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七の巻 真冬の決闘①

キャンディやライの意外な一面を知ったスポンジ姫。

吐く息も白くなり、冬の到来です。

 ハイキングのあの日、みんなから外れこっそりパンの国へ帰るつもりだったライですが、どうしてもスポンジ姫のことを諦めきれず、パウンドさんに頼み込んで母親に手紙をもらったのですが、そう長く入られません。

 真冬の空気がピーンと張りつめる中、スポンジ姫はジェラート躰を寄せ合うように帰って行く様子を、鼻歌交じりにモンブラン先生が、職員室から眺めています。

 ここ数日、ティラミスは学校へ来ていません。それどころかスポンジ姫の前にも姿を露わさないのです。急に振り返ったスポンジ姫にばれないよう身を隠したのは、ライです。

 ライはあの日以来、どうにかしてスポンジ姫を自分の方へ振り向かせようと、様子をこうして窺っているのです。

 スポンジ姫はひょっこりティラミスが顔を出すのではないかと。何度も振り返りますが、矢張りどこにも姿はありません。カステラおばさんに聞いても、はっきり答えて貰えません。

 「スポンジちゃんてば、私の話を聞いている?」

 ジェラートに袖を引っ張られ、スポンジ姫は苦笑いで誤魔化します。

 ジェラートの話題はいつも同じでした。

 「あの方は今どこに居らっしゃるのかしら? スポンジちゃんは本当に知らないの?」

 うわの空で答えるスポンジ姫の顔を覗き込み、頬を膨らませるジェラート。

 「私の恋がかかっているのよ。もう真面目に答えてよ」

 そんなことを言われても、スポンジ姫がそれどころではないことぐらい知っているはずです。

 

 その頃ティラミスはお城に居ました。

 

 たかが子供の戯言。気にする必要などないのかもしれません。しかし、用心するにこしたことはありません。

 渋い顔を見せるババロアに、ティラミスは詰め寄ります。

 「いいか。くれぐれも慎重に動いてくれ」 

 「しかし、それで本当に良いのか?」

 「良いも何も、こうするのが姫のため。兄者もそう思われませぬか」

 城に帰って来るなりティラミスはものすごい剣幕で兵隊たちを動かしたかと思うと、その勢いでババロアの部屋のドアを開けたのです。そして開口一番に行ったのが、俺の代わりをしてくれ出した。何の話か要領得ませんでしたが、ティラミスの迫力に負け、つい頷いてしまっている。というのが今の実情である。

 「そう熱くなりなさんな」

 「くれぐれもよろしく頼んだ」

 自分が身に付けていたものを目の前に差し出し立ち上がったティラミスは、深々と頭を下げるのでした。

 我が弟ながら、何て不憫なのだろう。

 「やれるだけのことはするが、そう期待はしないでくれ」

 おどけて見せるババロアをティラミスは睨みます。

 「兄者」

 「分かった分かった。皆まで言うな。とりあえず俺がこれを身に付けて姫の護衛にあたればいいのだな」

 「左様。距離感はくれぐれもお間違いの無いよう、よろしく頼んだ」

 そう言い残し部屋を出て行くティラミスの後姿に、ババロアは首を竦めて見せます。

 まったく馬鹿げた話である。ナンセンス過ぎます。


 誰の心にも北風が吹き荒れる、寒い寒い冬の到来です。

 

 さて、学校は新しい行事の準備を始めようとしていました。

 水を打ったように静けさを保つ教室に、マシュマロ先生の甲高い声が響き渡ります。

 毎年冬になると合唱コンクールが行われるのですが、曲目に大揉めしまうのも、毎年恒例になってしまっているのです。

 「さぁどうします? 曲が決まっていないのはこのクラスだけですよ」

 腰をフリフリ一人ずつ顔を見たマシュマロ先生は、首を大きく振って見せます。

 「困りましたね」

 マシュマロ先生は、そっぽを向いて話し合いに参加しようとしないシュークリームの頭を、軽く小突き、教室の後ろまで行って戻って来るの繰り返しを何度かした後、大きく息を吐き出しました。

 「このクラスだけ不参加ってことになりますよ」

 こんな時、真っ先声を上げるはずのマドレーヌですが、ずっと俯いたままです。

 実はマドレーヌ、大概のことはこなせるのです。

 話し合いは進展しないまま、終了のチャイム鳴ってしまいました。

 「困りましたね。今日、決めてしまわないと間に合いませんよ」

 マシュマロ先生が困り果てていると、教室の扉がノックされ、ティラミスが顔を覗かせました。

 「ティラミス様」

 飛び上がって言うマシュマロに、ティラミスがにっこりとほほ笑んで見せたから大変です。

 卒倒しそうなマシュマロ先生を慌てて支えるティラミスに、スポンジ姫は眉を顰めます。

 「偶然、教室の前を通りかかったら、先生の麗しき声が聞こえてしまったものですから、ついノックしてしまいました」

 このらしくない発言も、仕草も気に入りません。これではまるでババロアそのものです。そのことを突き止めようと試みたものの、寸前で逃げられてしまっているのです。

 「あらわたくしとしたことが」

 「いえいえ。ご婦人を助けるのは男子たる者の使命。お気になさらず」

 しっかりる間で話そうとしないマシュマロ先生の手をさり気なくよけながら、今度はキャンディに向かってほほ笑んで見せました。

 「このクラスには、実に美しい声の持ち主がいるではありませんか」

 「あっ」

 そのことを知っているのはスポンジ姫とライ。そしてティラミスだけです。キャンディは自分の夢をスポンジ姫にだけしか話していません。自信もなく、人前で歌うなどもっての外。音楽の授業ではなるべく存在を目立たせないようにしていたのでした。

 「先生」

 勢い良く手を上げたスポンジ姫を指したのは、ティラミスでした。

 「どうしたんですか。スポンジさん」

 「ああいえ、キャンディさんがとてもきれいな声で歌えることを思い出したもので、それに、ライ君もです。二人のソロ部分が入れられる歌があれば引き立つんじゃないかなって」

 「まぁ素敵」

 うっとりした声を上げたのは、珍しくクレープです。

 歌わずに済む指揮者にすかさず立候補したのは、マドレーヌです。そこからは話がどんどん進み、残るは伴奏を誰がするかでした。再び静まり返ってしまった教室でしたが、これもまた珍しく手を上げたのはビターです。

 「ピアノはシュークリーム君が良いと思います」

 思いがけない名前が出て、スポンジ姫は驚きの眼で、隣に座るシュークリームを見ました。

 「いいよな」

 ビターに念を押されたシュークリームですが、口を尖がらせたものの何も言いません。

 「よっしゃ。じゃあ先生、俺サッカーしに行っても良いすか」

 何てことはありませんでした。男子たちは、早く遊びたかっただけなのです。シュークリームがピアノを弾けるなんて、聞いたこともありません。本当に大丈夫なのでしょうか。

 「そうですね。楽譜の用意もありますし、シュークリームさんの腕前もどれほどか試さなければなりませんので、練習は明日の放課後からってことで」

 「先生」

 今度はジェラートです。

 「どうせなら、先生方の合唱も聞きたいです」

 ジェラートも気が付いてしまったのでしょうか、髪を払い大人びた表情でまっすぐティラミスを見ているではありませんか。しかし、本当のことは何も分かりません。考えたくはありませんが、気持ちが変わってしまった。と言うこともあります。いずれにしても、心中穏やかで居れないスポンジ姫なのでした。

 

合唱コンクールに向けて、さぁ練習の開始です。

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