
「それじゃ、誰が鶴の役をやるよ……」
「俺は別に主役って柄ではないし……」
「それを言ったら俺だってそうだよ……」
「ああ、俺も……」
まずいぞ。まずいぞ、この流れ、フトシ、早まるよな。
「だったら、僕が鶴役やってもいいかな?」
「どうぞ、どうぞ、どうぞ」
“ダイダニック軍団”の荒くれ者どもが、一斉に頭を下げて、手を前に出す。もう、お前ら、“ダチョウ軍団”に改名しろよ。
「わーい! ありがとう! また主役をやらせてもらえるなんて、やっぱり僕は幸せ者だー!」
フトシは幸せそうに笑っている。
勝手にやったこととはいえ、俺たちの苦労はどうなるんだ。天然娘のモモカでさえ呆れていることだろう。
「ええー、ずるーい。モモカも主役の鶴役やりたかったと!」
なんだって!?
「まあ、鶴役2人でもよくね」
「そうだな。細かいことは気にしない、気にしない」
そりゃそうだ。お前らにとっては、鶴役は多ければ多いほどいいに決まっている。
ヨーシャカ、リンスク、モーネの3人も、さすがに呆れた表情をしている。
「そうと決まったら、お前たちはあの空き家を使って、これからは毎日、寝ないで飯を作り続けろ」
「絶対に中を覗かないでくださいよー」
「そうそう、覗いたらダメばってん」
キャラ設定を守るフトシとモモカ。大丈夫だ。その心配は必要ない。誰も覗きはしないのだ。お前たちは、これからずっと荒くれどもの飯をひたすら作らされるんだ。
きっと、この荒くれ者たちのことだから、オリジナルの鶴の恩返しと違って、フトシとモモカはずっと閉じ込められることになるだろう。
ああ、こんなことになるのなら、まだ“シンデレラごっこ”のほうがよかった気がする。すまん、フトシ、モモカ。俺はお前たちの純情さを見くびっていた!!




