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助けなければ!

 魔王って、もっといかつくて、でかくて、見るからに強そうな奴ではないのか? ほら、今、昼寝しながら、雲のように空中を漂ってこっちへやってきた、この強面の体長100mは優にある超巨大モンスターみたいな感じではないのか。


「あっ、父上殿。ちょうどよいところに参られた。お主は、モンスターに触れると金貨にすることができるのじゃろ。引退されて昼寝ばかりしておるが、父上殿なら、きっともの凄い金貨になられるぞ。ほら、行ってまいれ」


 美女はそう言うと同時に俺の腕を掴むと、ビューッと物凄い勢いで俺を上空に投げ飛ばす。なんというパワーだ!


「そうはさせないですわ。これほどのモンスター見逃せません。私の召喚獣にさせてもらいますわ」


 マリーヌは水色の美しい髪を逆立てると、聖なる力で髪を伸ばしまくって、やがて花を咲かせるように、髪の毛を円状に開き、真ん中の光輝く部分に、引退した超強大な元魔王をグイーンと吸い込む。


 そして、スポッと、元魔王は聖なる力で広がっていたマリーヌの髪の中心部分に消えて行った。


 バシッ!! 美しすぎる魔王が、マリーヌをビンタする。


 マリーヌは30mほど飛ばされるが、なんとか自力で立ち上がる。唇から血が流れている。


「なんてことをしてくれるのじゃ! 我が愛するこの男に、数えきれないほどの金貨を与えてやれたものを!」


「なによっ! あんたは、ミカエムのことが好きだって言ったじゃないのよ!」


「ああ、我はミカエムも好きじゃ。我は一婦多夫制にすると昔から決めておるのじゃ! 夫はすでに7人おる! おのれ、おのれ、たかが召喚士の分際で我の邪魔をしおって! 許さぬぞ!!」


 おお、つっこみたいところが山ほどあるが、無双と言われる魔王がマジ切れしている。これはマズい。早くマリーヌを連れて逃げ出さねば…。ん、でも、待てよ、おかしいな…。


「あの、マジ切れ中ごめんなさい。魔王さんはさっき俺に抱きついたのに、どうして金貨に変わらないのですか?」


 俺はちゃんと挙手して、マジ切れ中の美しすぎる魔王に尋ねた。


「それはな、我が魔王と人間のハーフだからだ。父上殿も若き頃はスリムでモンスター界一のイケメンだったそうじゃ」


 終わった。終わったぞ。触れたモンスターを金貨に変えるという俺のスキルが、この美しすぎる魔王には通用しない!


「会心の一撃!!」


 そう言って、ミカエムが巨人族のカマを、美しすぎる魔王に向かって振り下ろす。


 ミカエムの声に反応した魔王は、余裕で避ける。


 攻撃をかわされたミカエムは、マリーヌのもとへ駆け寄る。


「大丈夫かい、マリーヌ」


 ミカエムはマリーヌを抱きかかえ、唇の血を拭ってあげる。


 バシッ!! マリーヌはミカエムに思いっきりビンタする。俺にしたビンタよりも、威力が増していた。


「どうして私の偽物に気付かなかったのよ!」


「気付いたよ。ちょっと喋ったら、マリーヌじゃないってすぐにわかった。喋り方も声も、マリーヌそっくりだったけど、すぐに偽物だってわかった。だって、マリーヌと喋ったら、俺の心はもっと熱くなるはずだから。本物のマリーヌを追いかけて走ってきたよ」


 おいおい、走ってきたよって、レストキア王国の城から、リストン王国にある俺の家まで3,000㎞はあるぞ!! どんだけ速く走ってきたんだよ!! っていうか、美しすぎる魔王の圧で、俺の自慢のこじんまりとした家が吹き飛ばされているではないか…。まあ、今はそんなことを嘆いている場合ではないか…。


「ミカエム!」


「マリーヌ!」


 凛々しき勇者と美しき王女が抱き合う。お金を払ってみる価値があるくらい、素晴らしい光景だ。しかし、今はそれどころではない。


 ミカエムめ!! 何も叫ばないで襲いかかれば、本当に会心の一撃を与えられたかもしれないのに! あっ、でも、それはそれで、美しすぎる魔王が怪我してしまうからダメだな。っていうか、いちいち美しすぎる魔王って言うの、時間の無駄だな。


「あの、魔王様。もう一つ質問があります」


 俺は再び挙手する。


「なんじゃ!」


 魔王の声だけで、俺は吹き飛ばされそうになる。


「ま、魔王様のお名前を教えてください!」


「な、名前だと、そ、そんなものないわ。そ、そんなもの……」


 魔王はひどく動揺して、突然戦意を失い、よろけるように地面に座り込んだ。


 そして、そこにイーム、エルディ、ニックスの最強パーティが現れる。イームの頬には、前にはなかった大きな切り傷ができていた。エルディの美脚はムキムキになっていて、ニックスはなぜだか腕が8本に増えている。

 きっと、魔王を探しながら修行を続けて、さらに強くなっているのだろう。おそろしいほど魔王討伐にストイックな連中だ。


 助けなければ! 俺はとっさに美しすぎる魔王に駆け寄っていた。



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