七の巻 真冬の決闘⑩
音楽祭も終わり、ほっと息をついたのもつかの間、集い広場には何やら物々しい雰囲気が漂っています。
北風が容赦なく雪を巻き上げていく中、睨みあっているのはライとシュークリームです。
どうしてこんなことになっているかと言いますと、さかのぼること一時間前のことでした。
一番鳥が朝を告げ、スポンジ姫はカステラおばさんを起こさないようそっとドアを開きます。
頭巾をしっかり握りしめ、歩き始めた時でした。グイと誰かに腕をつかまれ、スポンジ姫はぎょっとして振り返ります。
「こんな早くからどこへ行くべか」
怖い顔をしたライがそこにはいました。
「どこだっていいでしょ。ライ君には関係なくてっよ」
「関係ないって、あのさ昨日あんなことがあったのに、ちっとは自分の身の危険て物を感じないのかよ」
ポッケに手を突っ込み、口を尖らせて言ってきたのは、シュークリームでした。
「二人こそどうして?」
目をパチクリさせながら聞くスポンジ姫に、ライが真剣な顔で答えます。
「オラたちはこれから男と男のぶつかり合いをする。その立会人としてスポンジちゃんに来て欲しくって」
「男と男って……」
ますます意味が分からなくなったスポンジ姫が首を傾げます。
「まぁ寒いけど、悪いけんど、ちっとオラたちに付き合ってくれ」
そして訳が分からないまま、連れてこられたのがここ、集い広場だったのです。
「ねぇ馬鹿な真似は止しましょうよ」
スポンジ姫のか細い声が風にかき消されていきます。
「いいからスポンジちゃんは、そこで黙ってみていてくれ」
「でも」
そういうスポンジ姫の顔が薄っすらと笑みを浮かべているのは気のせいでしょうか?
「そうだ。これはいつか決着をつけなければなないことだから」
一陣の風が雪を巻き上げ、二人の頬を容赦なく殴りつけていきます。
「いいかここで負けたら文句なしだがよ」
「望むところだ」
「ね、止しましょうよ」
口元を抑えて言うスポンジ姫に目もくれず、依然として二人は睨み合ったままです。
「おめーさんは、最初っから気に入らなかったんだべ」
「それはこっちのセリフ」
だんだん過熱していく二人に、スポンジ姫の目がランランと輝いていることに二人は全く気が付いていません。
「もうじれったいわね。さっさとやってしまいなさいよ。寒くって堪らないわ」
風はさらに強くなり、辺り一面は白く何も見えなくなり始めていました。
耳が千切れてしまわないよう頭巾をしっかり押さえ、スポンジ姫は二人の間に割って入り声を張り上げます。
「二人とも、もう私のことで争ったりしないで」
目にいっぱいの涙まで浮かべとめるスポンジ姫でしたが、肩にそっと手を置いてきたシュークリームが首を横に振って見せます。
「寒かったら、スポンジちゃんは帰ってもいいぞ」
今までに見たことがない優しい眼差しに、スポンジ姫は思わず目を伏せてしまいます。
「言っとくがなオラはスポンジちゃんが世界中で一番好きだ。おめぇさんになんか負けないくらい、好きで好きでたまらん。この勝負がついたら、オラは正式に結婚を申し込む」
「バカも休み休み言え。スポンジちゃんはおめーみてーな者が、嫁にできるようなお方じゃない」
「どういう意味だべが」
「お前なんかに教えてやらん」
最初に剣を抜いたのは、ライの方です。
「なんだか知らんけんど、負けられんべ」
シナモンスティックが、二人の前で激しく交差されて行きます。
「ライ。もうあのお方から手を引け」
「何を言っているんだべ。スポンジちゃんはオラの国に連れて帰るんだべ」
「そんな事をさせるか」
まるでスポンジ姫の気持ちなど無視した決闘に。最初こそどぎまぎしていましたが、次第に強まっていく風に居た堪れず、踵を返したその時でした。
スポンジ姫の悲鳴が聞こえ、二人の手が止まります。
「スポンジちゃん?」
「来ないで」
近づいてこようとする二人に慌てて背を向け、スポンジ姫は叫びました。
どうしたことでしょう?
ころころと風に吹き飛ばされて、何かが遠くへ転がっていくのが見えます。
「ごめんなさい。わたくし寒すぎてもう耐えられませんわ。二人ももう馬鹿な真似はお止めになってなって、早くお家へお帰りあそばせ」
それを言うか否や、一目散に飛ばされた頭巾を拾い上げると、そのまま振り向きもせずに走りだしたのでした。
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