六の巻 実りの秋③
街の暮らしにもすっかり慣れたスポンジ姫。クラスにもすっかり馴染み、来週末にはハイキングが待っています。そしてティラミスへの思いも……。
さて顔が真っ赤で、保健室の前まで連れられてきたスポンジ姫は、中へ入るのを躊躇われます。
「どうしたんだよ」
「矢張りお教室へ戻りましょう。わたくしは何でもなくってよ。ほらこの通り」
シュークリームの手を振り解き、元気ポーズをとって見せたその時です。保健室のドア開き中からひょっこりティラミスが顔を出してきました。
「こんなところで何をしているんです?」
「何でもありませんわ」
「お待ちなさい」
慌てて行ってしまおうとするスポンジ姫の手をティラミスに引っ張り返され、思わずバランスを崩して目が合ってしまったからもう大変。
みるみる顔が赤くなっていくスポンジ姫を見て、ティラミスが眉を顰めシュークリームに尋ねます。
「この症状は何時からです? 他に症状は?」
「オレもよく知んねぇけど、授業中、モンブラン先生の声が聞こえなくなって、顔が赤いと思ったら、フラフラって」
「少し立ち眩みしただけですわ。何でもありませんことよ。さぁシュークリーム君、お教室へ戻りましょう」
強引にティラミスの手からぬ請け出したスポンジをもう一度引き寄せ返し、怒った口調に言います。
「バカなことを言わないでください。早速メリケン粉教授、いや、この症状だとフィナンシェ女史に連絡を取った方が賢明か。どっちにしろさぁ早くベッドへ。シュークリム君、ありがとう。後はこの僕に任せて、君は教室へ戻り給え」
「そんなに悪いんですかこいつ」
「それは検査をしてみないと。どうかこのことは内密に」
「ちょっとティラミス、わたくしは本当に」
ひょいと抱え上げられてしまい足をばたつかせての抵抗も虚しく、保健室のドアを閉めるティラミスに、スポンジ姫は耳の裏まで真っ赤かになってしまっています。
「ちょっとどういうことよ」
「どうもこうもありません。さぁお静かに今すぐに先生をお呼びしますからね」
チラッとドアの方を見て言うティラミスの顔は、すっかり楽しんでいるのが丸出しです。
「ティラミスあなた」
受話器を手に、ティラミスは指を口の前へ立てて見せます。
「ああもしもし メリケン粉教授でいらっしゃいますか? 大変申し訳ございませんが例のあのぶっとい注射を持って学校までいらっしゃって下さらないかと」
「ちょっとティラミス、わたくしは本当に」
そこで保健室のドアが開けられ、ライが飛び込んできたではありませんか。
「姫はそんなに悪いのか」
「残念ですが」
「ティラミス、何を言っているの?」
「そうだったんだべか」
愕然としながらライは出て行ってしまい、スポンジ姫は本当に自分はどこか悪いbのではと錯覚を覚え始めてしまっていました。
「ティラミス、わたくしはいったいどこが悪いの? 包み隠さずさぁ仰い」
「では請謁乍ら申し上げさせていただきます」
急に畏まるティラミスを見て、スポンジ姫はギュッと唇を噛みしめます。
「まずはその頭、これはひどい。そしてその性格。もう手が付けられたものではありません」
「ちょっとティラミス。わたくしは真面目に聞いているのよ」
「ええですからわたくしめも、正直にお答えをした次第で。しかし姫に効く薬が果たしてあるのか疑問ですが」
「真面目に聞いたわたくしがバカでした。そうよねあなたってそういう人だったわよね」
ぷんぷんに怒って保健室を出て行こうとするスポンジ姫のその手を、ティラミスはすかさず掴み、ニッと歯を見せて笑って見せられ、これはたまったものではありません。
「いいから休んでお行きなさい。カステラおばさんが嘆いていらっしゃいましたよ。ここ数日、何も召し上がっておられないのでしょ。さぁこれでも食べて」
お弁当をテーブルいっぱいに広げて言うティラミスを見て、スポンジ姫はずるいと思います。
いつだってこうなのです。ティラミスは何時でも子供扱いで。
「それより姫、念のためですがスフレに何か食べさせられたり、飲まされていませんよね」
温かい飲み物を用意しながら聞くティラミスに、スポンジ姫はムッとした声で答えます。
「ええそんなもの。ああそう言えば昨夜、長話になって眠れないだろうからって、お茶を淹れてくれていたわね」
チラっと目を上げたティラミスが続けます。
「それは飲まれたのですか?」
「ええ頂いたわ。これでもレディですからね。人の好意はちゃんと頂かなければなりませんもの」
「左様でございますか。でしたらこのお茶も、残さず召し上がっていただけますね」
「当然ですわ」
その言葉ににっこりほほ笑んだティラミスが湯気のでるかぷを差し出します。
「お熱いのでお気をつけて」
「ありがとう」
優雅にカップを受け取り、一口飲んだスポンジ姫は歪めた顔でティラミスを見ます。
「ティラミス、わたくしに何を飲ませたの?」
「さぁ何も言わず一気に飲み干して」
嫌がるスポンジ姫の口へ、ティラミスが強引にお茶を流し込んできます。
まさかこんな形で裏切られるとは、そう思うとスポンジ姫は涙が止まりません。
「……これで、思う壺……」
薄れて行く意識の中で聞いたティラミスの言葉は、きっと忘れない。いいえ決して忘れてはならない。と心に誓うスポンジ姫でした。
あまりに時間が空きすぎて話をすっかり忘れてしまっていて、繋がっているか心配ですが再開してみました。




