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一の巻 姫の旅立ち③

 部屋のドアをノックされたスポンジ姫は、不機嫌な声で、どうぞと返事をします。

 「御用は何かしら、ティラミス。わたくしはなくってよ」

 「姫様、お支度を」

 「何の支度かしら? 誕生祭はもう終わりました。あとは、わたくしの自由な時間だと思いますけど」

 嫌味たっぷりの言い方に、ティラミスは動じません。

 「お忘れですか姫?」

 ティラミスが、冷ややかな目を向け、頭の悪い方だと、ぼそりと呟きます。

 「今、何て言ったの? もう一度言って御覧なさい」

 にやりと笑ったティラミスが、もう一度同じことを繰り返します。

 「あなた、執事の分際で生意気よ」

 カッカと頭に血を昇らせたスポンジ姫が、キーッとティラミスを睨みました。

 「お言葉ですが姫、今日からしばらくは、私めはあなた様の兄役としてのご奉仕という、お役をタルト王より仰せ付かなかったのは、大分前のこと。お忘れになっては困ります。さあおバカな妹をもつ兄としては、こういう表現になってしまうのは致し方ないことと存じ上げますが」

 「まぁ、何ですってティラミス! 少しくらい年齢が上だからっていい気にならないで! だいたい、あなたは知らないの? 年齢なんか関係ないわ。男性よりも、女性の方がぐんと大人なのよ」

 「なるほど」

 ポンと、ティラミスが手を叩きました。

 「では姫、大人の振る舞いで、お支度の方、よろしくおねがします」

 そう言われ、キーッとなったスポンジ姫。


 「まったく有り得ないわ」

 スポンジ姫はぷんぷん怒りながら、クローゼットの服をベッドの上に次々と出していきます。

 「これはこれはお姫様、フリーマーケットでも始められるのでしょうか? それは大変良い心がけでございます。町では何かとお金が必要となります。何より働かなければなりませぬ。さすがはお姫様。良い心得でございます」

 すらりと背が高いティラミスは意地悪な笑みを浮かべ、スポンジ姫が散らかしたドレスをきちんとたたみ直し始めます。

 「何を言っているの? あなたはバカじゃないの?」

 腕組みをして言うスポンジ姫に、ホホーとティラミスは目を細めました。

 「姫様のおっしゃる通りでございます。私めはバカでございます。是非、利口である姫にお聞きしたい」

 細淵のメガネを一度持ち上げ、少し口元を緩めたティラミスが続けます。

 「姫様、町の者はどんな装いをされておりますでしょうか?」

 「まぁ、そんなことも知らないの?」

 目をまん丸くしたスポンジ姫が見下すように大袈裟に言うと、ゴホンと一度咳払いをしました。

 「良いこと、町の者は、それはそれは質素でここにあるドレスなど夢の夢ね」

 にやりとするティラミスを見て、スポンジ姫はハッと口を噤みます。

 「左様でしたか。やはり姫様は素晴らしい。このドレスは町の者を喜ばせるためにお持ちになろうとお考えで」

 スポンジ姫は返す言葉がありません。

 「さぁ姫様、急ぎませんと日が暮れてしまいます。お召し物は、こちらの3着で十分でございましょう。必要ならば町で調達すればよろしいかと思います」

 ティラミスが、カバンにしまい込んだドレスはどれもみすぼらしくて、一度も袖を通したことがない物ばかりです。せめて髪飾りはと言うスポンジ姫に、声を押し殺したティラミスが耳打ちをしました。

 「町は物騒でございます。物取りもおりましょう。身を護るためにも質素が一番でございます」

 スポンジ姫は目を見開き、喚き始めました。

 「そんなところへは恐ろしくて行けませんわ。あなたからお父様に今の言葉を一字一句間違わずにお伝えしてください。あなたが行かすべきじゃないと言えば、お父様の考えも変わるわ」

 「かしこまりました。ではしっかり申し上げておきましょう。臆病者の姫様はご自分の身を案ずるが故に、町の者の暮らしや治安を視察すべき仕事を放棄されたいと」

 「もういいわ。出て行って」

 「姫様、出発時間は20分後の3時です」

 「うるさい」

 スポンジ姫が投げつけた枕を受け止めたティラミスは、丁寧に頭を下げて、部屋を出て行きました。

 

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