魔王だって不倫は許せない!
「おっほん。お取込み中ごめんなさい。モンジャー、奥様からお電話ですよー! 20秒で金貨300枚いただくわよー。それから、魔王! 絶対に許しませんからね!!」
ミチェルの奴、20秒で金貨300枚にサラッと値上げしてやがるが、そんなことはどうでもいい。
「奥様?」
ナコが俺から体を離す。
トゥルルルルー。 トゥルルルルー。
「どうするのー。電話に出ないのー」
「ああ、出ないよ。出ないに決まっているだろ!」
「えー、奥様困っているかもよ。お子さんのこととかで。電話に出なくていいのかなー」
クソッ。ミチェルの奴、楽しんでいやがる。でも、確かにミチェルの言うとおりだ。夏希と紗麻亜になにかあったのか? あっ、もしかし夏希がサッカー部のキャプテンとかいう充希ってやろうに二股でもされて傷ついて、ショックで寝込んでしまったのではないか? きっとそうだ! サッカー部のキャプテンなんてそういう奴らばかりだ。(わかっている。偏見だ。)
トゥルルルルー。 トゥルルルルー。
「さっさと、電話に出たら」
ナコの目がすわっている。もはや弁解の余地はない。ああ、彩夏、夏希、紗麻亜、この電話で話すことが最後にならないことを祈る。
「はい、もしもし」
「あっ、あなた? どうして、いつも電話に出るの遅いの? 不倫とかしていないでしょうね?」
ウッ、これが女の感というやつか。恐ろしい。
「アハハッ。まあ、あなたにそんなことできるわけないか。あのね、紗麻亜がね、今度の夏休みにそっちに遊びに行きたいって言ってきかないのよ。あっ、ちょっと……」
「パパ、来月の夏休みに遊びに行くからよろしく。もうね、日本の男子って本当に最低なの。一緒に観覧車乗ったら、男子同士でDS始めたのよ。信じられないわ。そっちで、かっこいい男子いたら紹介してよね。じゃ、これから、塾だから、バイバイ」
俺の返事を聞かないで、電話は一方的に切られる。
「チッ、60秒きっかりか。通話料は金貨900枚でいいわ。娘さんが遊びに来るときは、往復で金貨100,000枚払ってよね。子供料金はないのであしからず」
不機嫌そうに言って、ミチェルの気配が消える。900枚でいいいわって、別に安くしてくれているわけではないだろう。こっちはたった1分の電話だけで金貨900枚も支払うんだぞ。なぜ、900枚でいいわって、上から言われないといけないんだ。
そんなことを考えてみて現実逃避を心がけてみる。しかし、明らかな殺気を感じる。
「お主、既婚者だったのじゃな。しかも、子持ち……。危うく不倫になってしまうところだったではないか」
魔王も不倫には抵抗があるのだな。
「いや、でも、この世界では俺、独身だし……」
言い訳してみる。魔王の髪が逆立って、殺気が増す。
「その言葉、奥さんに言えるのじゃな?」
「い、いや、そ、それは、ど、どうかな。知らぬが仏って、言葉もあることだし……」
殺気が破裂寸前だ。
ううっ、こんなときこそ、しどろもどろになってはいけない。ええい、開き直ってしまおう!
「もう、そんなことはどうでもいいだろう。俺はナコを愛している」
精一杯、男前な顔をしてみる。
「黙れ! 黙れ! 黙れ! お主には“最果ての入り口はあっても出口はない島”に行ってもらおうか」
知っている。噂で聞いたことがあるぞ。
「待ってくれ、来月に娘が遊びに……」
魔王、いやナコが俺の顔に、人差し指を向ける。そして、プイッと上に人差し指を動かした瞬間に、俺は“最果ての入り口はあっても出口はない島”へと送られた。