七の巻 真冬の決闘⑧
マシュマロ先生の指揮で、三部合唱です。
センターにティラミスを立たせたのは、きっとマシュマロ先生の趣味によるものでしょう。
しかし、タキシード姿が良く似合っています。
どうしてこんなことになったのかというと、王様の気まぐれでした。
「今年はわが娘が歌うとなれば」
チラッとティラミスを見て咳ばらいを一つして見せた王様が続けます。
「わしも父としてその合唱コンクールとやらを、鑑賞したいものじゃな」
「王様そうなりますといろいろ警備が」
「この冠を取って、服を庶民のものにすればただの老いぼれに見えんかな?」
「お辞めください。心臓に悪ございます」
「そうか? 王女も鑑賞したがっておるしな。はてさて困ったものじゃのぅ」
そこでポンと手をたたいたのが、ババロアです。
「左様ならば今一度この私目がティラミスに成り代わって、学校へ舞い戻り、手はずを整えましょう」
「というと?」
「舶来品でビジョンというものがございます。それにて姫様の姿をこの様にして、お伝えいたしましょう」
目に手を当てて見せるババロアを見て、王様も王女様も大喜びで手を叩きます。
そして準備のためこっそり忍び込んだまではよかったババロアでしたが、ピアノの点検をしていたマシュマロ先生に見つかってしまいもう大変です。
「あらあらそこにいらっしゃるのはティラミス先生ですわね」
どうやら暗がりではっきり見えていない様子のマシュマロ先生に話を合わせ、ババロアは答えます。
「お久しぶりです」
「急にいらっしゃらなくなったから、心配しておりましのよ」
「申し訳ございません。祖父が少々体調を崩しまして」
「それは大変でしたわね。それで、もうこちらへは戻ってこれますの?」
近寄ってこようとするマシュマロ先生の足音に、ババロアは身を固めます。
「それが塩梅があまり芳しくなくって。ではこれで」
立ち去ろうとするババロアに、マシュマロ先生は慌てて話を続けます。
「まぁお気の毒に。それで今日はこちらへは」
「祖父に学校の話を聞かせましたら、合唱コンクールを見てみたいと、駄々をこねられまして。どうしたものかと思案しに参った次第で」
「まぁそうでしたのね」
そう言いながらマシュマロ先生が近寄ってくる気配に、ババロアは顔を見られまいと必死で身を捩ります。
「これはいけない。もう帰らなければ」
「お待ちになって。私にもお手伝いをさせては頂けないかしら?」
「と言いますと」
にやりと微笑んだマシュマロが答えます。
「ぜひ、ティラミス先生にソロパートをお願いいたしますわ。お孫さんの晴れの舞台、ご勇姿を見せられましたら、どんなにお喜びになられることでしょう。そうですわ。そうすべきですわ。これで決まりましたわね」
「いやしかし、祖父の看病で練習もできませんし、それに来れるかどうかもわかりませんし」
「そんな悲しいこと、おっしゃらないで。きっとおじい様もそれを望まれますわ」
一歩も引こうとしないマシュマロ先生に、ババロアは降参するしかありませんでした。
しかしここで大きな問題が圧し掛かってきたのは言うまでもありません。
完璧に見えるババロアですが、唯一苦手なのが音楽です。歌などもってのほかです。とてもとても聞かせられたものではありません。それで仕方なくティラミスが舞台に立つ羽目になったのでした。
ソロパートに差し掛かりました。
ティラミスです。
のびやかで良く透った声に誰もがうっとり顔です。
なんて美しい声でしょう。
スポンジ姫は、ティラミスがここまで歌が上手いことを知りませんでした。
でもなぜなのでしょう?
ティラミスが戻って来ることことを、シュークリームは知っていたのでしょうか?
それならどうして教えてはくれなかったのでしょう?
複雑な思いを抱きながら見つめるスポンジ姫に、果たしてティラミスは気が付いてくれているのでしょうか?
そして、ピアノの曲調が変わり、ソプラノのメレンゲ先生と見つめあいながら歌うティラミスを、スポンジ姫はとても見ていられません。
「あいつは何をさせても器用にこなすな」
その声にハッとして顔を上げると、いつの間にか隣に立つ老人の顔をスポンジ姫はまじまじと見つめます。
「あなたは」
口に指を当て、ウインクをして見せるババロアを見て、スポンジ姫は愕然と見つめ返します。
「いやぁ何。これには深いわけがありましてなぁ。ここで話すのはちょっと」
腰を曲げすっかり老人口調のババロアだったのですが、どうしたことでしょう。
「まぁあなた様は」
ジェラートの恋のレーダーは、侮れません。
「これはこれはお美しいお嬢さんが、こんな老いぼれに何の御用かな?」
「ごめんなさい。私がお慕いしているお方の後ろ姿に似ておりましたもので」
ポッと頬を赤くしたジェラートが頭を下げます。
「もしやそれはわしの倅かのぅ」
「お惚けにならないで。私の眼はごまかせないんだから。こんな付け髭なんかして何をしているの?」
そう聞くジェラートに、口の前で、シッと指を立てて見せたババロア。
「参ったな君には。お忍びです。本当は仕事だったのですが、どうしてもお嬢さんの歌声が聞きたくて参りました」
「嫌ですわ」
恥ずかしさで、頬に手を当て俯くジェラート見て、ババロアはニヤリとします。
からかうなんてもってのほかです。
スポンジが恐い目を向けると、ババロアは肩を竦め、会釈をして行ってしまいました。
「あら、王子様は」
そう聞かれたスポンジ姫は苦笑で肩を竦めて見せます。
「私、ちょっと」
「駄目よジェラートちゃん」
スポンジ姫に手をつかまれ、恨めしく見つめてくるジェラートの眼には涙でいっぱいです。
「ジェラートちゃん、せっかく可愛くしてもらったのに、舞台に立たなければいけませんわ。それにお母さんとっても楽しみにしてくださっているっておっしゃっていたじゃない。あの方はきっと、ジェラートちゃんが緊張れるように、気遣ってくださったのよ」
「そうかなぁ」
「そうじゃないって証明する方が難しくない? だってこっそり変装してまで見に来てくださったんでしょう?」
「あそうか。そうよね」
少し残念そうに振り返るジェラートの手をしっかり握って、さぁいよいよスポンジ姫たちの出番です。




