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七の巻 真冬の決闘⑤

凍てつく寒さの中、どうしても一人になりたかったスポンジ姫は、後を追ってついてきたキャンディとライを巻くことに成功したのだった。

 風がだんだん強くなってきました。

 空もどんよりしてきたようです。

 心配になったライは、キャンディを偶然通りかかったベイグト達に預け、スポンジを追いかけます。

 風で舞い上がった雪で前が良く見えません。このままだと二人とも遭難しかねません。ここはおとなしく救助を要請しに戻った方が良さそうです。

 ライが戻りかけると、向こう側から蹄の音が聞こえ、おぼろげにシルエットが浮かんで見えます。それは確実に、ライの方へ向かって来るのが分かりました。

 「ライ」

 その声は、ティラミスです。

 「姫は?」

 「今さっきまで一緒だったんだべが、一人でウエハースタウンへ行くって」

 「一足遅かったか」

 「このままだと」

 「ライ、お前はパウンドの元へ帰れ。使いの者が来ておるようじゃ」

 「嫌だ。オラも一緒に行くべがよ」

 「ハッ」

 ティラミスはライの言葉を聞かずに木馬に鞭を入れました。

 ゴウゴウと風が唸りを上げています。

 「姫。スポンジ姫」

 ティラミスの呼び声も空しく、風に飲まれて行ってしまいます。

 

 その頃、前が全く見えなくなってしまったスポンジ姫は、それでも足を止めることはできません。一刻でも早く、真意を確かめたいのです。

 

 「まったくバカなことをしてくれたもんだ」

 戸口の前に立ったカステラおばさんは、ババロアを罵ります。

 ババロアは言い返す言葉もありません。

 まさか、あの話をスポンジに聞かれてしまっているとは、思いもしませんでした。

 まだ授業をしている時間です。

 辺りに十分気を使ったつもりだった。

 まさか登校したばかりのスポンジ姫が帰って来てしまうなどと、思いもしなかったティラミスは、スポンジ姫とティラミスの関係を取り持つべく行動を起こしていたのだが、何という不運。もうそう言うしかなかった。なかなか首を縦に振らないカステラおばさんに、ティラミスは次第に熱弁になっていた。

 「なぜです。二人は引き離しても引き離せぬ仲。それは承知のはず。無理に引き離すなんて」

 「お前は、あの二人が好き合っておるって、本気で思っておるのか」

 その時、突然扉が開く音がして、二人は自分の目を疑ってしまいます。

 そこには、居るはずのないスポンジ姫が立っていたのです。

 「スポンジ姫、どうなさいましたか?」

 まるで焦点が合っていない様子で、二人に向かってきたスポンジ姫。

 「……誰と……好き合っているっ……」

 「姫、気を確かに」

 その言葉に大きく目を見開いたスポンジ姫は、ババロアにものすごい剣幕で言葉を巻くし立て始めたのでした。

 「ティラミスが、誰かと好き合っているって。お相手は誰なの? さぁ隠さずにはっきり仰い。わたくしの知っている方なの?」

 「いや、そのような話は、何かの誤解なのでは」

 「嘘をおっしゃい」

 「おば様も、本当のことを教えてくださいな」

 「スポンジや、少しここへ座って落ち着きなさい」

 「わたくしは、落ち着いておりますわ」

 すっかり涙目になっているスポンジ姫を見て、ババロアは閃いてしまったのです。

 「分りました。姫様も知る権利はおありでしょう。実はティラミス、今回の帰還はスフレとの婚約の儀を執り行うためとか」

 一番聞きたくない真実です。まさかそんなこと。信じたくはない。しかしスポンジ姫はそれを否定しきれない自分がいるのを知っています。それは忌々しいくらい鮮明で、忘れたくても忘れられない去り際見せた、スフレのあの自信に満ちた顔です。

 「いずれ分かりますわ。ごきげんよう」

 「どういう意味よ」

 首をブンブン降るスポンジ姫に、ババロアは少し躊躇うようにこうも言い足したのです。

 スフレの気持ちは知っています。本人の口からきちんと聞いています。身分も同等。何も問題はありません。二人の気持ちが一緒なら、反対などしないはず。むしろ王様から祝福を受けるに違いありません。

 「姫……スポンジ姫様。気を確かに。これはあくまで噂で、明日にでも城へ参り、わたくしめが真意を確かめて参りましょう」

 ババロアのその言葉をまったく聞こえていなかったスポンジ姫は、真っ青な顔になり自室へ戻って行ってしまいました。

 カステラおばさんは、ずり下がったメガネの下から、ババロアを睨みます。

 「大丈夫でありましょう。姫様もだいぶ大人になられた。バカな真似は……」

 ババロアはまだ、スポンジの性格を把握しきれていないことを、この時は気付いていなかったのでした。

 それを知ったのは翌朝のことでした。

 

 部屋からまったく出てこないスポンジ姫でしたが、まだ外が暗い明け方のことです。物音に気が付いたカステラおばさんは、薄着のまま外へ出ようとするスポンジ姫の手を掴みます。

 「スポンジや」

 「あらおば様。おはようございます」

 「おはようじゃないよ。そんな恰好で、いったいどこへ行くんだい」

 「嫌ですわおば様。お忘れになったの? 風邪によく効く薬がウエハースで売っているから買って来てあげるって言ったじゃありませんか」

 「それは……」

 にっこり微笑むスポンジ姫の顔を見て、カステラおばさん、息を飲んでしまいました。

 まるで生気を失くし、目に輝きがありません。

 「しかしこんな朝早く、どこの店も閉まっていますよ。こんな雪が降る日に、慌てて買いに行かなくても」

 「まぁおば様、何をおっしゃっていますの。ゼラチン先生もよく仰っていますわ。風邪は万病のもと。早めの治療が大事って。ああそうですわ。薬を買いになんて面倒なことはやめて、ゼラチン先生に往診を頼みましょう。わたくし、今すぐお城に戻って呼んできて差し上げますわ」

 「スポンジや、いいからここへお座り。あなた、今日は少しおかしいからベッドで休んでいた方が良いわ。ゼラチン先生なら、ババロアに頼んで呼んできてもらいましょう」

 カステラおばさんに説得されたスポンジは、渋々とベッドへ戻りましたが、カステラおばさんの隙を狙って、窓から抜け出してしまったのです。

 慌てふためいている時にやって来たのがキャンディでした。

 とにかく一人にするわけにはいきません。少しでも足止めになるならと、ウエハースタウンへ嬉しそうに向った。と伝えたのでした。


知りたくなかった事実。居ても立っても居られず、城へ向かったスポンジ姫でしたが、吹き荒ぶ風に、行く手を阻まれてしまうのでした。

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