レベル777になったら、ざまぁのチャンスがきた!!
なんで、こいつがここに!? 一瞬戸惑ったが、謎よりも怒りが勝っていたので、俺はすぐさま川から出ると、小便を終えてすっきりした様子の“田沢”に飛び蹴りを喰らわせる!!
「ぬおっ!! 立ち小便が終わったあとのスッキリ感を味わっているところを不意打ちするとは、なんという卑怯者!!」
よくお前の口から卑怯者という言葉が出てくるな!! こいつは、向こうの世界で直属ではないが、俺の上司にあたる存在だった。自分には実力がないくせに、偉い奴にくっついて出世していく典型的なクソヤロー。
自分より上の者にはヘラヘラして、自分より下の奴には悪態の限りを尽くし、部下の手柄も平気で横取りして出世するという、どこの会社にでもいるクソヤローだ。あだ名は“ゴキブリ”だった。
「お、お前は、どうしてお前がここに!?」
顔は覚えていても、どうせ俺の名前も覚えていないのだろう。廊下でぶつかったとき、俺が2週間もほとんど寝ないでつくったプレゼン用の資料を、
「ちゃんと前見て歩けよ、お前たちなんて俺たちエリート組の邪魔でしかねえんだよ!!」
と言って、靴でグチャグチャに踏みつけやがった田沢、お前のことを俺は忘れたことがないぞ。
それに、忘年会では突然、俺にお盆を持たせて、裸芸を強制させやがった。その挙句、「つまんねー」と言って、ビールまでかけやがって……。
キャバクラにいったときも、俺が一度指名したかった“メグ”ちゃんをいつも独占していた。その他もろもろ、恨むべきこと数知れず…。
「お前、レ、レベルは?」
「777になったところだ」
「うぐっ……」
おそらく自分のレベルより、俺のレベルのほうが高いのだろう。田沢の顔が曇る。
「この島では誰が誰を始末しても、罪にならないんだぜ。知っているよな?」
俺は魔法でダイアモンドの大剣を出す。
「お、お前、俺は“クニオブラザーズⅢ”の№2なんだぞ!! 俺に手を出したら、クニオさんが黙ってないぞ!! お前なんかギタンギタンのギチョンギチョンのボロンボロンにされちゃうからな!!」
“クニオブラザーズⅢ”だと、なんだその楽しそうな軍団名は。それにしても、異世界に来てまで、強い奴にとりいって生き延びているのか……このクズヤローめ。
そうか、荒くれ者だけではなくて、こういうタイプでヤバい奴もこの島には捨てられているんだな。
さてと、他の奴に横取りされてしまわないように、こいつをギタンギタンのギチョンギチョンのボロンボロンのベリンベリンにしてやろう!! さっきから、こんなクソヤローにお前、お前と言われて、怒りはさらに高まっている。
おっと、剣で切って、あっさり死なれたらたまったものではない。俺は、ダイアモンドの大剣を魔法でしまう。
そして、そのダイアモンドの大剣を購入したときにおまけでもらった“ごく普通のムチ”を魔法で出した。使うことはないと思っていたが、何がどこで役に立つかわからないものだ。
「う、うわーーー!! やめてくれーーー!! イタッーーー!! イタッ、ウッ……」
ムチで叩きまくると田沢の奴、失神しやがった。こいつさては、レベル50もないな。俺は魔法で田沢を川に落とす。蹴とばそうかと思ったが、こいつに触れるのも嫌だった。
目を覚ました田沢が、水中で暴れる。
魔法で川から上げると、再びムチで滅多打ちにする。ご自慢の金縁眼鏡が割れる。
「や、やめてくれぇーーー。もう、許してくれぇーーー」
ざまぁ見やがれ!! お前にもう明日はない……、ここで俺が始末してやる。
「ハア、ハア、ハア」
俺は十二分にムチで田沢を叩きのめすと、武器をダイアモンドの大剣にかえる。
「む、向こうに、か、家族が……。頼む、許して、ください」
虫の息の田沢が、涙ながらに俺に命乞いする。
「わかった」
「本当か、あ、ありがとう」
田沢が喜ぶ。喋り方が完全に治っていない。「本当ですか、ありがとうございます。須藤様」だろうが。どんなに叩きのめしても、こいつがまともな奴に生まれ変わることなどない。俺はそう思った。
だから、
「わかったよ。貴様の向こうの家族に多少だが、俺が仕送りしてやる。俺の金で生かさせてやるよ。ハハハハハッ。ハハハハハッ」
と高らかに笑って、ダイアモンドの大剣を振りかざす。
「ヒィー……」
田沢は逃げようともだえるが、動くことができない。
ポタッ。
「クソッ! なんで俺はこんな奴も殺してしまうことができないんだ! クソッ、クソッ、クソッ! 俺の大バカヤロー!!」
ポタッ。ポタッ。俺の目から悔し涙がこぼれる。こんな奴でも人間だ。しかも、家族がいる。俺に命を奪うことはできなかった。
周囲には、血の匂いを嗅ぎつけた“陸海空キングジョーズ”の群れが集まっていた。先ほど仲間が俺に金貨に変えられたのを見ていたようだ、近づきすぎないように距離を保っている。獰猛な上に、賢い連中だ。
わかっている。俺がここで、田沢を見逃したとしても、こんな瀕死の状態なら、この島ではすぐに誰かの餌食になる。だったら、俺が始末してしまっても同じことではないか?
いや、むしろかえって残酷なことをする気もする。それにこしたことはないが、どうせここで“田沢が死ぬという事実”があるのなら、俺は直接自分の手でやり遂げたかった。恨みを晴らしたかった。でも、それができないのだ…。腕が振るえて、ろくに剣を握ることさえできない…。
ザザザザザー。突然、大雨が降り出す。
ドドドドーン。雷もなる。
すると、“陸海空キングジョーズ”が突然、蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行く。
雷が苦手なのか?
「アハハハハッ。アハハハハッ」
先ほどまで俺に命乞いをしていた田沢が、気でも狂ったのか笑いだした。
「何がおかしい」
「もうお前の命はないぞ。クニオさまがもうすぐ来られるのだ。俺が選んだスキルは、『面倒な戦いはリーダーに任せて、自分は陰で悪事の限りを尽くし、悠々自適な異世界ライフを満喫できる№2になれるスキル』と、『俺がピンチになったときリーダーは俺を助けずにはいられないスキル』と、『一生ハゲないスキル』の3つだ」
「なんだと? この異世界に来るときに、スキルを3つ選べるのか?」
ゲームなんて普段しないし、あの時はやや自暴自棄になっていたから、ちゃんと説明を読んでいなかったようだ。俺にもあと2つスキルがあるのか……。
「なんだ、お前、そんなことも知らないのか? ダメな奴は、異世界に来てもダメなんだな。アハハハハッ」
ブスッ。
「ウゴッ……」
俺はダイアモンドの大剣で、田沢の心臓を思わず突き刺していた。やっちまった。