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生まれたときから

「ん、そこにいるのはマリーヌではないか! これはいったいどうなっているのだ? もしや、モンジャー、ワシを騙しおったのか!? 許さぬぞ!!」


 マリーヌの父、レストキアの国王がムキムキッと筋肉を膨らませて、着ていた服が散り散りに破ける。


「お父様のバカ! 偽物の私に気付かないなんて最低ですわ」


「悪かったよマリーヌ。なんでも言うことを聞くから許しておくれ」


「本当! それなら、私たちを助けてください。私とミカエムと、そして魔王を……。お願いします。この通りです」


 マリーヌは膝をつき、両手を合わせ、目をウルッとさせて、国王に懇願する。おい! 俺の名前が出ていないぞ! それにどうして、マリーヌがここまでして魔王を助けようとするんだ?


「愛する娘よ。それだけはできんのだ。この魔王によって、世界は至るところを破壊され、経済は破綻し、皆が困窮しておる。倒さねばならぬのだ」


「だからって、だからって、世界対魔王なんて、なんだかおかしい! 団結といえば聞こえがいいですが、卑怯な戦いです! レストキアの王女としてこれは恥ずかしい行為です!」


「黙らぬか! この小娘が!」


 レストキアの国王がさらに筋肉をムキムキと膨らませる。今にも乳首が飛んでいってしまいそうなほどだ。


「マリーヌ、お前にはこの魔王の恐ろしさが……」


 そうレストキアの国王が言いかけると、


「我の前で大きな声を出すな! 耳障りじゃ!」


と美しすぎる名前を忘れた魔王が言い、


「デディアモヌケトラ」


そう呪文を唱える。すると、そこら中の雲が、太陽のように赤黒く、熱く足のない魔獣に姿を変えて暴れまわる。


「グワワワオーンッ‼︎」


「ウワーーー!」


「た、助けてくれー!」


「に、逃げろー!」


 悲鳴が虚しく響くだけで、瞬く間に世界各国の軍隊が消滅する。


「ヌガワワワオーンッ‼︎」


 太陽と雲と獅子をミックスしたような赤黒い魔獣がマリーヌにも襲いかかる。


「お父様…」


 魔獣に飲み込まれ、マリーヌの姿も消えてしまう。さらには、イームもエルディもニックスの姿もいつの間にか消えていた。


 残ったのは俺とミカエムだけだった。


「マリーヌを、他の皆をどうしたんだよ!」


 ミカエムが聞くと、


「闇の牢屋に閉じ込めたのじゃ。我の奴隷となって働いてもらうためにな。お主たちは我の夫となるのじゃ。城に帰って、夫婦の契りを交わすとしよう」


と美しすぎる名前を忘れたエロさもある魔王が答える。なんという強さだ。予想を遥かに上回っていた。というか、この大和撫子な風貌でこの強さは誰にも想像がつかないだろう。ギャップがありすぎる。それもまた魅力的なのだが。


 まあ、マリーヌも、エルディたちも、世界各国の軍隊も、命を奪われたわけではなく、牢獄に閉じ込められたようだから、今度助けに行けばいい。美しすぎる名前を忘れたエロさもある魔王が眠っている時とか、チャンスはあるだろう。


 なにせ俺は夫になるのだから、イヒヒヒヒッ。夫婦の契り、ああ早く夫婦の契りをしたいなー。(向こうの世界では既婚者だが、この世界では未婚だ。何の問題もないだろう)


 ミカエムも顔を赤くしている。


 無理もない。美しすぎる名前を忘れたエロさもある魔王と夫婦の契りを交わせるのだから。まあ、順番は俺が先だけどな。うーん、それにしても、やっぱり名前があったほうがいい。呼び方がどんどん長くなる。


「よくもマリーヌを! 世界中の勇敢な兵士を!」


 ミカエムは怒りに身を任せて、無謀にも美しすぎる名前を忘れたエロさもある俺の妻になる魔王に殴りかかる。顔を赤くしていたのは怒りのほうだったのか。やはりまだ青いな。


 ミカエムの攻撃はあっさりと避けられ、逆に捕まえられると、激しくキスをされる!


 女に免疫のないミカエム(俺も対して人のことは言えないが)はみるみる全身の力が抜けていき、やがて気を失ってしまう!


 そ、そんなに素晴らしいキスなのか! いいな、いいな! ミカエム、羨ましすぎるぞ!!


「では、城に参るぞ」


 名前を忘れたエロさもある俺の妻になるキスで勇者を失神させた魔王が、俺に手を差し出す。


「はい、ナコさん」


「ナコさん、だと? なんだそれは」


「名前ですよ。魔王様の。大和撫子のような方だから、ナコさんです。どうです? いい名前でしょう」


 先ほどから、どんな名前がいいかずっと考えていた。子供たちの名前は向こうの世界の妻の彩夏に決められたから、初めて名前をつけることになる。


「い、いらぬわ。そ、そんな名前……」


 強がるナコさんだが、ほっぺたが少し赤い。照れているのがすぐにわかる。


「そう言わないでくださいよ、ナ・コ・さ・ん」


 わざとゆっくり名前を呼んでみると、ナコさんは顔を真っ赤にして照れる。慌てて両手で顔を隠して、抱きかかえていたミカエムを落とす。


 か、かわいい…。


「もう、ミカエムなんて、置いて行って、他の7人の旦那さんとも別れて、俺と二人で暮らそうぜ。ナコ、俺はお前を…」


「我を…」


 俺はナコを抱き寄せる。ナコは拒まない。あとは『愛している』と言って、先ほど見せつけられた激しいキスをして、夫婦の契りをするためにナコの城に行くのだ。ああ、ヤバイ、考えただけで鼻血が出そうだ。


 見つめ合う俺とナコ。


「ナコ」


「はい」


「あい……」


と言いかけたときだった。


 トゥルルルルー。 トゥルルルルー。上空から鳴り響くこの音は…。


 や、やめてくれ。こ、こんなときに。やめれくれー!

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