七の巻 真冬の決闘④
秋が終わり、寒い寒い冬の到来です。
カステラおばさんのお使いでハウスタウンへ向かうスポンジ姫。
町ではクラスメイト達が、雪で遊んでいました。
しかしそんなことにも目もくれず先を急ごうとするキャンディを追ってきたのは、キャンディとライでした。
「スポンジちゃん、歩くの早い」
雪で足を取られてしまって、なかなか前へ進めないキャンディが悲鳴に近い声で呼びますが、スポンジ姫は、全く足を止める気配がありません。
「だから、今日は諦めなさいってば」
「嫌よ。私だってウエハースへ行きたいもの」
「今日行ったところで、ドーナッツブラザーズに会えるとは、限らないのよ」
「それでもいいの。同じ空気が吸えていると思うだけで、私、幸せなんですもの」
「そんなものかしらね」
「そんなものよ。スポンジちゃん、誰かを好きになったことないの?」
ズキン。
息を荒げ近寄って来るキャンディに表情を読まれないように、スポンジ姫は無理して笑顔を作ります。
「さあ急がないと、日が暮れてしまうわ」
「待ってってば。スポンジちゃんのいじわる」
泣きそうになっているキャンディの手を取ったのは、ライです。
「ライ君?」
キャンディの顔が真っ赤に染まります。
「オラも一緒に行くべ」
「どうしてよ」
「この分だと、遅くなるべ。夜道は危険だからよ」
もうその言葉に、キャンディはうっとり顔です。
「良いわよ。わたくし一人で行けますわ」
「そんなこと言わずに、ライ君にお供頼みましょうよ」
「キャンディちゃんも、本当にいいから」
キャンディとライは顔を見合わせました。
ここまで拒まれると疑って欲しいと言われているようで、二人はジロリと見ます。
「な、何よその目は」
「ひょっとしてスポンジちゃん」
ゴクリと生唾をスポンジ姫は飲み込みます。
「ファンになっちゃったんでしょ?」「好きな人に会いに行くんだべが」
二人一緒に言われ、呆れるやら怒りたいやら複雑な表情をするスポンジ姫を見て、二人はまた勝手な想像を膨らませます。
「そうなのね」「そうだべが」
また同時に言う二人に、スポンジ姫は何も答える気が起こりません。
「それなら尚更、ついて行かなきゃ」
「んだべ。きっちりけりつけんべ」
「さ、行きましょう行きましょう」
歌でも歌うように言うキャンディに、スポンジ姫は嫌味をたっぷりこめて言ってやります。
「随分と気が合いますこと」
ポッと顔を赤くしたキャンディが、もじもじし始めます。
「行くだべよ」
まごまごして歩けないキャンデイの手を取ったライがそう言うと、スポンジ姫は肩を竦め諦めるようにまた歩き出したのでした。
これがキャンディにとって、どんなに一大事なことなのか知る由もない二人なのです。
顔がどうにもふにゃふにゃになって、仕方がありません。雪で足を滑らせるたび、グイと引っ張り寄せられライに大接近するのです。もう、心臓がどうにかなってしまいそうです。
落ち着かないキャンディは、胸の高鳴りがばれないようにライへ提案をします。
「ねぇ合唱コンクールの練習しながら歩かない?」
「それは……」
「ねぇスポンジちゃんも、こっちに来て、一緒に手を繋ぎましょうよ。歌、歌いましょうよ」
そんな心境じゃないスポンジ姫は、黙々と前を歩いて行きます。
「スポンジちゃん、みんなに秘密、ばらされてもいいの?」
ギクリとしたスポンジ姫は、振り返ります。
「何のことだべ?」
ライが、神妙な顔で聞き返します。
秘密って何のことでしょう?
「さあ早く、みんなと一緒に居られるのもあと少しなんだから」
内心穏やかでないスポンジ姫に、キャンディは屈託のない笑顔で手を差し伸べてきます。
「もうスポンジちゃん、最近おかしいんだから」
ひきつり笑いを返すスポンジ姫に全く気が付く様子がないキャンディは、もう指を振り始めています。
「キャンディちゃん、さっきのことだけど?」
聞きたくても聞けなかったことを、あっさり聞くライに、内心びくびくしながら耳を傍立てるスポンジ姫です。
「さっきの?」
白を切り通すつもりなのでしょうか。こんな可愛らしい笑顔の持ち主なのに、下心があっての行動だとしたら、スポンジ姫はゴクリと唾を飲み込みました。
「話していいのかな?」
「もうじらさないで、さっさと仰いなさいよ」
意味深な顔でかやんでぃに顔会を見られたスポンジ姫は、ついカッとなってついこんなことを口走ってしまっていたのでした。
「そんな、怒った口調で言うことなかんべぇ」
ヒックヒックし始めたキャンディに、バツが悪くなったスポンジ姫は、プイと横を向いてします。
「泣かんでもよかんべぇ。そんなんじゃウエハースへは行けねぇべ。スポンジちゃんも、ちゃんとこっちを向け。こんなの寂しいべぇ。ほら、仲直りするのは早い方が良いってばよ」
「キャンディちゃん、ごめんなさい。私、脅かすつもりはなかったのよ。ただ、おば様の薬を早く買いに行きたくって、悪気はなかったの」
「分かっている。分かっているの。でもスポンジちゃん、最近おかしかったから」
しゃくりあげながら言うキャンディに、スポンジは目を泳がせます。
「んだべ、何を考えているかさっぱりだった」
ティラミスのことを考えていたんて言えません。ましてや、ババロアから聞かされたスフレとの婚約話で、気がおかしくなりそうなことなど、口が裂けても言えるはずがありません。
陽が一つ傾き、冷たい風が吹きぬけて行きます。
一瞬目を離した二人でしたが、もうスポンジ姫の姿は見えなくなってしまっていたのでした。
信じがたい事実をかき消すように雪道を急ぐスポンジ姫でしたが、みるみる変わってしまう天候。
動転しきったスポンジの目の前に現れたシルエット。




