四の巻 パンの国王子ライ⑦
スポンジの一大事を知らず、ティラミスの15分遅れの授業が始まっていました。
何とか話すチャンスを伺っているのですが、様変わりをしたティラミスへの注目は、生徒のみならず、先生方にも伝染しています。
職員室から理由を付けて初めにやって来たのは、音楽担当のマシュマロ先生です。分かりやすい人です。色白の顔は、薄ピンクになっています。遅れてやって来たのは、クランチ先生です。二人は少々仲がよろしくありません。案の定、言い争いが始まっています。
「あら、マシュマロ先生、こんな所で何をしていらっしゃるのかしら?」
「あなたこそ、授業はまだ終わっていませんことよ」
「ごめんあそばせ。わたくしの授業は、このあとなんですのよ。オホホホホ。何でも授業開始時間が押してしまったようなので、様子を見に来ただけですわ」
「それならモンブラン先生のように、職員室のベランダから、見ればよろしいのではありませんか?」
「あら、そうはいきませんことよ。押してしまった分をどうするか、ティラミス先生と話し合わなければなりませんわ」
「まぁまぁ。そんなことをおっしゃって、下心が見え見えですわ」
「あなたこそ」
「わたくしは」
「わたくしはなんなんです? 音楽担当のマシュマロ先生の出る幕はありませんことよ」
白い顔がもう真っ赤に染まってしまっているマシュマロ先生、やけくそになって言います。
「文化祭の、文化祭の出し物の考案中ですの。是非、ミュージカルをやろうと思いますの」
その声に、皆の動きが止まります。
「あの先生方」
困惑した笑顔のティラミスに話し掛けられ、はい。と飛び上がって返事をします。
「じ、邪魔ですよね」
笑みを残したまま頷くティラミスに、二人はとろけそうになります。
「マシュマロ先生、おら、その意見に賛成だぁ」
ライです。
みんながざわつきます。
「そのミュージカルっていう奴、おら、やってみたいだ。熱々のキュンキュンの物語をやるばい。ヒロインはスポンジ姫で、王子役はおらが務めるばい」
「おだまり」
ライの意見をぴしゃりと断ち切ったのは、クランチ先生です。
「先生方、ここはですね」
困り果てたティラミスが声を掛けます。
その眩しさに、クランチ先生、立ちくらみです。それをすかさず、ティラミスが支えました。
健康的な肌のクランチ先生の頬は、みるみる赤くなって行きます。
「大丈夫ですか?」
ティラミスの白い歯が光り、もうクランチ先生はくらくらです。
「そうですわ。文化祭は大変重要な行事です。先生と生徒の隔たりを取っ払い、親睦を図れる大事な行事」
悔しさに歯ぎしりをしているマシュマロの手を取ったクランチ先生、歌うようにそう言うと、ティラミスにウィンクをして見せます。
「そうです。恋を成就させるいい機会でもあります」
マシュマロの言葉に、クランチはきっとなり手を放します。
「とにかく先生方、その話はホームルームの時間にでもしてください」
「いいえ、今ここで決めてしまいましょう。丁度チャイムもなりましたことよ。これからはわたくしの授業の時間、モンブラン先生も、それでよろしくってね」
クランチは、ベランダで見ているモンブランに、了解を求めます。
ノーと言える雰囲気ではありません。ここは頷くしかありません。
配役はクランチとマシュマロが勝手に決めて行く中、スポンジはさりげなくティラミスに近寄ります。
そのことに気が付いたティラミスの唇が微かに動きました。
「大丈夫、わたくしに任せなさい」
その様子にいち早く気が付いたのは、やはりジェラートです。
「何今の?」
スポンジは耳打ちされ、えっと惚けます。
無言でティラミスがそんなジェラートの傍に寄り、シッと口の前で指を立てました。
「スポンジさんの病気では、この話は無理です。だから安心なさいと言ってあげただけです。特別のことではありません」
ジェラートはスポンジを顧みます。
「あなたがそばにいるから、安心はしていますが」
チラッとライの方を見たティラミスが言います。
「ぜひ、スポンジさんの力になってあげてください」
ティラミスにウィンクされたジェラートは、首振り人形のように、大きく何度も首を縦に振って見せました。
本当は、あまりスポンジとはかかわりたくはないのですが、ティラミスの頼みなら、致し方がありません。




