み、水を飲みたいのだが……
結局、一睡もできなかった。
夜行性のモンスターや、眠らないで戦い続けている戦闘バカたちと遭遇して、朝まで戦い続けることになってしまった。
モンスターはどんなに強い奴でも問題ないが(むしろ強いモンスターと遭遇したほうが経験値と金貨を多くもらえるので好都合だ)、幸い昨夜遭遇した戦士たちは、ダイアモンドの大剣を魔法で出して、俺でも倒すことができた。
俺はちゃんと強くなっている。レベルも489まで上がっていた!
戦士と戦闘して勝利しても、レベルが上がらなければ金貨ももらえないので効率が悪い。やはり、荒くれどもたちは、なるべくアニキとスーモイに相手してもらおう。
それにしても、ああ腹減った~。
魔法でふわっふわの卵サンドを出そうと試みるがうまくいかない。出てきたのは、ガッチガチに強化された卵だった。
どうやら、魔法で武器を出すことはできても、“捨てられた者”に簡単に食事をとらさないように規制がかかっているようだ。
俺は仕方なく、自給自足の生活を試みる。
まずは、川をさがした。
すぐに見つかると思ったが、川を探すために6時間もかかった。距離にしてたった800m。たった、それだけ移動するだけでも、荒くれ者たちのバトルに巻き込まれて、時間がかかってしかたがない。
大物のモンスター“ファックユーボーンナイト”(すれ違う相手にだれかれかまわず、ファックユーと言って争いになっていたナイトの亡霊)を倒したこともあって、レベルは776まで上がっていた。
あと1つレベルが上がればスリーセブンだ。きっと、何か良いことが起こる予感がする。
さて、川といっても、このドブ川…。とてもじゃないが、
「うわー、おいしそう! ゴクゴク飲もうっと!」
なんて気にはなれない。
ザブンッ!!
音がした方向を見ると、全身から角が生えてくる角々族の戦士が、川に飛び込んで、体を洗っていた。
ジャジャジャジャジャー。
反対側を見てみると、肩が鉄球のようになっている肩玉族の戦士が、わざわざ川に立ち小便をしている。なかなか見事なサイズだった。
ええい、そんなことはどうでもいい!! マジでどうでもいい!! 寝不足で思考回路がおかしくなっている。
そして、体を洗っていた角々族の戦士と、立ち小便がやたらと長い肩玉族の戦士の目が合う。
「なんだよテメー、やんのかコラッ!!」
「上等だ!! 朝の運動がてら相手してやるぜ!!」
「うわっ」
あぶねー。肩玉族の戦士は小便を出しながら、川に飛び込んだので、あやうく俺にかかるところだった。
角々族の戦士の角が、肩玉族の戦士の腕に刺されば、肩玉族の戦士も鉄球のような肩をぶつけて応戦する。どちらも、防御なんてする気がないから、あっという間に傷だらけだ。
ドブ川に血が流れる。もはや、100%ろ過できる道具があったとしても、俺はこの川の水を飲むことはない。
そして、血の匂いを嗅ぎつけた“陸海空キングジョーズ”が川の中から出てきて、戦闘に夢中になって笑みさえ浮かべている2人の戦士を丸のみにしてしまう。
“陸海空キングジョーズ”は、海はもちろん、陸を歩くことも、空を飛ぶこともできる、どこでも生きていける殺し屋だ。
俺は本能的に “陸海空キングジョーズ”に飛び掛かり、金貨に変える。チャポン、チャポン、チャポン。金貨のほとんどが川に落ちて、流されてしまう。
やっちまったじゃねぇかーーーー!!!!! たった今、ひどい垢と、小便と、血が流れた、この世界でもベスト3には絶対に入っているような汚さの川に入ってしまったーーー!!
タララッタタッタッー!!!!!
レベルが777に上がった…。ちくしょう、スリーセブンになったら、良いことが起こりそうな気がしていた自分に腹が立つ。
ジャジャジャジャジャー。
また誰かが、わざわざ川に向かって立ち小便をしていやがる。やはり、このような無法地帯に来ても、水で流れるところで小便をしたいというのが男の性なのか。
しかも、こいつ、川上で立ち小便をしてやがる。つまり、今俺の体に流れてきているものは……。ああ、ふざけるな、これでは汚物フィーバーではないか!!
絶対に許さないと、俺が川上のほうを見ると、そこには見たことのある奴がいた。そう、向こうの世界でよく知っている“まさに汚物”といえる奴だった……。あいかわらず、8:2分けの髪形と金縁眼鏡、やけに長い手足がキモい。