七の巻 真冬の決闘⑨
歌を歌っている場合じゃない。という気持ちはスポンジ姫も同じです。舞台から目を凝らしティラミスを必死で探しますが、全く見つかりません。それどころか、先程目の当たりにしてしまったメレンゲ先生との姿が目に焼き付いてしまい、どうにもこうにも頭から離れてくれません。なんて忌々しいことなのでしょう。
幕が下り、一目散でジェラートが駆けだすのを見て、スポンジ姫もそれに続こうとしたその時です。
「おい」
暗がりから手が伸びてきて、スポンジ姫は小さな悲鳴を上げます。
「シッ。俺だよ俺」
よく見るとシュークリームです。
「話がある。こっちへ来い」
すこし強引に手を引っ張られ、スポンジ姫は泡って聞き返します。
「ちょ、ちょっとお待ちになって」
「待てねぇ。いいから黙って付いて来い」
どうしたのでしょう? いつもとどこか様子が違うシュークリームにスポンジ姫は戸惑いを隠せません。
裏木戸が音を軋ませ開いたかと思うと、冷たい風が一気に吹き込んできました。
「寒い。話なら中でしましょう」
「すぐに済むから、我慢しろ」
「話って何よ。今日のシュークリーム君、少し変よ」
「俺はへ」
え?
それは一瞬の出来事でした。
鈍い音を立てシュークリームの躰が地面へと倒れていき、その背後から現れた人物を見て、スポンジ姫は息を吞みます。
「本当に子どもは面倒で行けませんね」
そこに居たのは、いつもとはまるで違う不気味な笑顔を口元に携えたモンブラン先生でした。
「モンブラン先生? シュークリーム君に何をなさったの?」
震えるスポンジ姫を弄ぶように、モンブラン先生は顔をグイと寄せてきます。
「実にいい顔だ。その怯えた目、実にいい。スポンジさん。いや姫とお呼びするべきですかな? わたくはねぇ、この日をどれほど待ち侘びていたことか」
「モンブラン先生? 何を仰っていらっしゃるの? 冗談が過ぎますわ」
「本当におめでたいお人だ」
鼻を鳴らし、転がっているシュークリームを甚振るモンブラン先生の姿に、余りの恐怖にスポンジ姫は声も出せません。一歩、また一歩と近づいてくるモンブラン先生から逃れようとしましたが、しかし抵抗も空しく口にハンカチを押し当てられ、そのまま気を失ってしまったのでした。
「これでこの国も安泰ですな」
なんて悍ましいことでしょう。
勝ち誇った笑みを浮かべ口笛を吹くと、物陰から大男が姿を現し、無言のままスポンジ姫を担ぎ上げたのでした。
すべて計画通りと思っていたモンブラン先生でしたが、振り返りざま頬に強い衝撃を覚え、そのまま頭を壁に強く打ち付けられてしまうのでした。
「やっとしっぽを出しやがったな」
ぎょっとして振り返ったモンブラン先生にでしたが、その相手を見て、口元が思わず緩んでしまいます。
無理もありません。図体だけは立派ですが、酒浸りの大男に何ができるというのでしょう。
「お前ごときが何ができるっていうんだ? けがをしたくないならさっさとお退き」
「嫌だね」
「素直に言うことを聞いておけばいいことを」
言い終わるか否やモンブラン先生はパウンドさんへ飛びかかていきました。
「おまえさん、なんか勘違いをしてねーか」
余裕と思われた伊劇でしたが、どうでしょう。軽々と交わされ、突き出した拳は掴まれ、捻りあげられてしまっているではありませんか。
「この俺を怒らせちまったんだ。容赦しねぇlからな」
「笑わせるな。今は少し、油断をしただけだ。お前ごときに負ける俺様ではない」
「さぁそれはどうかな?」
暗がりに数発鈍い音が鳴り続け、辺りが再び静けさを取り戻したのはそれからどのくらいたったでしょう?
後ろ手に縛られたモンブラン先生をパウンドが連れていき、何事もなかったかのようにティラミスに寄り添われ、スポンジ姫が講堂の中へ戻っていきます。
二人の姿を見つけいの一番に駆け寄ってきたのはライでした。
「どこさ行ってたべよ。ずっと探してたんだべよ」
「そうなの。ごめんなさい。ちょっとシュークリーム君と話をしていただけよ」
「で、シュークリームは?」
「用事があるからって、先に帰ったわ」
ライは顔を顰め、そう答えるスポンジ姫の顔をじっと見つめます。
「さ、早く帰るとしましょう」
気のせいでしょうか?
何か様子がおかしい二人に首を傾げるライでした。




