俺を助けに来るのは、俺なんだ‼︎
モモカがキレイな水が湧き出ている場所を知っているというので、2人で水を汲みに行くことにした。そう2人。
アニキとスーモイに起きるたびに失神されていたのでは先に進めない。だから、置いていくことにした。決してモモカと2人きりになりたかったわけではない。
「ハックション」
「風邪ひいとっと?」
「いや、風邪ではないと思うけど……」
なんだろう。今、ブルブルッと震えるくらい寒気がした。鋭い殺気を感じたような……。
モモカが背伸びして、おでことおでこをくっつける。もちろん、おっぱいも直撃であたる。
「そうですね、熱はなかとですね。よかったばってん」
ああ、冒険っていいなあ。小さいことは気にしないで進もう。
「ハア、ハア、ハア」
水を汲みに行って、もう5時間くらい歩いている。日も沈みかけている。モモカが知っているという、水源にはまだたどり着けていない。さすがに、喉が渇いてしんどい。
もちろん、道中、モンスターや荒くれどもと何度も戦闘になった。予想以上にモモカは強くて、大きな戦力になったのでその点は助かった。レベルは355だった。俺のレベルはついに1,000を超えて、1088まで上がっていた。
金貨も象が入りそうなくらい大きな袋いっぱいに入っている。早く持ち帰って、昨日の分と同じように、アニキとスーモイの家近くの洞窟に隠さなければ。
こんなことになるのなら、“異空間金庫の魔法書”を購入しておくべきだった。購入するには金貨500枚も必要だったから、買うのをためらっていた。この島から出ることができたら、迷わず購入することにしよう。多分、この2日間だけで、金貨100,000枚は貯まっているはずだ。
ミチェルに金貨100,000枚、いや200,000枚支払って、俺のあと2つのスキルも聞くことにしよう。
「あれー、おかしいなー。この辺だったはずばってん」
うん、これはあれだ。完全に道に迷っている。モモカと2人きりの時間を楽しんで、つい何も言わずについてきてしまったが、さすがにもうモモカに先導させるはやめよう。
パンチラも今日の分は十分に拝ませていただいた。ごちそうさまです。俺は手を合わせて、モモカのお尻に向かって深々とお辞儀する。礼儀は大事だ。
「モモカ、今日のところはもう帰ろ……」
そう言いかけたとき、昨晩アニキとスーモイの家に、美味しそうな匂いにつられてやってきた、あの太っちょの戦士と遭遇した。
問題は、太っちょの戦士と一緒に、5人の見るからに尋常じゃないほど強そうな戦士がいたことだ。
この象が入るくらい大きな袋いっぱいの金貨をあげても見逃してくれないだろう。俺はとっさに、その金貨を入れていた袋にモモカを隠した。
5人の戦士の目つきを見ればわかる。好戦的で残虐な連中だ。防具はほとんど身にまとっていない。よほど強さに自信があるのだろう。
それに、手にしている武器は、ノコギリのようなものや、アイアンクロー、メリケンサックなど、攻撃力よりも、どうやって相手をなぶり殺すかを優先的に選んでいるように思える。
特に、メリケンサックを手にはめていて、中折れ帽子とプロレスラーがよく履いているショートタイツしか身にまとっていない奴がヤバい雰囲気満点だった。
まったく、こんなときに、アニキとスーモイはなにをしているんだ!
結論から言えば、ボコボコにされた。容赦なく、殴られ、蹴られ、アイアンクローで何度もお腹を刺された。
今は一休みして、俺の両腕、両足をどの順番で誰が切り落としていくか相談しているようだ。
「この世界で死んだら、生き返らせる魔法もアイテムもない」
ミチェルが最初に教えてくれたことを思い出していた。
誰か、助けてくれと思った。でも、誰も来てくれない。アニキもスーモイもこの大ピンチに気付いて、大慌てで助けに来てくれる気配がない。
そりゃそうだ。だって、ヒーローは俺なんだ。他の誰でもない俺なんだ。この世界では俺がヒーローになるんだ。
だから、だから、俺は俺が助けるんだ!!
この状況になったおかげで思い出した。本当に人生はいつどういう風が吹くのかわからない。ミチェルが悔しがる顔が眼に浮かぶ。
俺は残った力を振り絞って、この世界に来るときに選んだ2つ目のスキル“戦闘民族直伝! 瀕死であればあるほど使ったときに強くなっているスキル”を発動させた。
ブオォーンオーンオーン!! みるみる全身の傷が治り、力がみなぎって来る!!
「なんだこいつ、急に元気になりやがった……」
「おっしゃー、これでまた最初からボッコボコにできるじゃん!」
「なんだ、その自信に満ちた目は! 生意気な!」
「もう殺しちゃってもいいよねー」
「そうだな。いつまでも遊んでいると、ディカプレオに怒られちまう。やってしまえ!!」
メリケンサックの戦士がそう言うと、5人一斉に俺にかかってくる。
太っちょの戦士はあくびしながら見ていた。
遅い。遅すぎる。
俺はまるでスローモーションのように見える5人の戦士の連続攻撃をかわした。
先ほどまで、こんなにノロマな攻撃をくらっていたのか。ちょっと自己嫌悪に陥った。
でも、まあいい。こいつらより弱かったのも過去の話だ。
俺はまず、1番痛い思いをさせられたアイアンクローの戦士の腹を、突き上げるように思い切り殴った。
すると拳が当たる前に、その風圧だけでアイアンクローの戦士が上空の彼方に飛んで行ってしまった。
しまった。落下してきたら、腕をしっかり握って殴るようにしよう。
「悪いな、まだ力の加減がよくわからなくて」
と言っても、あんなに高く飛ばされたら聞こえないか。
その様子を目の当たりにして、メリケンサックの戦士以外の3人が逃げようとする。
もちろん逃がすわけがない。俺はゆっくり、1番手前にいた戦士を指でつついてみた。その戦士はたちまち気絶して、キースというこの島で最強という戦士が住む山の方へ飛んで行った。
「あちゃー、俺、強くなりすぎているみたいだ。もっと気をつけなきゃな」
逃げようとしているあと2人の戦士は、そっと腕を捕まえて(できるかぎり力を抜いたがボキッと鈍い音がした)地面に叩きつけた。
地面は大きく陥没して、叩きつけた2人の戦士はピクリとも動かなくなってしまった。
「おーい、まだまだこれからだぞー!」
返事はない。
メリケンサックの戦士は、その様子を見ても、俺に殴りかかってくる。目を見ればわかる。勇敢なわけではない。ただただ好戦的なのだ。勝つか負けるか、生きるか死ぬかなど、まったく気にしていない。
俺はメリケンサックの戦士に、右ストレートのカウンターを喰らわせた。風圧だけで飛んでいかないように、左手でちゃんと捕まえていたので、俺の拳がもろに当たる。
木々をなぎ倒し、新幹線より速いスピードで吹っ飛んでいった。
「しまった! これじゃ自然破壊だ。悪いことしてしまったなー。反省、反省」
すると、アイアンクローの戦士が、陥没した地面に横たわっていた2人の戦士の上に落下してきた。アイアンクローの戦士もピクリとも動かない。
うーん、俺はあんなに痛めつけられたのに、こんなにあっさり勝ってしまったら、なんだかスッキリしない。
俺は金貨とモモカを入れた袋を持つと、早々に逃げ出していた太っちょの戦士を追いかけることにした。まだ仲間がいるかもしれない。そいつらに、この5人にやられた分をたっぷりとやり返してやろう。
それにしても、あの太っちょの戦士、逃げ足はやはり速いな。まあ、俺がゆっくり歩いても余裕で追いかけられるスピードだけど。さあ、仲間のところへ案内してくれ。
「ちょっと、どうなっているのー。モンジャー急にめちゃくちゃ強くなったばってん」
袋の中から、察知できるとは、モモカたちはいったい何者なのだ?
ああ、早く闘いてー‼︎
俺のレベルは想像を遥かに超えて、99999になっていた。




