五の巻 芸術は爆発だ①
暴走し始めてしまった二人の先生に、ティラミスは手を拱きます。
このままでは、生徒たちが風邪を引いてしまいます。
「マシュマロ先生、ここは一旦教室へ戻って話し合われた方が」
やんわりというティラミスに、マシュマロ先生、ほんのり頬を赤くして答えます。
「いいえ。わたくし、この解放された感じが好きなの。この太陽の恵みの下、生徒たちののびのびした意見が知りたいですわ」
毅然とした態度を取られ、ティラミスは返す言葉がありません。
ティラミスは、ちらりとモンブランを見上げ、言葉を探します。
「しかし、折角の美肌が台無しになってしまわれたらと思うと、保健教諭としてはいただけません。特にマシュマロ先生ほどの、白く透き通った美しい肌の、ダメージは相当なものではないかと、心配です」
「まぁなんてお優しいお言葉。そうですね。子供たちにもこの紫外線は毒ざますわ。そんなことも気が付かないなんて、マシュマロ先生、女性の風上にも置けないでございますわ」
「あらあらそうでしたわ。わたくしたちは、クランチ先生と違って、滋賀一線に弱いですものね。わたくしとしたことが、うっかりしておりましたわ。さぁ皆さん、急いで中へ入りましょう。続きはお教室でしましょう」
マシュマロ先生が先頭を切って、大きな腰をフリフリ校舎の中へと、戻って行きます。
スポンジ姫も、キャンデイーとクッキー庭木を固められ、中へ入って行きます。
ジェラートが振り返り、ティラミスを見ます。
それに気が付いたティラミスが、微笑み返します。
その爽やかさに、ジェラートはとろけそうになりながらスポンジ姫を追いかけて行きました。
いったい、ティラミスの思惑は何なんでしょう?
スポンジ姫は、この展開に困惑しきっていました。
ティラミスが、身近にいて守ってくれている、そう思えば、嬉しい話ですが、どうも合点がいきません。
あの笑顔も、不自然です。まるで別人のようです。
「静粛になさって」
マシュマロ先生の勘不高い声が、教室中に響き渡ります。
「ほら前を向いて」
どういうわけか、クランチ先生までが、話し合いに参加するつもりで、教室の後ろに居ます。
二人の間に火花が散り、騒然としていた教室がやっと静まりました。
行き当たりばったりの話し合いでしたが、話が独り歩きをし、配役がどんどん上げられ、決められていきました。
残すのは、主役候補です。
「絶対、ヒロインはスポンジひ」
スポンジ姫に睨まれ、ライは言葉を改めます。
「スポンジさんが、姫役に向いているって、おらは言いたかったんだべよ。そんで、オラが、王子役で、ぴったりだべよ」
「それはどうかしら。ここは重要な役。大人に任せた方がようございますわ」
「それじゃあ、つまんねーだべよ」
「あらそう。ではこうしましょう。幼少期の姫を生徒たちに。成人した姫を、わたくしがするって方向で考えましょう。王子も同様の方が良くってね。幼少期をライ君、あなたがしてもよろしくってよ。成人はやはり若手のホープ、ティラミス先生にお願いたしましょう」
「待ってですわ。なぜあなたが姫役ってことになっているんでございます」
「品格の問題ですわ」
「はぁ。お言葉を返すようですが、それでは私がまるで、品格がないように聞こえざますわ」
「そう聞こえたなら、自覚がおありってことですわよね」
「待ってください。本来はわたしたち生徒による発表会で、どうして先生たちがでしゃばって来るんですか?」
「まぁ何ですのジェラートさん。その生意気な口は、許さなくってよ」
「先生、私もジェラートさんの意見に、賛成です」
マドレーヌが架線したのがきっかけで、生徒たち全員が同意です。
これにはさすがのマシュマロ先生も、クランチ先生も黙るしかありませんでした。
「ここは公平にくじ引きで選ぶっていうのは、如何かしら」
さすがのマドレーヌです。その意見に、全員賛成です。スポンジ姫に至っては、みんなが拍手をするので、合わせて手を打っただけのことです。何も耳に入っていません。一刻も早く家に戻って、詳細を聞かなければなりません。
スポンジはティラミスのことは、全部知っているつもりだったスポンジ姫の、衝撃は計り知れません。
あのウィンクは何だったのでしょう。
震えるような、甘い言葉だって、スポンジ姫は一度も掛けられたことがありません。
ジェラートに見せた、あの笑みだって、考えれば考える小戸、スポンジ姫の頭に血が上って行きます。
どうにも我慢が出来なくなったスポンジ姫が、勢い良く立ち上がりました。
考える前に、躰が勝手に動いてしまっているスポンジ姫は、一目散でドアに向かって行きました。
ドアを開けようと手を掛けた、その時です。
あまりの騒がしさに、教室を覗きに来たモンブラン先生と、鉢合わせになってしまったのです。
腕を強く掴まれたスポンジは、ギョッとしてモンブラン先生を、見上げました。
「スポンジさん、どうかされたのですか?」
後ろめたさが手伝ったのでしょうか。今日のモンブラン先生、怖く感じられます。
僕んと萎縮したスポンジ姫が、答えます。
「具合が悪いので、帰ります」
「それはいけませんね」
くるくる撒き毛の前髪を邪魔そうに掻き上げたモンブラン先生が言葉を発するよりも早く、ライが名乗りを上げました。。
「一人で帰るのは心配だ。おらが送って行ってやるべぇ。ええじゃろ。モンブラン先生」
「子供が送って行くのはちょっと送って行くのは」
「でしたら、わたくしが引率して差し上げますわ。ちょうど担任を受け持ってございまませんしね」
クランチ先生の棘ある言い方に、モンブラン先生も、苦笑いで誤魔化すしかありません。
「そ、そうですね。そうしてもらえると助かりますね」
「あら、でもこの後の職員会議で、この素晴らしい提案をしなければならなくってよ」
「だからおらが、一人で送って行くべよ」
「だったら、その役目、ジェラートが良いんじゃない?」
クッキーとキャンディが声をそろえて言います。
「どうしてだべよ」
「あんたは危険だからよ」
グミに突っ込まれ、ライは口ごもってしまいました。
そうです。クラスの全員が、ライの気持ちに気が付いているのです。唯一、分かっていないのが、当の本人、スポンジ姫だけなのです。
さて困りました。
二人は気まずい思いで、目を伏せてしまいます。
「ここは、私が連れて帰るのが一番のようですね」
モンブラン先生の白い歯が、キラリと光ります。
「いいえ、私、一人で帰れます」
そういうとスポンジ姫は、教室を飛び出しました。
「そういうわけには」
ここは担任の仕事とばかり、モンブラン先生が後を追いかけ教室を飛び出した途端、バランスを崩し、廊下に転がってしまいました。
「モンブラン先生、お怪我はありませんか?」
手を差し伸べられたモンブラン先生の顔が、少し青ざめています。
「ティラミス先生」
「スポンジはわたくしの妹、お任せあれ」
ものを言わせない迫力に、モンブランは息を飲みます。
その様子を一部始終見ていたものがおりました。
学級委員のミントです。
クランチ先生に後を追うように言われ、追いかけようとしたのですが、面前のモンブラン先生が視界から消え、代わりに現れたティラミス先生だったのでした。
授業の時とはまるで違う雰囲気に、慌てて身をひっこめ、そっと様子を窺っていたのです。
モンブラン先生の、歪んだ顔も気になります。
見てはいけないものを見てしまった気がしたミントは、口を万の一文字に結び、自分の席へ戻って行ったのでした。