一の巻 姫の旅立ち④
ティラミスの作戦成功です。
にやりと笑ったティラミス、部屋に向かって、お急ぎくださいと声を掛けて、自分の部屋へ戻って行きます。
さぁ、旅支度です。
出発は、1時間遅れの夕刻です。
スポンジ姫が、約束を守ったことがありません。それも含めての出発時刻です。
あまり人前に出たがらない姫の顔をほとんどの者が知りません。心配はないでしょうが、それでも用心は必要です。
ティラミスには、少し心配ごとがありました。それを国王や王妃に伝えるべきが悩みましたが、ぐっと胸の中にしまい込み、用心に用心を重ねることは、悪いことではありますまい。と、父に頼んで、伝えてもらいました。
矢張り、長年王に仕えて来た父、ココアの方が信頼は厚く、大事な決めごとには必要不可欠な存在なのです。
ティラミスは代々、王室に仕えてきた執事。
スポンジ姫とは幼馴染で、幼少期は、遊び相手としてお仕えしてきました。
本当の兄妹のように育てられた二人です。
15歳の誕生日を迎え、正式にスポンジ姫の世話役を仰せつかったティラミスは、我儘し放題のスポンジ姫に頭を抱えている王に、何の躊躇いもなく町に行くことを提案したのです。
もともと体の弱いクリーム王妃は、それを聞いただけでめまいを起こしてしまうくらい驚かれました。
そんな危険なことを、一人娘のスポンジにさせられないと、タルト王は激怒です。
しかし、日に日に弱って行くクリーム王妃。
タルト王もそんなに若くありません。
「先々のことを考えて下され。いつまでもこの平和は続くとは限りませんぞ。あのままの姫では困ります。勉強は疎かで、礼儀作法もほとんど身に着けておりません。それにあの跳ねっ返りなところも気になりますぞい」
強い口調でココアに言われたタルト王は、たじたじです。
「善は急げです」
ティラミスにそう言われたタルト国王は眉を上げ、フムと唸り、クリーム王妃がハンカチで目を覆います。
「出発は、姫の12の誕生日。それでよかろう」
「良く決断されました」
ココアはそう言うと、がっくり肩を落とされたタルト王の背中を摩ってやります。
ティラミスは、深々と頭を下げ、全ては6年後のこの日に向けて、極秘に用意が進められていたのです。