表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/61

五の巻 芸術は爆発だ⑩

事実を知ったティラミスに迷いはありません。

 踵を返すと、一目散に森へ向かいます。

 しかし後を追いかけて来たスフレが、そんなティラミスのん蒔いて請うのです。

 「どうかわたくしだけを、愛してください。妹はもう助かりません。悲しいけど、妹キットの運命だったのでしょう」

 「何てあさましい。アポロよ聞くがよい。お主がいなくなったと知ったキットは我を顧みず東に噂有れば東へ西に姿を見たといえば東へと、厭わず探し回っていた.それが見よ。姉であるお主はうつつを抜かしよる。恥を知れ恥を」

 「酷いですわサンダー様。わたくしにおやまり下さいませ」

 ぎろりと睨んだティラミスに、スフレの目に怒りが灯ります。

 「断る」

 「いくらあなた様でも許しませぬ」

 振り払うティラミス目がけ、スフレは背中を一突きするのでした。

 「惨めよのぅ」

 血で赤く染まった手を眺め、逃げ去るスフレを憐れんだティラミスは、立ち上がることが出来ないままでした。

 そこへやって来たのは、ライです。

 「いか様になされた?」

 「面目がない。済まぬが手を貸してはくださらんか」

 「その躰で、どこへ向かうというのじゃ」

 馬から見下ろすライに、ティラミスは凛とした目を向けて言うのでした。

 「姫を救いに」

 「その躰では無理じゃ。足手まといになるだけじゃ」

 「行かねばなりませぬのだ。行かせて下され」

 「一刻を争う。うかうかとしてはおられぬ。あとはこのルックにお任せ下され」

 「お待ち下され」

 足に縋られ、ライはギクリと見下ろす。

 「ええい。何が起こっても知らぬぞ」

 そう言ってライはティラミスを後ろに乗せ、姫の元へと向かうのでした。

  

 魔女の手中に入ってしまったスポンジ姫は、気を失わされてしまいました。

 フツフツと煮えたぎる鍋を見て、魔女が不気味な笑い声をあげ、スポンジ姫に手を伸ばしかけた時です。鋭いくちばしを魔女目がけ、鷹が急降下して行きます。

 がしかし、鷹の裏切りは魔女には見えていたのです。

 間一髪のところで石に変えられてしまった鷹が、魔女の足元に転がり落ちます。

 鍋の中のものを掬い、スポンジ姫に飲ませようとする魔女の肩に、鋭い痛みが走りました。

 ティラミスが放った矢です。

 馬を乗り捨て、ライも剣を抜き飛び掛かって行きます。

 怒り狂った魔女は、魔法の矢を打ち放ち、ライの肩を掠めて行きます。

 腹に傷を負っているティラミスも、なかなか太刀打ちが出来ません。

 それでも最後の力を振り絞り、魔女を仕留めたティラミスは、すっかり変わり果ててしまったスポンジ姫を見て、嘆き悲しみます。

 一足遅かったかと、ライもその場に崩れ落ちてしまいます。

 あの輝くような美しさはなく、老婆のようになってしまったスポンジ姫を抱き上げ、歩き出したティラミスに、どこへとライが訪ねます。

 「ここでは、心、休まれんでしょう。美しい姫に似合いの場所へ」

 そう言い残し出て行くティラミスを見て、ライは初めて敗北を認めました。

 知らせを聞いた騎士団がやっとの到着です。

 その後ろから、心配そうに近寄ってきた老人に、ティラミスは足を止めます。

 町長役の、ミルフィーユ校長です。

 「なんて姿に」

 「何をおっしゃいます。充分美しいではありませんか」

 「あなた様は?」

 「申し遅れました。わたくしは聖者の国より参りました、王子でございます」

 「王子がまたなぜ」

 「わたくしは、やがて一国を預かる王になります故、世の中が、少しばかり知りたく、旅をしていたのでございます。ここはいごこちが良すぎました。少し長く居し過ぎたようでございます」

 一礼し、そのまま立ち去ろうとするティラミス。

 「娘を何処へ」

 「ええい。話にならん。貴様もあの魔女の手下であろう」

 無言で立ち去ろうとするティラミスに、切りかかって行ったのは、副隊長です。

 その剣をはじいたのは、隊長でした。

 他の騎士団も、首を振ります。

 

 ティラミスは森のはずれまで行くと、そっとスポンジ姫を降ろしました。

 二人が初めて出会った場所です。 

 永遠に目を覚まさない呪いを掛けられてしまったスポンジ姫に、ティラミスは迷うことなくそっと唇を寄せて行きます。

 どのくらいの時間が経ったのでしょう。

 大きく伸びをして起き上ったスポンジ姫は驚きのあまり、しばらく身動きが取れませんでした。

 大粒の涙がポタポタと零れ落ちます。

 「ティラミス様、ティラミス様、目をお覚ましになって。なぜこのようなお姿になられてしまったの? なりませぬ。わたくしを置いて、なりませぬ」

 両手で顔を覆て泣くスポンジ姫。

 自分の命を吹き込んだティラミスは、力尽きてその場で倒れてしまっていたのでした。

 嘆き悲しむスポンジ姫の元へ、魔女の死によって魔法が解かれた鷹が舞い下り、告げます。

 「今ならまだ間に合います。あの鍋のものを口移しで飲ませなさい。さぁ迷っている暇はありません。お急ぎなさい」

 鷹に告げられた通り、魔女の首飾りで鍋のものを掬い、すぐに舞い戻り、呪文を唱え一気に口に入れ、それをティラミスの口の中へ流し込みます。

 「目を開けるまで、絶対に唇を放してはなりません」

 どのくらいそうしていたのでしょう。

 微かにティラミスのまつげが動き、意識を取り戻したことを知ったスポンジ姫の目から、大粒の涙が流れ落ちます。

 その涙がティラミスの頬の上に落ち、目覚めの時を迎えます。

 みるみる顔色が戻り、どうしたことでしょう、皺くちゃになってしまったスポンジ姫の顔から皺がなくなり、元の美しい顔に戻ったではありませんか。


 ――やがて、正式に結ばれた二人を町中で祝福します。


 不貞腐れながら酒を煽るライの隣で、ジェラートが微笑みます。

 「いったいどうなっているんだ? あの醜くなってしまった姫をどうやって治したんだ?」

 「恋の魔法よ」

 「恋?」

 「そう恋。愛の力ってやつよ」

 そう言うと、ジェラートは笑いながら続けます。

 「何なら私、あなたの恋人になってさしあげましょうか?」

 ようやく言えた言葉に、ジェラートは大満足です。

 拍子抜けしたライの顔にキスをし、ジェラートは立ち上がります。

 まだまだこの町は大騒動が続きそうです。

 


 幕が下り、やっと緊張から解放されたスポンジ姫が放心状態で、天井を見上げ座っていると、一人の紳士が近づいてきました。

 「ブラボー。あなたが素晴らしい人で良かった」

 「あなたは?」

 「私は」

 チラッと後ろを見やってから、その紳士はウィンクして見せました。

 「シークレットです」

 ニコニコとそのまま立ち去って行った紳士を、きょとんとして見送ったスポンジ姫は、やっとそれが親善大使だったことに気が付きました。


 でもどうしてでしょう?

 急遽、具合が悪くなったスポンジ姫の代役に、スフレの名前が書かれたプログラムが配られていたはずです。

 これはすべて計画通りでした。

 ただ一つ違っていたのは、責務を果たしたいと言って、スポンジ姫に扮するスフレがやって来てしまったのです。

 何とか対処しなければなりません。

 当然、スポンジ姫の役は自分がやるものだと、スフレは勝ち誇った笑みを浮かべましたが、黙って引き下がるようなスポンジ姫ではありません。

 「あら良かった。少し私には荷が重いと思っていましたのよ。そうこなくっちゃ。それでこそ私のご自慢の従妹よ」

 衣装の交換を口実に、二人で控室へ戻って行きます。

 その騒ぎを聞きつけたババロアが待ち構えていました。

 「私、考えましたの。やはり国王の意に反することはいけませんことよ。ここは従来通り、わたくしが姫役をこなし、この国の象徴をアピールしましょう。そうすれば、姫さまだって、鼻高々でいられますわ」

 「ちょっと失礼ね。まるでわたくしがこの役をしたら、台無しになるみたいな言い方は、止めていただきたいわ。見ていらっしゃい。皆、私の虜にして見せますわ」

 「姫」

 プンプン怒って行ってしまうスポンジ姫を、追いかけようとするスフレの動きを、咄嗟的に伸ばされたババロアの手によって阻止されます。

 「これは何の真似です?」

 スフレの手には鋭く光るものが、握られているではありませんか。

 青ざめるスフレを見て、ババロアは冷ややかな笑みを浮かべます。

 何か耳打ちをされたスフレは、ギョッとした目でババロアを見つめ返すのでした。

 そんな経緯を知らないスポンジ姫は、ただただ驚くばかりで言葉が出てきません。

 「すべて、ご存じだったようでございますね」

 自分の娘は一人だけ。考え直したタルト王が、全てを正直に話したのです。これは大事な娘の成長するための勉強。どうかシークレットでお願いしたいと付け加えたのは、母であるクリーム王妃だったのでした。


 さてさて、本来なら森の精で、スポンジ姫に囁きを入れる予定だったムースは、高熱で出られなくなってしまったのでした。

 急遽、鷹が変わりを務めたのですが、気になったのでしょう。真っ赤な顔をしたムースが、うなだれてビターに慰められています。

 「ムース、帰ろう。私が送って行ってあげる」

 クレープに優しくされたのがよほどうれしかったようで、薄らと涙を浮かべたムースが頷きます。

 クレープはいつでもそうです。

 人前に出るのを嫌いで、見えないところで活躍してくれる縁の下の力持ちです。

 皆のためにお得意の裁縫で衣装を作ってくれたのも、クレープでした。


 そんなこんなで無事に終わった学芸会。

 今日はぐっすりと眠れそうです。

 スポンジ姫は帰り道、大あくびを何度もしながらカステラおばさんが待つ、家へと帰って行くのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=197037803&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ