六の巻 実りの秋⑧
町で見るもの聞くものが楽しくて仕方がないスポンジ姫。秋も深まりもうすぐ季節は冬です。
さてティラミスたちがそんな争いをしていることなど、まるで知らないスポンジ姫は、初めて見る景色に大興奮していました。とにかく楽しくて仕方がありません。ショーが始まったばかりの頃は音量の凄さに耳を塞ぐ場面もありましたが、今は慣れてノリノリにリズムを取って大喜びです。こんな楽しいのなら、キャンディの嘘も許すしかありません。
七色に光るステージにウエスタン調の曲が流れ、それに合せてドーナッツブラーズの登場です。歓声が飛び交う中のトークも面白く、リズム担当のあんにウィンクされキャンディも大興奮です。ボーカル担当はオールドで、小麦色の肌にサングラスがよく似合っています。ツイストの切れ切れのステップに、リングのアクロバット。どれもこれもスポンジ姫には目新しく息を飲むことばかりなのです。
「スポンジちゃん、楽しいね」
音がうるさくてよく聞き取れませんが、スポンジ姫は笑顔で頷きます。
本来なら未成年者は出入り禁止なのですが、ティラミスが話をつけてくれて特別です。
「ユーたちも一緒に、踊らないかい?」
クルーラーが有無なしで二人は手を引っ張り上げられて、一瞬戸惑いを見せるスポンジ姫に、ツイストが横で踊って見せます。キャンデイは慣れたものです。クルーラーと腰を振り合って、ノリノリに踊って見せています。
「ベイビー。パッションだぜ。心を自由にして、躰でビートを感じればいいのさ」
オールドがそう言って、スポンジの手を取りくるくる回します。
だんだんテンションが上がってきたリングが、高速ヘッドスピンのお披露目です。それに負けじと複雑なステップを踏むツイストの手に、スポンジ姫が渡ります。
もうどうしていいのか分からないスポンジ姫でしたが、見よう見まねでステップを踏み、クルクルとスカートのすそを躍らせ、回って行きます。これにはさすがに目を回したスポンジ姫がよろめいてしまったその時でした。
「姫っ」
間一髪のところで間に合ったティラミスは、ハッとなり辺りを見回しました。
突然現れたナイトに驚き、音楽は鳴り止み、みんなが注目しています。
人目をはばからない行動もですが、それよりいつも冷静沈着なはずのティラミスです。見れば米神から汗が流れ落ちているではありませんか。
この状況を変えてくれたのがキャンディです。
「ギャハハハ。先生、学芸会はもう終わったのよ」
上機嫌なキャンディが、クルーラーの腕の中で言います。
「そうだべよ。本当はその役、オラがやりたかっただべよ」
遅れて入って来たライがステージに上り、ティラミスの手からスポンジ姫を引き離し、急に歌い始めたので、驚きです。それにどうでしょう歌が上手いではありませんか。
目を丸くして見詰めるスポンジ姫の手を取り、ライはスター気取りで歌い続けます。そこで割って入ったのが、キャンディです。
キャンディは歌手志望です。その話はもう何百回もスポンジ姫は聞かされていました。静かにライの手からスポンジ姫を振り解くと、そのまま熱唱を続けなんとなく伴奏が始まりました。そこにドーナッツブラザーズのダンスが加わり、誰の目もステージにくぎ付けです。
「さぁこちらへ。姫、お怪我はございませんか」
「なくってよ」
躰を支えられそのまま外へ出てきたスポンジ姫は、まともにティラミスの顔を見ることが出来ません。
「間に合ってようございました」
ホッとしたのでしょう。その場に座り込んだティラミスが前髪を掻き上げ、スポンジ姫に微笑みかけます。
こんな姿何年ぶりに見たのでしょう。スポンジ姫はもうこれ以上、自分の中に芽生えてしまった気持ちを、隠し通すことなど出来ません。
「ティラミス聞いて。わたくしねあなたのことを」
言いかけるスポンジ姫の口を指で押さえ、ティラミスはあたりの様子を伺います。
「何?」
「いや、何でもございません。これは失礼いたしました」
頭を下げるティラミスの懐から何かが飛び出していました。
「ティラミス何を持っているの?」
「姫が気に掛けるようなものではございません」
慌てて懐へしまい直す様子が、どうも怪しいです。
「だったらわたくしに見せられるでしょ」
「私的なものでございます。姫にお見せする必要はないかと」
ますます怪しいです。
「あるわ。大ありよ。だから早くその中のものを見せなさい」
「お止めください」
「どうしてよ」
「姫。今すぐ城へ帰られたいのですか」
強引に中身を見ようとするスポンジ姫の手が、ぴたりと止まりました。
あれほど早く帰りたかったお城ですが、今は楽しくって仕方がないのです。今のスポンジ姫にとって、その言葉がどれだけ酷なことなのか。
「ごめんなさい先生」
「分かっていただければいいです。これは大事な学校の資料です。今、見せるわけにはいきませんから」
通行人がそんな二人の会話を聞いて、安心したかのように過ぎ去って行きます。
「さ、落ち着かれたようなので中へ戻りましょう」
何事もなかったように中へ促すティラミスを、どれだけ恨んだことでしょう。
ステージからやっと降りてきた二人がスポンジ姫たちを見つけ、嬉しそうに近寄ってきます。さっきまでの楽しい気分は、どこへ行ってしまったのやら。ティラミスを隠し見たスポンジ姫の胸は、今にも張り裂けそうです。
遠目に見る二人の姿は、仲睦まじくライの目には見えてしまって仕方がないのです。
めらめらと燃え上がる嫉妬の炎に、ライはどんな手を使ってでもスポンジ姫を奪い取ると、深く深く誓うのでした。
ピーンと張りつめた空気を思い切り吸い込み、今日も元気なスポンジ姫にまたひと波乱がありそうです。




