お父さんは今日もモンスターを退治してお金を稼ぎます
「さっすが師匠! すげーや! うーん、でも何回見てもやり方がわからないなー」
ミカエムが首をかしげている。
スチールドラゴン1体で金貨80枚か、自己ベスト更新とはならなかったが、なかなかの稼ぎだ。金貨1枚が向こうの世界で12万円になる。
銅貨は1枚で0.5円ほどになる。金貨は向こうの世界で価値が上がるが、銅貨の価値はめちゃくちゃ下がる。3枚で1.5円にしかならない。きっとあの2匹のゴブリンの分だろう。
でも、大切なお金であることには違いない。1円をバカにする者はなんとやらだ。
こんな感じで、俺に触れたモンスターは、お金に変わってくれる。
「フッ。スチールドラゴンごときじゃ、準備運動にもならねえ」
別にモンスター自身が触れなくても、吐き出した炎や、持っている武器が俺に触れただけでも、お金に変わる。
だから、俺はこの世界で“モンスターチェンジャー”と呼ばれている。比較的親しい相手からは略して“モンジャー”と呼ばれている。わかっている。あまりいい響きではない。
まあ、とにかく俺はここで稼ぎ、向こうの世界の家族に仕送りするのだ。向こうの世界には東京の世田谷区に建てた1戸建てがあり、まだローンが5,500万円も残っている。
俺の向こうの世界での名前は須藤守。39歳だ。妻の彩夏41歳と中1の夏希と小5の紗麻亜の2人の娘がいて、ここから仕送りしている。
妻の彩夏もスーパーのパートで働いてくれていたが、それでも住宅ローンを払いながら、子供2人を大学に通わせるには、向こうの世界の俺の稼ぎでは到底無理だった。
一度手放したら、戻ってこないのは家族だけだ。家族はお金では買えない。でも、お金がないと家族を失ってしまうこともある。父親はなんとかして稼がないと…。
それで、出勤早々、金貨80枚と銅貨3枚で、9,600,003円の稼ぎを得たわけだが、仕送りにはバカ高い手数料がかかる。
メルカリの手数料の10%も高いと感じていたが、それどころではない。
ここから向こうの世界に送金する際にかかる手数料は99.999%だ。
つまり、9,600,003円送金したら、向こうの世界には9,600円が振り込まれる。残念ながら、ゴブリンの分は消えてなくなる。
だから、銅貨は100枚貯めて金貨に変えてから送金するようにしている。
タララッタタッタッー!!!!!
よし、またレベルが上がった。これでレベル51だ。
モンスターが体に触れてお金に変わってくれることは楽ではあったが、稼ぎがいいのは生け捕りにすることだった。
昨日生け捕りにしたスチールドラゴンの赤ん坊は金貨150枚で売れた。つまり、18,000,000円をゲットして、向こうの世界に18,000円仕送りできるのだ。
2時間弱くらいで完了した仕事だったので、時給にして9,000円。なかなか効率の良い仕事だった。しかも、こうやって金貨80枚になるスチールドラゴンの父親と、銅貨3枚になったゴブリンを連れてきてくれた。
さすがにあの大きさのスチールドラゴンを今の俺では生け捕りにできない。もし、生け捕りにできていたら、金貨800枚はもらえただろう。
今は生け捕りにできないモンスターは、体に触れさせて金貨にかえる。そして、着実にレベルアップして、なるべくモンスターを生け捕りできるように強くなる。魔法の書は積極的に購入し、生活の時短及び、モンスターを生け捕りにする際に役立てる。そう心がけている。
ここに来てもう半年近く経とうとしているが、今では毎月80万円を仕送りすることができている。向こうの世界に帰るためには、金貨5,000枚必要なので、まだ一度も帰省したことはない。
寂しくないといえば正直嘘になるが、俺はこの世界での暮らしが気に入っている。
仕送りして、残った分の金貨でかなり豪勢な暮らしができているからだ。
リストン王国の一等地に広大な土地をキャッシュで買った。
「異世界には夢しかない‼︎ 最高だ‼︎」
俺はこの土地を買ったとき、絶景の海に向かってそう叫んだ。あの解放感、達成感、優越感。今でもよく覚えている。
日用品も、TBBのインスタントコーヒーのように、向こうの世界でお気に入りだったものは送ってもらっているが、それ以外はこの世界の最高級品を愛用している。
ソファもベッドも、向こうの世界なら車が買えるくらいの高額なものを購入した。おかげで最高のくつろぎと睡眠を手に入れることができた。
枕だって、オーダーメイドで、向こうの世界の給料3ヶ月分の価格だった。
特にこだわったのはフライパンだ。熟練のホビットの職人に頼んで作ってもらったもはや芸術品だ。
普通の卵を焼いても、味のまろやかさ、奥深さ、香ばしさが全然違う。
虹色鶏のレアな緑卵(向こうの世界の価値だと1個3,000円)でオムレツを作ったら、もう最高だ! このフライパンのおかげで至福の日々を過ごせている。
シャンプーやコンディショナー、ボディソープだって、エルフ秘伝の1番高いやつを使っている。加齢臭なんて無縁だ。いい匂いがしていることが自分でもよくわかる。
だから寂しさよりも、この世界での暮らしが楽しくてたまらない。自由だ。逆に家族に寂しい思いをさせてしまっているが、今はとにかく、仕送りをするためにこの世界でガッポリ稼ぎまくるのだ!
「20歳過ぎたら、年とっても、車の保険料が安くなることくらいしかいいことない」
と向こうの世界にいた頃、同僚と飲みに行ってクダを巻いたこともあったが、あの言葉は撤回する。
そのうち向こうの世界に帰省したときには、この異世界での素晴らしい生活を皆に教えてあげよう! これからは異世界で楽して稼ぐ時代なんだ! まさに夢のような毎日だ‼︎ 夢の世界は実在するのだ‼︎