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七の巻 真冬の決闘⑪

 慌てて物陰に隠れると、そっと様子を伺い、大きく息を吐きだしました。

 「まさかこんなことに巻き込まれるとは、夢にも思っていなかったわ」

 辛うじて身を隠す場所を見つけホッとしたものの、顔が歪みます。

 「しかし……」

 何て腹立たしいことなのでしょう。自分の立てた計画は完璧だったはずです。今頃は悪評が流れ、街にはいられなくなる算段だったのに……。

 首を傾げていると肩を誰かに掴まれ、ハッとして振りかえったその顔が見る見る青ざめていきます。

 「スフレ、そこまでだ。少々おいたが過ぎたようだな」

 わなわなとスフレはその場に座り込んでしまいました。

 「みんなして何なの? どうしてなのよ」

 「お前の浅はかな考えなどお見通しだ。このような物を撒き散らしよって」

 「どうしてそれを?」

 どれもこれもひどい姿のスポンジ姫の姿が写された写真でした。こんなものが出回れば、スポンジ姫の正体はバレ、悪評が町中に広がっていたはず。

 何の音沙汰もない事にしびれを切らして自ら様子を見に来たら、なんてことでしょう。全く計算外のライとシュークリームの登場です。あれよあれよと連れて来られてしまったものの、これはこれで使える。と思ったのに……。悔しいったらありゃしません。

 「あなたを泳がしておいたのは正解でした。残りはたっぷりと牢獄城でお聞かせいただこう」

 忌々しく笑うババロアに、スフレの顔が醜く歪みます。

 「誰が話すものですか」

 「すぐに話したくなりますよ。重りはさぞかし足に食い込み痛かろう。烙印もそのご自慢のお顔にしっかり焼き付けさせていただきますぞ。一生罪人として生きていくがよい」

 問答無用で両脇を兵士に掴まれたスフレは地団太を踏みます。

 「それだけはご勘弁を。あなた様は何も知らない。私の方が数倍、いいえ何千倍も美貌も知恵も優れておりますわ。ただ生まれが違う。それだけの事。あんな姫、位がなければただの落ちこぼれ。しかしわたくしは押しも押されぬトップスター。国、いいえ全世界の宝そのものですわ」

 「待て」

 兵士の足を止めたババロアが、スフレの顎を指で持ち上げます。

 「哀れな女だ。生まれも一つの才能。所詮、張りぼては張りぼて。本物にはなりかねぬ。とくと冷たい牢の中で味わうがよい。連れていけ」

 「お待ち下さい」

 スフレは引きずられるように連れていかれ、足元に落ちていた頭巾を拾い上げたババロアは長く息を吐き出す。

 解決しなければならないことは山積みにあります。

 馬のひづめの音が遠く離れていくのを見届けると、ババロアは踵を返し、そのままどこかへと姿を消しました。


 ーーそして数日後のことです。


 グミの高らかな声が町中に響き渡ります。

 「大変大変。ビッグニュースよ」

 何事かと誰もが顔を顰めグミの方を見ます。

 「モンブラン先生が急病で。故郷へ帰られたんですって」

 「嘘をつくな」

 マカロンの厳しい声が飛び、グミはむっとした顔で言い返します。

 「嘘なんかじゃないもん」

 「どうだかねぇ」

 「音楽祭の時はお元気そうだったけどねぇ」

 町のあちらこちらからそんな声が聞こえてきて、グミも返すことが見つかりません。

 「嘘ではありません」

 その声にみんなが一斉に振り返ります。

 ミルフィーユ校長先生が白い髭を撫でながら目を細め続けます。

 「いやぁ実に残念。音楽祭を成功させる為骨を折られていたようで、ガクッと疲れたが出たのでしょう。しばらく静養することを進めたのは紛れもないこの私です。みんなに挨拶をしていけないことが一番の悔やみだったそうだが、それも致し方がない」

 「先生はどこが悪いのですか?」

 マドレーヌの質問にミルフィーユ校長先生は顔を顰めます。

 「隠していても仕方があるまい。心を少々」

 みなまで言う必要はありませんでした。

 それを聞いて少なからずクラスのみんなは納得できました。

 ここ数か月間のモンブラン先生は確かにおかしかったからです。不気味に感じていた子もいたくらいですから、難なく受け入れられ一件落着してしまったことは、本人には内緒にしておきましょう。

 まだまだ寒いですが、もう春はそこまで来ています。

 だがこの時まだ誰も、ここにスポンジ姫の姿がないことに気が付いていないのでした。



 


 

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