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六の巻 実りの秋⑦

楽しみにしていたハイキング。しかしキャンディには別の目的がありました。何も知らなかったスポンジ姫も巻き込まれいざキャラメルハウスへ。

 引き留めるスポンジ姫の声を無視して足早にティラミスがやって来たのは、先ほどキャンディがしゃがみ込んでしまったそばにあった一件の店でした。

 あろうことかこの店のいたるところに、スポンジ姫の写真が張り巡らされていたのです。これは厳罰に値しますが、今は事を荒立てている場合じゃありません。

 店の扉を開けると、奥から愛想笑いの店主が出てきました。ティラミスは何も言わず、店中に貼り出されているスポンジ姫の写真を剥がし始めました。

 「お客様。何をなさいますか」

 「ええい、やかましい。全部買うと申せば文句はあるまい」

 「これ、全部でございますか?」

 素っ頓狂な声で聞く店主をひと睨みしたティラミスは、こうも続けました。

 「原本もだ」

 これにはいささか不信感を持った店主が、ティラミスの顔をなめるように見まわしてきました。

 「お客様、こんな小娘のどこがお気に入りで。それよりこちらの方が」

 「ならぬ。つべこべ言わず早く寄越せ。礼はたんまり弾む」

 有名女優の写真に目もくれず言うティラミスに、店主は訝りながらも奥から原本を取り出し包み始めました。

 何て忌々しいことなのでしょう。スポンジ姫が人前に立ったのは数回。それもあの気性です。立ったと言っても数分、いやいや酷い時は数秒でしかないはず。それがなぜ? 考えれば考えるほど、腹立たしくて仕方がありませんでした。

 しかしなぜこのようなものが出回ってしまったのでしょう。

 「やっぱきれいだべな。絵より全然良いだべな」

 背後から話しかけられて、ティラミスは咄嗟に身構え飛びのけます。

 「せれ全部、一人占めはズルいだべよ」

 そこには、額から汗をびっしり掻いたライが立っていました。

 「お主は何時だってそのお顔を拝見することが出来るだべよ」

 「ここでは何ですから」

 ライはコクリと頷き、先に店を出ました。

 ようやく緊張がほぐれたティラミスは、ふっと笑いを零しました。

 「やはりご存知でしたか。パン国王子ライ様」

 「この国と友好関係を結び、是非スポンジ姫を我が国へと招き入れたかった。その気持ちは今でも変わってはいねーべ。そんだけど」

 メレンゲ畑まで歩いて来た二人は、ベンチに腰掛けました。

 「で、それは譲ってくれるだべが?」

 大事そうに抱えられた袋を指し、ライが尋ねました。

 「それは出来かねます」

 「どうしてだべが」

 「あなた様もご存じのとおり、姫はお忍びで町で暮らしをしている身。いかなる理由でも、危険な目に晒すわけにはいきませぬ」

 「危険って。オラはただ純粋に、スポンジ姫を好いているだけだべ」

 「あなた様はそうかも知れませぬが、他のものがどう思っているか計り知れませぬ」

 「ティラミス様。あなたらしくもない。その様に過剰に反応されなくても」

 「なりませぬ。ああ見えても、やがては一国を預かる姫でございます。良からぬ企みをする者もおらんとは限りませぬ。これも何かの罠かもしれませぬし」

 目くじらを立てて言うティラミスに、ライは項垂れてしまいます。

 この数カ月暮らしてみて分かったことは、お菓子の国は、平和すぎるくらい平和な国です。争いと言えば子供の口喧嘩程度で、それだってとるに至らないほどかわいいものです。ティラミスが恐れていることなど、起こり得るはずがありません。

 「とにかく、これはわたくしめが保管を」

 その言葉を聞いた途端、ライは分かった気がしました。

 「それならそうと、素直に言えばいいだべが」

 「なにがでございますか」

 ずれかかった眼鏡を指で押し上げながら聞くティラミスに、ライは小さく笑って見せます。

 「オラとお主との仲だ。隠さなくても良いだべよ。そっかお主もスポンジ姫のこと、好いておるんだな」

 「な、何をバカなことを」

 「オラに嘘をついても無駄だ。恋をする者同士、腹を割って話すだべよ」

 「何を仰っていることやら、わたくしには分かりかねます」

 「そこまで言うなら、それをオラに譲っても良いだべ。絶対絶対秘密は守る。だから」

 懇願するライをティラミスは首を横に振り続けます。

 「出来ませぬ」

 「オラを信じられねーって言うだべが? それはパン国への冒涜になるがよ。断れば後悔することが起こるが、お主はその責任はとれるだべが」

 もうここまで来ると、半ば奪い合いです。

 包み紙が少し千切れ、今にも中身が飛び出しそうになっていましたが、それでも二人の言い合いは止まりません。ふと気が付くと、二人のそんな様子を心配して町の人が集まって来ていました。

 「アッ」

 指さすティラミスにつられ、みんなで空を見上げます。

 不覚にもこんな簡単な罠に引っかかってしまうなんて、ライは地団駄を踏んで悔しがります。

 「オラ、このままじゃ国になんて帰れんばい。オラ、スポンジちゃんのこと、諦められねーって決めた。おかんのお仕置きが恐くて、恋なんて出来んだべよ」

 決意も新たにしたライも、スポンジ姫たちが待つキャラメルハウスに向かって駆け出したのでした。

スポンジ姫の争奪戦はまだまだ続くよ。

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